月曜日(5)
「何書いてるの? 南条さん」
管野が口元に笑いを滲ませたまま尋ねると、南条こと一年生は、今度は手元のノートを隠した。首を捻って管野の姿を確認すると、真っ赤な顔で視線を泳がせる。
「さ、さ、実篤の手紙です。じ、自分の電話に出なかった志賀直哉に、この葉書を出したんです」
「そうなんだ。武者小路実篤って、可愛いんだね」
管野は南条の隣に座り、背負っていたリュックを下ろして足下に置く。気に入らない。二人の距離感が、気に入らない。ほのぼのした会話も、気に入らない。
真っ赤な顔の南条は、管野の言葉を聞くと、嬉しそうに笑った。
「そうなんです。子供みたいで、すごく可愛くないですか? 私、好きなんです。あまりに好きなので、書き写しちゃいました」
「うん、そうだね」
照れて頭を掻く南条に、管野はニコニコ笑ってみせる。二人とも華やかさゼロの老成した雰囲気を纏っているので、甘酸っぱくはない。甘酸っぱくはないのだが、首筋を掻きむしりたくなるほどイライラする。
なんなのだ。二人で共感し合っちゃって。おじさん同士の痴話げんか(?)の、どこが可愛いのだ。オタク特有の感性にも、恭香は全く共感できなかった。そしてオタクという人種は、日常ではほとんど発言しないくせに、心を開くと必要以上に饒舌になる生き物なのだ。
「管野先輩は、日本文学では誰が好きですか? 私は坂口安吾が好きなんです。メジャーなところだと、太宰治とか三島由紀夫も好きですが」
「僕は、そうだな。ベタなんだけど、やっぱり漱石が好きだな」
案の定、目をキョロキョロと泳がせながら、それでも早口で楽しそうに南条は話す。管野はそれに、のんびりとした口調で答える。もしかしたら管野は、恋愛対象として南条に興味はないのかもしれないが、南条の方は明らかに管野にハートマークを飛ばしていた。
まずい。好きな作家のラインナップからいって、南条は温和なだけの内気なタイプではないのかもしれない。ああいう内面に闇を抱えた内向型人間は、管野のような包容力のある年上の男に惹かれるものだ。これ以上、二人を近づけてはいけない。管野だって、ああいう心を閉ざし気味の女子に心を開かれたら、ほだされてしまうかもしれない。
南条の、眼鏡に隠された卵形の顔が意外に整っている事に気づいた恭香は、そう判断して二人に近づいた。




