月曜日(2)
「あんたねえ、この前の子は、文芸部の一年生だよ。名前は知らないけど。ちなみに木元さんは、うちのクラスだからね。いくら他人に興味がなくても、クラスメイト四十人くらい覚えなさいよ。もう六月だよ」
「木元さん……。そう言われれば、いたかも。席が近くなった事ないから、あんまり意識しなかった」
適当にごまかすと、美晴は深い深い溜息をつく。
「あんた、それで私より成績良いって、マジ怒りすら覚えるわ。こないだの模試も、うちの学校じゃ上位十パーセントでしょう? 進路どうするの?」
「う~ん。医学部か法学部かで、迷ってる」
「っく~! 何その、理系でも文系でも選択肢ある感じ。殴って良いですか? マジ、殴って良いですか?」
美晴が本気で殴る真似をしてきたので、恭香は笑ってそれを躱した。ひとしきりじゃれた後、温い初夏の空気に向かって黒板消しを叩く。真っ白なチョークのカスが、踊るように宙に舞って儚く消えた。
管野と木元の姿は、すでに学校の敷地外に消えていて、ベージュの視界にはブルーのユニフォームが規則正しく列をなして走っていた。――溜息。
「そっか、違う子なのか。でも、違う女の子にしろ、ああいうのが管野くんのタイプって事だよね? 真面目で、眼鏡で、スカート膝丈みたいな」
恭香が黒板消しを黒板下に戻した後、茶色く色を抜いた自分の髪をいじりながらぼやくと、美晴がまたしても呆れる。
「何、あんた。まさか、管野くんが好きなわけ?」
「うん」
率直を信条とする恭香は、即答する。美晴はのけぞる。それから、窓を開けて外を眺めた。だから、管野はもう見えないんだって。
「管野くんねえ。まあ、悪くはないけど……。えらい宗旨がえじゃない? あんたはBOOWYの氷室京介みたいな男が好きなんだと思ってた」
「中学の頃はね」
何年前の話をしているのだ。人は変わるのだ。
人物考察に長けている美晴は、窓を閉めて腕を組んだ。モップを抱きしめる形になる。しばし思考を巡らせているので、管野に関する一考察を披露するぞと予想していると、案の定語り出した。
「管野くんか。まあ、好きか嫌いか聞かれたら、嫌いではないけど。でもねえ。目立たないというか、華がないというか、取り立てて好きになる要素なくない? 頭良さそうだけど、成績は普通だし。運動はそつなくこなしているけど、得意な種目があるわけじゃないし。いつも一人で本を読んでいるけど、根暗ってわけでもなく。友達少なそうだけど、実は顔が広いのも謎だし。優しいけど我関せずだから、信頼して良いか悪いか不明だし。シュッとした醤油顔してるけど、男前ではないし。要するに、印象が「無」なのよ「無」。あの長い髪も、ロン毛というほどお洒落じゃないけど、オタクというほどダサくもないっていうか」
美晴は蕩々と分析結果を述べてくれているが、そんなことはどうでもいいのだ。恋というのは、論理でするのではない。感情でするものなのだ。恭香とて、何故好きになったのかわかりはしない。




