月曜日(6)
「管野くん」
声をかける。
心臓がドキドキする。おかしい。中二から数えて三人の男と付き合い、それぞれ三ヶ月以内に別れた恭香は、男に免疫がないわけでもなかったはずだ。
管野は顔を上げて恭香の顔を確認すると、しばし動きを止めた。
「え~と、不二子(、、、)ちゃん(、、、)」
(いるよ、ここにも! クラスメイトの顔と名前が一致していない人間!)
恭香は、今頃部活で軟式テニスをしているはずの美晴に、心の中で叫んだ。有名でもないけど無名でもないつもりの恭香は、大変プライドを傷つけられる。しかし凹んで敵前逃亡は本意ではない。なんとか自尊心を抑え込み、自己紹介をした。
「クラスメイトの磯野恭香だけど、C組で一緒の管野早馬くんだよね? 担任の反町が探してたわよ。何か頼み事があるって」
「僕に? 今?」
管野は怪訝そうな顔をして、自分を指さした。クラス委員長でも、剣道部でも、問題児でもない自分に、担任が今すぐ招集をかけることに不審を抱いている。恭香だってあり得ないことは百も承知だ。とっさについた嘘だからだ。
「そう。私も、管野くんに何の用なんだろうって思ったわよ。でも見かけたら声をかけてくれって頼まれたの。体育準備室にいると思う」
「ふ~ん。ありがとう」
礼儀正しい管野は、納得したようでもないがお礼を言って、立ち上がった。南条に、「じゃあ、部室でね」と声をかけて立ち去る。そうだった。今この交流を阻止したとしても、管野と南条は、部活でいつでも顔を合わせることができるのだ。
恭香は自分の詰めの甘さに、心の中で密かに嘆いた。恭香は日本文学は読まないが、推理小説はたまに読む。優秀な灰色の脳細胞を持つ探偵なら、こんなすぐにばれる嘘はつかないだろう。
残された南条は、真っ赤な顔をして俯いている。恭香という存在がよほど怖いのか、目を合わせると食い殺されるといった怯えようだった。謝る筋合いもないので、軽く頭を下げて元の席に戻る。
とても問題集を解く気分にはなれなかったので、それを鞄に仕舞うと、恭香も帰る事にした。問題集が解けていなくても、構うものか。若い塾講師なんてチョロいもので、媚びて笑ってごまかせば、十中八九許してくれる。
図書室を出るとき何気なく振り返ると、驚いた事に南条がこちらを睨み付けていた。草食動物のハムスターみたいな顔をして、意外と気が強いみたいだ。もしかしたら、恭香も管野を好きな事に、勘づいたのかもしれない。単に目が悪いから凝視している可能性も考慮に入れながら、恭香はそんな推理をした。
とにかく地味なオタク女子など眼中にないので、恭香は無視して図書館を出た。嘘をついた罪悪感よりも、スカートがきついウエストを気にしながら。




