第1189話 ご当地○○
ほぼ村中の人達が集まったかと思われたピザ祭りだったが、どんなイベントにも終わりの時はやって来る。
具体的にいえば、材料が無くなった。
チーズは既になく、現在はチーズを使わないピザ『マリナーラ』を提供していたのだが、それもこの一枚で終了になる。
というのも『マリナーラ』の要ともいえる、ケチャップが無くなりそうなのだ。
量産を開始したとはいえ、まだファーストロットが出来たばかり。
そのファーストロットもエレさんがほぼ全てを買い取っている。
ピザ祭りに使えたのは、出荷に適さない試作段階のケチャップぐらいだったのだ。
最期の一枚と聞き、先程のチーズが終わったときの事を思い出す。
あの時は未だ食い足りない村人達と揉めそうになり、あわや一触即発の事態となっていた。
しかし、キャスカさんがピザ祭りの終了を宣言しても、村人達は怒ることなく大人しく解散していった。
まぁ一人一切れ(八つ切り)ぐらいしか配れなかったチーズを使ったピザの時とは違い、一人に付き半分ぐらいは配れたからな。
それなりに腹が満たされれば、大抵の怒りは収まるよな。
あれほど人の波が押し寄せていたピザ祭り会場だったが、終わってしまえば閑散としていて物悲しさすら漂わせている。
幸い、この手のイベントでよくあるような、食いカスだらけゴミだらけにはなっていないので、後片付けはピザを作るのに使っていたテーブルを片付ける程度でいい。
それすらもご婦人方がやってくれるそうなので、俺達は楽なものだ。
「いやー、マリナーラっスか? チーズの無いピザなんて初めて食べたっスけど、アレはアレで美味しかったっスね」
「そうですね。味付けがシンプルな分、ケチャップの味がよく分かるピザでした」
「ケチャップだけじゃなくて、マリナーラも村の名物にしても良いわね」
「…………」
シュリやアレク君達も大絶賛だな。
そんなに褒めてもらえると、提案した俺の鼻も高い。
マリナーラを作ったのは俺じゃなくて、大昔のナポリ人だけど。
「ちょっと。村でもケチャップを前面に出したピザなんか名物にされたら、マルゲリータの方が霞むじゃない」
「マルゲリータの方は、チーズを作ってる所で出せば良いのでは?」
エレさんがマルゲリータのインパクトが薄れると危惧しているので、俺は別の所で出すことを提案してみる。
別にマリナーラだけがピザでは無いし、マルゲリータも同じだ。
むしろその土地ならではの食材を使った、ご当地ピザがあってもいい。
山なら山菜やキノコ、海ならシーフード、チーズの産地ならクワトロ・フォルマッジ。
シャノワさん達のソーセージを使ったピザもいいし、香辛料の町ヘルガナならカレー粉を使ったピザなんてのもいい。
そこでしか食べることの出来ないピザがあってもいいはずだ。
「なるほど……その土地での食材を使ったピザね……」
「コンセプトは『自身はその土地に行けなくても、そこに行った気になれる』だな」
向こうの世界と違って、こっちは未だ街道に魔物やら盗賊が現れるため、気軽には旅が出来ない。
様々な町に移動するのは商人か冒険者ぐらいか。
一般人にとって、他所の町とは話に聞くだけの存在なのだ。
「そうか……町の外に出なくても、他所の町の名産品が味わえる……流通に関してはウチの商会なら何とできるはず……これなら……」
なんかエレさんがブツブツ言い出して怖い。
時々「ぐふっ」「ぐふふ」なんて声まで漏れてるし。
その不気味さに、ついつい距離をとってしまう。
あ、違うんだよ。
これは今流行りのソーシャルディスタンスってヤツなんだよ。
決して、お仲間とは思われなくないってワケじゃ無いんだよ。
……ソーシャルディスタンスってなんだ?
まぁ何はともあれ、これでケチャップの実力は村の人達にも周知できた事だろう。
これでトマトの栽培にも力が入るだろうし、ケチャップ工場への風当たりも良くなる筈。
そう思えば、俺も頑張って生地を延ばしまくった甲斐もあるってもんだ。
不意に感慨深くなり、思わずグっと両手を天に突き出す。
「どうした? 急に手なんか伸ばして」
「あ、いや、散々生地を捏ねてたからな。なんか肩がこっちゃって」
「そうだな。私も大変だった」
俺の咄嗟の言い訳にシャーロットが肩を揉み始めるが、お前の肩コリは別のモノが原因だと思う。
クレアが居るんで、あえて口には出さないが。
「いや、お前は切り分けて提供してただけだろうが」
「そんな事ない? 切り分けるのだって、同じ大きさになるよう気を使って切ってたのだ」
そうだったな……「アイツの方が大きい」だの、「向こうの方がチーズが多い」だのと騒ぐ奴もいたしな。
きっちり等分になるように切るのも、気を使っただろう。
「はいはい。そんなに大変だったなら、薪割りしていたベルと代わっても良かったんだぞ?」
「…………」
おっと、ベルが心底イヤそうな顔で首を振ってる。
まぁ確かに無口な彼女が切り分けて提供しているシーンは、少々違和感があるな。
誰にだって適材適所ってモンがあるし、彼女は裏で薪割りしている方が似合ってるか。
「そんな事より、お腹空いたっスよ。今日の夕食は何っスかね」
「さぁなぁ……とりあえずピザは暫く見たくないな」
「……っスね。ピザは好きっスけど、もうお腹いっぱいっス」




