第1176話 温めた牛乳瓶に茹で卵を乗せると
「多分、この設備で一番簡単なのは脱気っスかね」
「だっき?」
封神演義に出てきた、傾国の美女『妲己』の事では無いよな?
密閉性を高めるために国を傾けるとか、意味わかんないし。
「脱気っていうのは……アレっス、温めた牛乳瓶に茹で卵を乗せる実験のヤツっス」
「あぁ、アレな。瓶が冷めると内圧が下がって、茹で卵が瓶に吸い込まれるヤツ。小学校でやったな」
きゅー……スポンって感じで吸い込まれるのが、見てて面白かったな。
その前にやった、水の入ったコップに紙を乗せ、ひっくり返す実験も大気圧の凄さが分かって面白かった。
まぁ、逆さにしたコップの方は、うっかり紙をいじってしまったせいで中身を派手に零してしまったし、瓶に吸い込まれた茹で卵もそのままの状態では取り出せず、結局崩して取り出すという何とも締まらないオチが付いたけど。
でも、ああいった不思議な現象を見せた後、その理由を説明してくれると非常に理解が早い。
まさしく『百聞は一見に如かず』だよな。
「そう、それっス。脱気ってのは、それを使うっス」
「なるほど……つまり茹で卵入りケチャップを売るわけだな」
「全然違うっス」
知ってるよ! ワザとだよ! つまりはアレだろ? アレ。
……アレってなんだろ?
「分かって無さそうなショータさんは放っといて、やり方を説明するっスよ。と言っても、そんなに大したことはしないっス」
そう言ってシュリは片節の竹筒を手に取ると、出来上がったばかりのケチャップを筒に流し込んだ。
ただ、その量は思ったよりも少ない。
先ほど俺が出したゼリー方式だと、零れるほど流し込んで密閉性を上げている。
しかし、シュリが流し込んだ竹筒には、零れるどころか口一杯ギリギリしか入っておらず、これでは密閉性は期待できそうにない。
ふっ、バカめ……それでは俺の案以下だろうが。
「ふっ、バカめ……それでは俺の案以下だろうが……なんて思ってるっスね。でも、それは甘々っス。あたしの案は、ここからが本番っスよ」
バカな! 俺の考えが読まれていただと!?
「バカな! 俺の考えが読まれていただと!? とか思ってるっスね。声に出しているのに気付いていない人は放っておいて、先に進めるっス」
なんだと!? 俺の考えが駄々洩れだっただと?!
いつだ? いつから駄々洩れていた? まさか第一話からか?
ん? 第一話ってなんだ?
「……もうツッコむ気もなくなったっス。けど、筒が温まるまでの時間つぶしには丁度良かったっス」
なるほど、ケチャップを注いで直ぐに封をしなかったのは、筒が温まるのを待っていたからか。
出来立てのケチャップは熱々だから、その熱量で温めた牛乳瓶と同じ状態にするわけだな。
「で、程よく温まったところで、葉っぱで封をするっス」
この辺は俺やご婦人方の案と一緒だな。
まぁコルクのような柔らかい木材を用意するより、竹と一緒に採れる葉っぱを利用する方がお手軽だし、安上がりだろう。
そうして中身がフル充填されていない竹筒が完成したように見えたのだが、シュリの様子からするとまだ工程が残っているらしい。
といっても、封をした以上、後何をするというのか?
サバの水煮等の缶詰なら、缶に入れたあと高温の蒸気で茹でつつ殺菌したりするけど、もしかして同じように高温の蒸気による殺菌でもするのだろうか。
「高温蒸気もいい案だと思うっスけど、アタシの案にはちょっと合わないっスね。だから、コイツを使うっス」
シュリが取り出したのは……ハンカチサイズの布だな。
見覚えがあるから、恐らくウチの船からコッソリかっぱらったヤツだろう。
船がダンジョン化しているおかげなのか、あの手のアメニティグッズは勝手に補充されるんだけど、それでもモヤっとしてしまう。
後で代金としてロケットさんとの握手会を要求しないと。
「この布には『殺菌』の魔法陣が描いてあるっス。コレを使えば完全殺菌とまではいかないっスけど、99%は殺菌できるっス」
ほう、まるでどっかのCMみたいな殺菌力だな。
全ての菌を除菌できるわけではありません的なテロップでも入れておくか?
というか、『殺菌』の魔法陣なんてあるんだな。
後で聞いてみたところ、薬品類を扱う際に最も大切なのは、容器を徹底的に洗浄する事らしい。
そうしないと意図しない反応が現れたり、最悪危険なガスとかが発生してしまう、いわゆる『混ぜるな危険』が起こるんだとか。
同じことが、微生物や細菌類にも言える。
人に害をなすそれらが容器に付着し、そこに成長促進のポーションを入れてしまったせいで、危うくパンデミックになるところだったらしい。
バイオテロ、ダメ絶対。




