第1185話 チーズ作りに必要なモノ
「なるほどな。ケチャップの使い道か」
「そうっス。自分たちがどんなモノを作ってるか、知って貰った方が作る方にも身が入る筈っス」
パン窯から美味しそうに焼けたピザを取り出し切り分けながら、シュリはピザ祭りが急遽開催された理由を話してくれた。
うーん、チーズの焼ける香ばしい匂いと、ザッザっと出来立てのピザを切り分ける小気味いい音は、先程昼飯を食ったばかりの俺の胃をこの上なく刺激するな。
満腹になっている俺ですら「食いたい!」と思ってしまう程なのだから、未だ空腹であろう村人たちが殺到してくるのも仕方ないか。
「それでピザを作って振舞ってたのか」
「ナポリタンでも良かったっスけど、麺を作る手間があるっスからね」
いや、ピザだって生地は作らないとだろうが。
まぁ茹でる手間も考えればナポリタンよりピザの方が楽かもしれんが、ピザの場合はチーズが必要だよな。
どっからチーズを出してきたんだ?
「いやー、エレさんが交易用のチーズを持ってて助かったっスよ。これが無ければ作ってたのはピザじゃなくてホットドッグだったっス」
「いや、ウチとしてもチーズの面白い使い道を知れたからね。いい商いだったよ」
シャーロットが作ったピザ窯から、シュリと同じようにピザを取り出し切り分けているエレさんが、頬を炭で黒くしながら良い笑顔を見せている。
チーズは保存食として使われるのが専らなので、こういった使い道はエレさんも初めてみたらしい。
これはピザを通してケチャップとチーズの普及をするのも良いかもしれんな。
ケチャップは調味料として優秀だけど、調味料だけではメインにはなり得ない。
こうしてケチャップを使った料理も一緒に普及したほうが、それだけケチャップの普及にも繋がる筈だ。
その為にもピザの事をみんなに教えたのは良い案だと思う。
シュリはホットドッグを出そうとしてたけど、そっちだとソーセージが必要になる。
こちらはチーズと違って供給元が王都にいるシャノワさん達しかないため、こちらは下手に普及させると彼女達への負担になりかねない。
ソーセージの作り方自体は俺達も教わっているが、彼女達の許可を取らずに教えてしまうのはダメだろうしな。
その点、ピザならチーズとケチャップ、バジルがあればマルゲリータが作れる。
どちらも量産体制が確立されているので、普及させてしまっても負担にはならないだろう……ならないよな?
チーズって熟成が必要なのもあるけど、出来てすぐに食べるフレッシュチーズタイプもあったはずだから、急に需要が増えても大丈夫だよな?
ちょっと不安になったので、エレさんに聞いてみる。
「熟成させないチーズ? あぁ、そういうのもあるね。ただ、保存が効かないから、作っている所ぐらいでしか手に入らないよ」
むぅ、すぐに出来るチーズは賞味期限が短いタイプか。
まぁチーズを作っている村はあちこちにあるようなので、フレッシュチーズでもなんとかなるか。
ならなかったら……まぁホットドッグ販売に路線変更かねぇ。
「それにチーズを作るには、子牛を潰す必要がある。先の事を考えれば、そんな大量にはチーズは作れないよ」
「え? そうなんですか?」
「あぁ、アタシも又聞きだけど、なんでも子牛の胃液でチーズを固めているらしいよ」
「あー、レンネットっスねー。アレが無いとチーズは固まらないっス」
豆乳を固めて豆腐を作るのにニガリが必要な様に、チーズを固めるにはレンネットとやらが必要らしい。
そしてそのレンネットは子牛を潰さないと手に入らない。
かといって子牛を潰しまくってしまうと、次世代の乳牛が育たなくなってしまう。
あちらが立てばこちらが立たずとはよく言ったモノだ。
これは本当にホットドッグ路線へと切り替える必要があるのか?
いや、待て、チーズを作るのに一々子牛を潰していたのでは、現代日本にあれほどあったチーズの説明がつかない。
なにかカラクリがある筈だ。
例えばそう……何かの薬品をレンネットとやらの代りに使っているなんてのはどうだろう?
甘味料や保存料すら合成していたぐらいだ。
レンネットだって化学の力で子牛以外から手に入れる事だってしていたはず。
つまり……シュリの『薬学大全』に答えはある。




