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第1183話 成長の証

「すみません、お待たせしました」

「じゃーん。今日の昼食は、なんと二品もあるのよ」

「……ほう」


 アレク君とアルマさんの二人が、完成した昼食を毛皮の敷物の上に並べていく。

 その出来栄えに、俺の睨みつけていた(被害妄想)アランさんの視線が緩んでくれた。

 ようやく蛇に睨まれた蛙状態から解放されたのはありがたいのだが、大皿に載せられた茶色い物体の方はともかく、スープ皿の方はちょっと不安定じゃないのか?


 まぁ敷物の毛足は長いけど、結構な年数使われているせいか少々へたり気味になっているし、ソーっとしておけば大丈夫か。

 もっとも、万が一溢したとしても、シャーロットの『超洗浄』があれば簡単に綺麗になるから良いんだけど……って、溢すことを前提にしてたらダメか。


「これは……唐揚げとロールキャベツか?」

「はい! ホタカは唐揚げにして、モグモルはロールキャベツにしてみました」


 シャーロットの問いかけに、アレク君がやり遂げた感のある顔で元気よく答える。

 なるほど、茶色い物体の方が唐揚げなのは分かる。

 途中、アレク君の要請でバックドアを呼び出した時、彼が持ち出していたツボには油が入っていたようだしな。

 その油で揚げたのだろう。


 でも、ロールキャベツが赤くなっているけど、まさか唐辛子入りのユッケジャンスープ仕立てとかじゃ無いよな?

 脳裏に韓流ブームのときに食べた、激辛ユッケジャンの味が蘇ってくる。


「アレクってば、色々な料理を覚えてきたのよ。このロールキャベツなんて、他所の国の料理らしいわよ」

「あちらではコンソメスープだったけどトマト煮っぽくしても美味しかそうだったから、今日はトマトスープで煮込んでみたんだ」


 よかった、激辛スープに悶える俺は居なかったんだ。

 この赤いスープはカプサイシンの赤ではなく、トマトのリコピンの赤なんだ。

 これがシュリの言なら一抹の不安は残ったままだけど、アレク君の言葉なら大丈夫。

 安心してスープを頂くとする。


 うん、美味い。

 アレク君の料理にハズレは無いが、今日のは一段と美味い気がする。

 両親に自身の成長を見せるため、気合を入れて作ったんだろう。


 しかし、モグラというかモグモルの肉なんて初めて食ったけど、あまり癖のない味だな。

 牛とも豚とも鳥とも違う食感と味わいだが、これはこれで良い。

 シャーロットが「モグモルを見かけたから狩るぞ」と言うのも分かる気がする。


 逆にホタカの方は、言っちゃなんだがイマイチなんだよな。

 それなりに脂が乗ってはいるが、それよりも気になってしまう硬さがホタカの肉にはあった。

 ホタカの羽ばたきは、モグモルと俺すら持ち上げてしまう程のムキムキマッチョ故、その肉はとても硬い。


 アレク君も色々工夫してくれたようだけど、その弾力性は三個食べただけで顎が疲れるレベルだった。

 正直、鳥肉を食うというよりスルメを齧っている気がしてきたほどだ。

 ホタカの肉こそ、煮込み系の料理に使った方が良いのではなかろうか。


 料理に関して素人もいい所の俺でもそう感じたのだ。

 アレク君を見ると、明らかにションボリした顔になっている。

 だよなぁ……多分、自身の成長を示すために『揚げ物』という失われた料理法を使ったのに、結果は今一つとなれば、そんな顔にもなるよなぁ。


 でもな、アレク君。

 失敗ってのは成功の母って言うだろ?

 確かに今回のホタカの唐揚げは今一つだったかもしれないが、今回の事でホタカの肉が硬いってのは学べただろ?


 だったら他の料理法を試してみてもいいし、唐揚げに拘るなら下拵えの段階で柔らかくする方法だってある。

 たしかパイナップルやヨーグルトに漬け込むと、肉が柔らかくなると何かの料理マンガで見た覚えがある。

 どちらもコッチじゃ見たことないが、それでも何らかの工夫は出来るはずだ。


 失敗の格言に「成功するためには、成功するまで続けることである。途中で諦めて辞めてしまえば、それで失敗である」なんて言葉がある。

 これは確か松下幸之助の言葉だったかな?

 俺も色々と失敗してきたから、この手の格言にはいつも助けられてきた。


 失敗ってのは間違った道を進んだことじゃなくて、その歩みを止めてしまった時の事を言うんだと思う。

 だから今回の事は糧として、今後も頑張って欲しい。

 もちろん、唐揚げはスタッフが美味しく頂きました。

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