第1178話 マスク
ケチャップの容器に関しては、俺とシュリの案により解決に至った。
なんかほぼほぼシュリの案のような気もするが、竹筒をバラツキやすい節と節の間では無く、片節の筒にしたのは俺の案のはず。
つまり俺の案が無ければシュリの案は出ず、それは即ち俺も共著者として論文に名を記せるレベルのはず。
まぁケチャップの作り方を発表する学会なんて無いだろうけどね。
カレーの作り方なら、ワンチャンあるのか?
ま、いいや。
容器の件も片付いた事だし、ケチャップ工房の視察は済んだことにしよう。
あ、でももう一点だけ気になったところがあるんで、そこだけは改善してもらわないと。
「マスク……かい?」
「えぇ、食品を扱う場所ですからね。『洗浄』や『殺菌』の魔法があるとはいえ、やれる所はやっといた方がいいかと」
気になった点とは、ご婦人方の格好だ。
自前の物であろうエプロンは着けていても、それ以外は普段着のまま。
特にその口元は無防備で、ご婦人方がお喋りしている度に気になっていたのだ。
食品加工の工房としては、もうちょっと気を使いたい。
一番良い手はご婦人方のお喋りを止めさせることだが、それは彼女達に息をするなと言ってるようなモノ。
フルオートメーション化された工場で働く従業員ならともかく、アットホームな職場でそんな事は出来ないだろう。
ならば次善策として、そのお喋りな口元を覆うマスクをすることを提案する。
使い捨ての不織布マスクを自作するのは難しくても、布マスクぐらいならなんとかなるだろう。
もちろん、長期にわたって着けることを想定し、耳にかけるタイプでは無く、頭の後ろで縛るタイプを提案しておく。
目的としてはお喋りによる飛沫を防ぐためなので、目地としてはそれ程精度は必要ない。
それこそ、今着ている服を使ってもいいぐらいだ。
「それは流石に勘弁して欲しいねぇ。こんなお古でも気に入ってるんだよ」
「それより、あの布はもっと無いのかい? あの布なら手触りもいいし、ずっと顔を覆ってても平気そうなんだけど」
おっと、変な感じで飛び火してきてしまったか。
やろうと思えばここにいる人数分ぐらいのハンカチは用意できるだろうけど、それは長期的に見れば悪手だよな。
俺という供給源が無ければ破綻するような環境は、前提として間違っている。
あくまで、この村で調達可能な物でやってってもらわないとね。
「ということで、エレさん。こんな感じの布って手に入ります?」
「あぁ、これ位ならウチでも扱ったことはあるよ。まぁ上等な生地になるけどね」
「そこは取引相手ってことで、良心価格に……」
「そうさねぇ……まぁその辺はケチャップの価格次第だね」
いや、その価格を決めるために、マスク用の布の値段が知りたいんだけど。
ケチャップを作るのに必要な工房も人員も材料も燃料も、そのどれもがウルザラ村で調達できている。
足りないのは販路とマスク用の布ぐらいなのだ。
つまりマスク用の布の価格はケチャップを作るために必要なコストの一つであり、この価格が高ければその分ケチャップの卸値にも影響を及ぼしてしまう。
もっとも、そこまでバカ高いマスクになるなら、もっと安い布で作るんだろうけど。
ま、卸値とか仕入れ値に関しては、俺が口出すような事じゃないか。
その辺はフベルトゥス商会とウルザラ村で話し合うべきだし、逆に俺が間に居る方がおかしい。
後は若い者同士に任せて、仲人役は退散するとしよう。
あ、出来立てのケチャップは貰ってくけどね。
もちろん、卸値価格が決まったらちゃんと代金を払うつもりだ。
これで久しぶりにナポリタンでも作るかね。




