2話 レティシアの幼少期
私はレティシア・アヴェリス。
私には前世の記憶がある。
元男だった……なんて言っても信じてもらえないだろうけど。
前世の 俺 はトラックに引かれそうな野良猫を助けて死んだ。
——え?ベタすぎだって?
前世は別にどっちでもいいんだ。
不幸だったわけでもないし、緩く幸せに生きてたら、そんなことがあっただけだ。心残りがあるとすれば、仲間や家族を残してしまったところだが…。
一応、一人称は違和感がないように『私』にしている。
—————ある日、目を覚ますと、視界がぼやけていた。
「レティちゃん……。」
……え?
声が出ない。
手も小さい。
(え、赤ちゃん!?)
レティちゃん、と愛称で呼ばれていて……女の子だった。
違和感はあったが、日に日になじんでいった。
「あうあう」
光を受けるたび虹色に透き通るような銀髪を持つ、優しい表情の母に、まだぷにぷにもちもちの小さなお手てを伸ばした。
……後に私もまた、母譲りの虹色に透き通るような銀髪を受け継ぐことになるなんて。
「今日も可愛いわねぇ、レティちゃん…♡」
母は俺を宝物を抱きしめるように抱っこして、優しくおでこをすりっと柔らかい手で、撫でてくれた。
そんなことをしていると、私にメロメロの王子様系銀髪のイケメン、父が入ってきた。
「レティシアちゃん、パパだぞ~♡♡ん〜ま♡♡」
「あう!」
ぷいっとそっぽを向く。甘いフェイスのイケメンなのにキスしようとしてくるのがいやだ。
「怒っているレティちゃんも可愛いね〜♡♡」
「まぁまぁ~♡レティちゃんは世界一可愛いわよ~♡♡」
両親は、私を大切にしてくれた。
——この家に生まれて、幸せだったと思う。
———それから十数年後
「初めまして。シオン・ノワールと申します。」
従者がついたのは、私はまだ16歳の時でした。 シオンが18歳ぐらいの時。
目の前に、美しい少年がいた。黒髪赤目の鼻がすっとした美少年で、黒い執事服に身を包んでいる様子はとてもかっこよく思える。
だが、どこか人形のような冷たさを感じた。
言うのを忘れていたが、私はサファイア国という、王宮に住むお姫様だった。
……そして、どこかで聞いたことがある、懐かしい名前。一瞬だけ胸がちくりとした。
「初めまして、レティシア・アヴェリスと申します。
よろしくお願いします」
丁寧に、裾を上げてふんわりとお辞儀をした。
挨拶大事ィィィィィ!!!!!
え???脳内と所作が全然違うって??
いいんだよ脳内だけなら!!脳内はずっと元気だぞ!!!
「なんでもお申し付けください。」
シオンが無表情のまますっとお辞儀をする。
それに、私はちょうどおやつの時間だったため、可愛らしいピンクや青の花が咲き誇るお茶会席に案内していた。
話題には、近くの花を選んで指を指した。
シオンとは、仲良くなりたいのだ。男の友情としてね!!
「あれは赤の薔薇、あれは青の薔薇よ。赤の薔薇は、なんだかあなたの瞳みたい…。綺麗ね!」
「……!そうでしょうか……赤は不吉な色では。」
まさか……赤は血の色などと言う輩がいた……??
元孤児だと、聞いていた。ずっとずっと1人だったのだろうか。
私はいつのまにか、がばっとシオンの手を取って真っ直ぐに目を見ていた。
「そんなことないわ、だれがそんなことをいったの?
今すぐその言葉を修正してきてあげるわ!」
「修正……、ですか?」
「そうよ、あなたの瞳は誰がなんと言おうと綺麗だもの」
私は安心させるように精一杯、目を細めてニコッと笑った。
そう、笑えば皆笑顔になるんだ……たぶん。きっと。
なにか面白かったのか、シオンは目を細めて、優しく笑った。
「…修正……それは、大変そうだ。」
「……あ…」
シオンが、嬉しそうに笑った。
綺麗な笑顔だと、素直にそう思った。
私が「修正」という言葉に何か重たいものを感じたのは、気のせいだろうか。
—— それが、レティシアが見たシオンの初めての笑顔だった。




