第1184話 再びのPIZZA
アレク君のご両親に挨拶を済ませた上、昼食まで一緒にいただいてしまった。
これはもう家族ぐるみのお付き合いと言っても、過言では無かろう。
アランさんの鋭い眼光も、実は人見知りで緊張しているだけと聞いてホッとしたのもあり、挨拶・昼食会だけでなく食後のお茶会まで付き合ってしまったぜ。
まぁお茶と言ってもアレク君が淹れてくれた麦茶だけど。
この辺じゃ麦は大抵パンにされるせいか、煎ってお茶にするって発想が無かったらしく、麦茶は大変喜ばれた。
ある意味、これもアレク君の成長の証だな。
特に麦茶を気に入ったのがアルマさんだった。
お茶といえばハーブティーが主流なんだけど、どうにも好きになれなかったようで、食事中や食後に飲めるものがないのが悩みの種だったそうな。
流石に真っ昼間からワインやエールなどのアルコール類を飲む気にはならないしね。
真っ昼間どころか朝からビールサーバーを占有している、どこぞの元魔王様や火龍の王様も見習ってほしいものだ。
そんなお茶会という名の食休みタイムは、十分程度で終わってしまう。
というのも、アランさんが森に仕掛けた罠の様子を見に行く頃合いになったらしい。
しばらく会っていなかった息子が戻ってきたというのに、狩人とは忙しない職業のようだ。
まぁ罠の確認は本当なんだけど、普段なら夕方頃に確認する作業らしい。
なので本当の所は単に居辛くなっただけっぽい。
だったらアレク君を置いて、俺達はお暇しようかね。
多分、今日はウルザラ村に泊まることになるだろうから、アレク君はこのまま家族と過ごしてもらうとしよう。
ベルはとっくに家族に会いに行ってるし、クレアだってキャスカさんという姉に会っている。
彼だけがケチャップの確認で、家族に会えていなかったのだ。
そのことをアレク君に伝えると、始めは遠慮していたが「今は首輪は付いてないのだから、自由に過ごすべき」という俺の説得に折れてくれた。
アレク君としても、やはりもう少し話がしたかったらしく、今はいそいそと装備を身につけ、出掛ける準備をしている。
どうやらアランさんを追いかけるつもりのようだ。
アルマさんとは食事の支度のときに多少は話が出来ただろうが、アランさんとは奴隷になった経緯を説明する際の事務的なやり取りしか出来なかったからな。
彼としても色々と話したいことがあるんだろう。
森に向かうアレク君をアルマさんと一緒に見送った後、俺達もシュリ達と合流することにした。
シャーロットと連れ立ち、テクテクとシュリ達が居るであろうケチャップ工房に向かって歩いていると、工房のあたりに人だかりが出来ている。
すわ工房建設に反対のデモか? と一瞬思ったが、それにしては建設反対のプラカードを持っている人がいない。
ならばケチャップの美味しさを知った村の人達が、ケチャップを買い付けに殺到したのだろうか?
色々な可能性を想定しながら人だかりに向かってみると、そこにはシュリやエレさん、キャスカさんといった面々が、何やら円盤状のモノを配っている様子が伺えた。
いや、円盤状のモノでは無いな。ありゃピザだ、PIZZA。
何故かは知らんが、シュリ達がピザを焼いて村の人達に振舞っている。
ただ、なにやら修羅場めいた雰囲気も感じられるんだよな。
見るとシャーロットも同じような雰囲気を察したらしく、来た道を引き返そうとしている。
もちろん、俺も踵を返そうとした。
「あ! いい所に来たっス! ……って、逃げないで欲しいっス! みんな、ショータさん達を確保して手伝わせるっスよ!」
が、遅かった。
俺達の姿を目敏く見つけたシュリが、村人たちすら動員し捕まえに来やがったのだ。
慌てて逃げだそうとする俺達と、捕まえようとする村人たちとの鬼ごっこは、すぐさま終わった。
シュリの指揮が良かったのか、それともこの村の人達の練度が凄いのか。
日々の実戦とシャーロットのシゴキにより、それなりに強くなったつもりの俺でも多勢に無勢では無力だった。
あっさり包囲され逃げ場を失った俺とシャーロットは、シュリの前へと連行されてしまう。
いくらコチラが手を出しにくい状況だったとはいえ、俺はともかく元魔王様まで捕まるなよ。
「いやー、二人が来てくれて良かったっスよ。ちょうど手が足りなくなった所だったっス」
「捕まってしまった以上は大人しく手伝ってやるけど、理由ぐらいは説明してもらえるんだろうな?」
「そうっスねー。とりあえず生地を延ばしてくれたら教えるっスよー。あ、シャーロットさんはピザ窯を作って欲しいっス」
ピザ生地を延ばすぐらいなら俺でも出来そうだな。
以前、ガロンさんの宿でもPIZZA祭りをした事があったけど、あの時からちょっとピザ生地を延ばしてみたかったし。
事情を聴くためにも、手伝うしか選択肢はなさそうだ。




