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第1169話 ついに到着、ウルザラ村(入るとは言ってない)

 ウルザラ村に程近い川原に降り立った俺達。

 その視線は空に浮かんだままの飛空艇に注がれている。


「飛空艇送還!!」


 別に声に出す必要も無いが、周囲の視線が俺に注がれているのを感じたため、なんとなく言ってみる。

 いきなり消すと、消えるだろうと思っていてもビックリされるからな。

 注意喚起のためにも声に出すのは大事だったりする。


 俺の声に応えた船は、スゥっと青空に消えるように送還されていった。

 わずか数分程度の出番に不満を感じたダンデれもん様が、送還要請に応えず居座りづつけるかと思ったが、杞憂だったようだ。


 ま、エレさんに船の存在を秘密にしていたため、不便な小舟での移動を強いられていたのだ。

 こうして彼女にも存在を明かした以上、飛空艇を使っての移動に制限が無くなるからな。

 今度は間を置かずに召喚できるだろう。


 無事飛空艇も送還され、あとは歩いてウルザラ村に向かうだけ。

 ただ、その前に一つやっておいた方が良さそうな事があるため、シャーロットに相談を持ち掛けてみる。


「なんだ? 村に行かないのか?」

「いや、村に行く前にアレク君の事でちょっとな……」

「ふむ……そうか」


 相談事というのはアレク君の事だ。

 彼は現在、俺の奴隷という立場になってしまっている。

 これはあくまでも彼の持つ素質故の一時的な措置であり、俺が望んだ状況ではない。


 しかし、事情を知らない人からすれば、そんな事はまさしく『知ったこっちゃない』。

 同じ村の者、あるいは知人、家族。

 そんな人達に、奴隷を示す首輪がついたままのアレク君の姿を見られればどうなるか?


 その答えは以前、ガロンさんの手……いや拳により俺の身に示されている。

 あんな痛い思いを繰り返すなんて、真っ平御免だ。

 同じ轍を踏まない為にも、ウルザラ村にいる間ぐらいは彼の首輪を外しておきたい。


 そもそもアレク君が奴隷の身に落とされたのは、彼が勇者の素質を持ついわゆる『勇者の卵』だからだ。

 アレク君の素質に気づいた悪者が、勇者という立場を利用するため、彼を奴隷にしようとする。

 それを事前に防ぐため、渋々ながらも俺が彼のご主人様となった経緯がある。


 そのことに関して余り気にしないようにしていたが、ある日「その悪者って俺達の事なんじゃないのか?」と気付いてしまったのだ。

 アレク君が勇者となった暁には、彼のご主人様である俺が勇者の持つ様々な権力や特権を使う事が出来るようになる。

 つまり、やろうと思えば悪者と同じことが出来るのだ……いや、しないけどね。


 ただ、人の心というモノは移ろいゆくもの。

 今の俺は「しない」と断言出来ても、実際にその時が来たらどうなるか?

 もしかしたら、俺も悪者と同じことをしてしまうかもしれない。


 捕らぬ狸の皮算用と言われてしまえばその通りかもしれないが、性根が小市民な俺としては、そんなプレッシャーを抱えながら日々を過ごすのはちょっとしんどい。

 せめてこの村にいる間だけも、そんなプレッシャーから解放されたい。

 出来ればその先も。


 王都で聞いた勇者出現の噂が事実なら、アレク君はあくまで『勇者の卵』であって『勇者』ではない。

 本物の勇者が現れた以上、彼が狙われることはもう無いはずだ。

 であれば奴隷の首輪も要らなくなるだろう。

 なんちゃってご主人様生活は、現時刻をもって終了させるべきなのだ。


「ふむ……確かに村にいる間ぐらいなら、解放させていても良いだろう」

「そうか! なら……」

「しかし、今後も解放することは認められない。勇者というのは代替わりするからな。何かの拍子で今代の勇者が死亡し、アレクが勇者になるやもしれん。警戒するに越したことは無かろう」

「……そうか」


 くっ……そこまで警戒しないでもいいのに。

 だが、それでも前進は前進だ。

 このまま既成事実を積み重ね、いつか彼を自由な身に戻してあげたい。


 そして改めて彼にお願いするのだ。

 これからも俺の食事を作ってくれ、と。


 ん? これってプロポーズ?

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