月曜日(1)
199X年 東京――。
カラカラと音を立て、教室の掃き出し窓を開ける。
校舎二階の南側。磯野恭香は上履きのまま、校庭を一望できる広いベランダに出た。黒板消しを右手と左手に装着して、さて叩こうかと腰壁に身を乗り出すと、サッカー部が練習するグラウンドの脇を、一組の男女が歩いているのが見えた。
少し猫背の長身長髪の男子と、小柄で華奢なショートカット女子。長年連れ添った老夫婦のような落ち着きぶりに、甘い雰囲気は一ミリも感じられなかったが……。
「……あの二人、付き合ってるのかな?」
恭香の低いつぶやきに、窓の近くでモップをかけていた親友の美晴が反応した。ベランダに出てきて、恭香の脇に立つ。
「あの二人って、どの二人?」
「あれ。管野くんと、ショートカットの女の子」
恭香は黒板消しを装着したまま、右手で校庭を指さす。肩までのワンレングスをさらりと揺らした美晴は、校門に向かって歩く二人を確認した。
「木元さん? 別に付き合ってないんじゃない。文芸部同士だから、仲が良いんだよ」
身体を返してコンクリの腰壁にもたれかかりながら、
「しっかし、今時高校生に、教室の掃除させるってどうよ? 業者頼めよって感じじゃない?」
学校の教育方針に対する文句を付け足す。自分たちの使っている校舎を掃除することによって、感謝の気持ちを養う……というのは建前で、もしかしたら経費削減なのかもしれない。
「でも、この前も一緒に歩いてたじゃん。カラオケ行った帰り、会ったでしょう?」
恭香が食い下がると、顔だけ振り返った美晴はまじまじと恭香の顔を見つめ、呆れたように言った。
「磯野、あれ違うから。あの時一緒にいたの、木元さんじゃないから」
「うそっ?」
恭香は仰天した。だって――、
小柄。
ショートカット。
眼鏡。
黒髪。
ガリガリ。
地味。
――全属性が、数日前カラオケ帰りにばったり会った管野の連れと、ピタリと一致しているのである。




