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第1170話 代わりの首輪

「なんか、変な感じがしますね」

「そうね……悔しいけど、アレクの首に何もないと、違和感を感じるわ」

…………(コクコク)


 ウルザラ村に向かうにあたり、アレク君の首にあった奴隷の首輪を一時的に外したのだが、そのあらわになった彼の首筋を見ながら、クレア達三人がそんな会話をしている。

 そうだよな……もうアレク君の首には、あの首輪があるのが当たり前になっていたからな。

 何もないと逆に変な感じがする。


 彼も今まであった首輪が無いせいか、しきりに自身の首を触っている。

 あれかな? マスクやシートベルトを着けたままの状態に慣れてしまうと、無い方が逆に落ち着かない感じなのかな?


 でも、これが本来の状態であり、首輪がついているほうが異常だったのだ。

 後ろからアレク君の妙にほっそりしたうなじを見ていると、改めてそう感じる。

 あの項は良いモノだ。


「でも、痕が残っちゃったっスね」

「そうだな。首輪のあった部分だけが日に焼けてない。これでは折角首輪が外れても、すぐに分かってしまうだろう」


 同じくアレク君の項を見ていたシュリとシャーロットが、そう指摘する。

 言われてみれば、首輪のあった部分だけが雪のように真っ白だ。

 少し焼けている他の部分とのコントラストが、妙に色気を誘う。


 普段、厨房に籠り勝ちのアレク君でも、外に出るときは面倒がらずにちゃんと出るからな。

 日焼け止めクリームなんて対策しているはずも無いので、当然のごとく日焼けする。

 特に最近は初夏の陽気になりつつあるのか、その分紫外線も強そうだし。


「うーん、そうだな……タオルか何かを巻いておくべきか?」


 マフラーでもいいのだが、先程言ったように既に気候は初夏のソレになりつつある。

 そんな陽気にマフラーを巻いていれば、頭の中まで陽気になっていると思われるだろう。

 いつも首にねじねじを巻いている俳優さんも、夏ごろにはねじねじをプリントしたTシャツ着てるしな。


「タオルなんて、カッコ悪いっスよ。それならチョーカーでも作るっスよ」

「チョーカー?」

「知らないっスか? 首に巻くネックレスの一種っスよ。太めのチョーカーなら首輪の痕も隠せるっス」


 あぁそういえば姉が色気づき始めたころ、首に何か巻いていた時があったな。

 俺は当時、首に何か触れているのが大っ嫌いで、シャツのボタンを一番上まで掛けられなかったせいか、「よくあんなのしてられるな」と感心していた。

 たしかにアレなら首輪の痕も隠せるだろう。


 でも、首輪の代わりにチョーカーって、変える意味あるのか?

 いくら「ファッションだから」と主張したところで、見た目は首輪に似ていたのでは、変えた意味が無い。

 たしかに仮で奴隷を装った、所謂『ファッション奴隷』だけれども、ここはもっと別な案を考えないとか。


 うーん……首輪に見えずに首の痕を隠す方法か……まぁ単純に考えるなら、ネクタイあたりだろうか?

 チョーカーと違ってネクタイなら首輪感は少ないだろう。

 もっとも、『社畜』と呼ばれる人たちにとっては、ネクタイこそ会社と自身とをつなぐ、奴隷の首輪そのモノだろうけどな。


 しかし社畜の概念が未だ無いこちらの世界なら、「ネクタイ=奴隷の首輪」とはならない筈。

 それならチョーカーよりはマシだろう。


 ということで、ネクタイを提案してみたのだが、その為には実物を見せる必要がある。

 口頭で説明するより、実際に見せた方が早いしな。


 ネクタイの代用品になりそうな布は、タオルを縦に割いて縫い合わせることで用意できた。

 後はアレク君に結んでもらえばいいのだが、その為には見本を見せる必要があった。

 このメンツの中でまともにネクタイを結べるのは俺ぐらいなので、必然的に俺にお鉢が回ってくる。


 ふっふっふっ、サラリーマン生活で培ったネクタイ結びの技を披露するときが来たようだな。

 成人式で初めてネクタイを締めたときはかなり手こずってしまった俺でも、会社に入って日常的に締めるようになれば嫌でも上達する。

 こんなもん、何も考えずとも簡単に結べるようになるのだ。


「えっと……ここをこうだろ。こーしてこーなって……で、こう……って、あれ?」


 普段、意識してネクタイを結んでいないせいか、改めて人に結ぶとなると、これはこれで意外と難しい。

 決して俺の教え方が下手なのではなく、特に正面から相対して結ぼうとすると手が逆になるからだ。

 何度も自分で締めて確認しながらの作業になる。


 かといって後ろから結ぶのは色々とマズい。

 正面から結ぼうとするだけでも近すぎてヤバいのに、妙に色っぽい項を見ながらバックハグとか無理だろう。

 正直、「彼は男、彼は男……」と心の中でずっと唱えていないと、そのまま押し倒しかねないのだ。

 俺の理性を保つためにも、手惑いながらも正面から結ぶ。


 そうして、どうにかアレク君にネクタイの結び方を伝授したのだが、最終的には俺が結んでいるのを見て覚えたクレアが、アレク君に結んであげることで解決した。

 というか、見ていた全員がタオル生地のネクタイを装備していた。

 お前ら、覚えるの早すぎ。

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