月曜日(4)
珍しく図書館で勉強なんてしようとしたのが、いけなかったのかもしれない。
窓際に五つ並んだ四人掛けの席の一番奥で、恭香は数学の問題集を開いた。今夜の塾の課題が、まだ半分も終わっていない。図書館は空いていて静かだったが、隣の席の対面に、こちら側を向く形で管野と連れだって歩いていたショートカットが座っているのに気がついた。美晴に情報を聞いてから、木元のことは穴の空くほど観察したので、彼女でない事は分かっている。文芸部の一年生の方だ。
件の一年生は、背中を丸めるようにして、手元のノートに何やら書き写していた。
別に彼女に興味はないが、管野と親しげにしていた理由を知りたくて、恭香は細々した作業を続ける一年生を観察する。
何かに怯えるように手元を隠して、一心不乱に書き写す姿は、せせこましいという表現がぴったりだった。とても男子を惹きつけるようには思えない。やっぱり管野は彼女の、外見だけが好みなのかもしれない。とはいえそちらも、どこが良いのか分からなかったが。
自分が唯一負けている要素といえば、あの守りたくなるような細い二の腕と、ハードカバーの本くらい薄いウエストぐらいだ。恭香は最近キツくなってきたスカート周りを気にしながら、問題集に視線を戻そうとした。
その時。
入り口に管野の姿が見えた。思わず手を上げて合図しようとして、自分たちがそれほど親しくない事を思い出す。この四月に同じ三年C組になったというだけで、恭香と管野は、ただのクラスメイトだった。きっかけがなくて、ほとんど喋った事もない。猪突猛進をアイデンティティーとする恭香も、さすがにいきなり迫ったりはできなかった。二ヶ月もアプローチできていないのは、恭香的には珍しいのだが。
管野はぐるりと図書館内を見渡し、恭香――ではなく、例の一年生に気づいて寄ってきた。オタク特有のもの凄い集中力で筆記に集中している一年生は、管野が背後から覗き込んでいるのに気づいていない。
「僕は怒っている。ほんとに怒っている。あとで電話をかけて怒るが、今はハガキで怒る」
「きゃっ!」
一年生は高い悲鳴を上げ、慌てて口元を押さえた。周りを気にする。
気に入らない。その一部始終に、恭香は不機嫌になる。ショートカット女子の少女漫画の主人公的恥じらいと、それに優しく笑う管野の二人が、あまりにお似合いで気に入らない。




