第1177話 ボイル=シャルルの法則とは、理想気体の体積と圧力、温度に関係する法則である。
投稿したつもりがウッカリ忘れていた件。
「へぇ、こりゃ良いもんだね」
ご婦人方が、シュリが広げたハンカチに描かれた『殺菌』の魔法陣に興味を示したようだ。
流石に工場レベルの工房、それも食品を扱うともなれば、衛生管理も徹底する必要がある。
細菌の事は分からなくても、殺菌の利点は肌で感じているのかもしれん。
それに万が一にも食中毒なんぞ出してしまえば、マヨネーズ事件の再来となってしまうからな。
衛生管理の徹底だけは、クレア経由でキャスカさんにもお願いしてあった。
あの悲劇だけは繰り返してはいけないのだ。
「雪のような真っ白さに加えて、この手触り。こんな上等な布があったんだねぇ」
「勿体ないわねぇ。変な模様を描くだけなんでしょ? ならウチの手拭いと交換したいぐらいだわ」
「ねぇ、この布。もっと無いの?」
違った。
ご婦人方が反応したのは、布に描かれた『殺菌』の魔法陣ではなく、ソレを描いている布の方だった。
飛空艇産の布関係はカーテン一つとっても高品質だけど、脱衣所にあったタオルとかって、〇治タオルもかくやと思わせるぐらいフワッフワのフッカフカなヤツに変えてたからな。
この手の布は普段から触っているだけに、一目見ただけで品質の違いが分かってしまうようだ。
「ちょ、描いてる布じゃなくて、描いてある柄の方に注目して欲しいっス」
「柄……? あぁ、何か落書きしてあるわね。これが無ければもっと良かったのに。残念だわ」
「落書き扱いされたっス!?」
まぁ、「殺菌って何?」な人達からすれば、魔法陣より布の方に関心が向いてしまうわな。
ウチのタオルが高品質すぎてスマン。
「も、もういいっス。とにかく殺菌するっス」
そう言ってシュリがハンカチの一角に触れる。
するとハンカチに描かれた落書き……もとい魔法陣が一瞬輝くが、すぐに光は収まった。
どうやらアレで殺菌が終了したようだ。
高温蒸気や紫外線、アルコールとかだと中身に何らかの影響を与えてしまうのだが、魔法陣ならそんなリスクを負わずに殺菌可能ならしい。
それに消費するのも魔法陣を発動させる魔力だけとか、無菌室の製作維持に必要なコストを思うとつくづく魔法ってのは理不尽である。
「これで殺菌は終わったっス。あとは筒を冷やせば完成っス」
「冷やすなら、そこの流しを使うといいわよ。川から冷たい水を引き入れているの」
てっきり例の冷蔵庫魔法を使うのかと思ったら、ご婦人方がチョロチョロ水を流している竹樋を教えてくれた。
この時期の川の水なら、冷たさとしては十分だろう。
シュリも温度を確かめるように手を伸ばし、「冷た!」と言ってすぐに手を引っ込めたぐらいだし。
工房の備品らしい桶に冷水を張って竹筒を漬けてみると、封をしていた葉っぱが次第に凹んでいく。
これも魔法や魔道具による効果……ではなく、単なる自然現象だ。
圧力が一定のとき、温度が下がると体積も減る何とかの法則に基づくものだったかな?
えーっと……たしか、ボイル=シャルルの法則と習ったような……中学の授業で出てきた記憶がある。
ボイル=シャルルの法則と言われてるけど、ボイルの法則とシャルルの法則だけでなく、実はゲイ=リュサックの法則ってのも含まれていて「リュサックさん、どこいった?」なんて落書きを教科書にしたっけ。
ただ、当然の事だがこっちの世界にボイルさんやシャルルさんは居ないし、もちろんゲイ=リュサックさんも居ない。
ここでボイル=シャルルの法則の事を話してしまうと、サンドイッチ伯爵に続き二人目三人目の「誰それ?」状態を生み出してしまう。
なので俺は培った知識をひけらかす様な真似はせず、黙って凹む竹筒を見守ることにした。
「こんな感じに蓋の部分が凹めばバッチリっス。これなら逆さにしても中身が出たりしないっスよ」
たしかに竹筒を逆さにしても蓋が外れて大惨事にはならなかった。
俺のやり方だとこの時点で零れていたから、一手間かけた甲斐はあったようだ。
しかし、折角出した案が完全否定されてしまい、ちょっとモヤモヤしてしまう自分もいる。
器がちっちゃいとか小物とか言われてしまいそうだが、それも俺の一部なのだから受け入れるしかない。
とりあえずモヤっと感を解消するため、なんとか蓋を外そうと思いっきり振ってみるかね
「あ、逆さにしてたぐらいじゃ零れなくはなったっスけど、流石に思いっきり振られたら噴き出しちゃうっス」
「あらあら、折角綺麗にしたのにまた汚されるのはちょっと困るわね。みんな、止めるわよ」
「分かったわ」
シュリだけでなく、エレさんやご婦人方も俺の阻止に参戦する。
彼女一人なら勝ち目はあっただろうが、ご婦人方まで参戦されては、俺に勝ち目はない。
むぎゅーっと地面に取り押さえられ、無様な姿をさらしてしまう。
ちょっと振り回そうとしたぐらいで、この仕打ち。
待遇改善を要求する!
あ、でも背中にあたってるロケットさんの感触が最高なんで、もう暫くこのままでもいいかな。




