第1190話 料理当番
遅れました。
今日は朝からデミグラス系やら唐揚げやらロールキャベツやらピザやらと、中々重いラインナップだった。
なので夕食は軽めのメニューがいいなぁ……なんて思いながら村長さんの家に戻るのだが、なぜかアレク君も一緒に付いて来ている。
そういえばアレク君がピザ作りに参加してたけど、いつの間に合流したんだろう?
たしか彼は家族団欒の真っ最中だったはずだよな?
「えーっと、そうしてたんですけど、父さんが一角鹿を獲ってきまして……。それで、お裾分けにと肉を持って来たらクレアに……」
「なによ。あんなに忙しかった所に応援の手が来たのよ。当然、手伝わせるでしょ」
…………今、応援の手って部分に変なルビがあったのは気のせいだよな?
まぁアレク君の参戦で、あのてんてこ舞いな状態が格段に改善されたのは確かだけど、それでも差し入れに来た人間を手伝わせるってのはどうなんだ?
アレク君が寛大だったから良いようなモノの、俺みたいに器が小っちゃいヤツだったら、頼まれた途端に逃げるか縁を切ってるところだぞ。
大体、クレアは常日頃からアレク君をいい様に使いすぎだと思うぞ。
彼はお前の奴隷では無いのだから、もう少し感謝の心をもって接するべきだろ。
まぁ、俺もアレク君には色々任せっきりにしてるから、声を大にしてクレアの事を注意出来ないが。
「そんな事より、肉よ、肉! 美味しそうな匂いをずーっと嗅いでいたから、もうお腹がペッコペコよ。さっそく焼いて食べましょうよ」
「…………」
Oh……、こっちはピザを見ていただけで胸焼けしそうだってのに、元気なもんだな。
これが若さというモノか……いや、俺も二十歳に若返っているんだから、ガッツリ系でもモリモリ食えるはずなんだけどね。
どうにも向こうの世界の感覚に引っ張られちゃうよな。
ただ、気難しい……というか人見知りなアランさんからのお裾分けなのだ。
胸いっぱいだからと断るのは、アレク君との今後を考えれば愚策でしかない。
ここは無理をしてでも食うべき時。
となると、しゃぶしゃぶ……いや、ここはもっとサッパリした冷しゃぶあたりか?
鹿肉で冷しゃぶなんて聞いたこと無いけど、何事も試してみないと美味い不味いは分からないよな。
実際、モグラの肉だって、食ってみたら美味かったし。
じゃあ早速アレク君に……って、アレク君は自宅に戻るんだった。
今はクレアの強引な勧誘で一緒にいてくれるけど、本来は家族団欒中なんだし、これ以上引き留めるのはダメだよな。
俺から家族と居るように言った手前、今更夕食を作ってくれとは言いにくいし。
でもそうすると、冷しゃぶは誰に作ってもらえばいいんだ?
シャーロットだと多少は当てにはなるかもしれんが、彼女の得意料理……というか唯一出来そうなのはコッコゥのカリカリ揚げぐらい。
つまり焼いて終了なメニューなので、シャーロットに任せると恐らくマンガ肉のような代物が出てくるだけだろう。
それはそれで食べてみたい気もするが、やはり肉オンリーは少々重い。
もう少し軽めのメニューが作れる奴に任せたい。
シュリは……まぁ論外だな。
割と色んなメニューを知ってはいるようだが、知っているのと作れるのはまるで違う。
お手伝いぐらいは出来るようだが、全部任せるのはかなり不安要素がある。
それに彼女が持つ『薬学大全』のスキルも怖い。
自然界でも、ミラクルフルーツのような酸味を甘く感じさせる作用のある果物があるぐらいだ。
ありとあらゆる薬物の知識が詰め込まれている、という触れ込みのチートスキルにその手の怪しいオクスリがあっても不思議ではない。
少々不味かろうと、薬で誤魔化すぐらいはしてきそうだ。
レイアちゃん達は、ハナッから当てにしてない。
俺達と同じような味覚を持っているようには見えるが、その本質はヒトではなく龍なのだ。
火龍のブレス焼きとかなら名前にひかれて食ってみるかもしれんが、生肉のまま出されでもしたら困る。
俺の胃袋は人並みであり、生肉もOKなドラゴンとは違うのだ。
それに、あの方達に料理をお願いしたら、俺が料理されそうだしね。
まぁここは俺がやるしかないか。
冷しゃぶなら薄くスライスしてシャブシャブするだけだし、冷やすのはシャーロットに氷を作ってもらえばいいだろう。
料理できる男子をアピールすることで、俺の好感度を上げるのだ。




