⑥ 伯爵に報告
その日の午後3時頃、亜空間レストランで、サン・ジェルマン伯爵は鷹志、由理子と共に、窓際のテーブルに陣取っていた。
ジャスミンティーを飲みながら、できるだけ鷹志をリラックスさせて、伯爵は話を聞くことにした。鷹志が一通り語り終えると、伯爵が静かに口を開いた。
「成る程。話は良く分かりました。由理子さんもお疲れさまでした。頭足類から、話を聞いてくれてありがとう。実はベルゼブブはかつて、1566年にフランスに舞い戻ったという記録が残っているんですが……その時、散々人心を弄んだ後、また雲隠れしたとか……まずは敵襲に備えて、我々も色々と準備しなければいけませんね?」
「問題なのは、一体どこから甲殻類……つまりカニやエビたちを操っていたのか、分からないところなんです。」と鷹志。
「ひょっとしたら、時限発動式の指令かもしれませんね?」と伯爵。
「えっ?」コレは由理子の声。
「私はね……。」伯爵が話を続ける。
「昔から、細胞の中に有る、ミトコンドリアの存在が怪しいと、睨んでいるのですよ。」
「奇遇ですね。僕もそう思います。アレは、ナニカの受信機もしくは、生体メモリーチップのようなモノではないかと……。」鷹志も何だか嬉しそうに、そう言った。そして「実はイセエビを一尾、連れて帰って来てるんですよ……調べてみますか?」と続けた。
そして、顔を見合わせてニンマリ笑うと、そうしよう、そうしようという事になり、二人でいそいそと、地下の研究室に降りて行ってしまったのである。
「お互い、趣味人がパートナーだと、苦労するわね?」
隣のテーブルに控えて居た村田京子が、由理子に声を掛けて来た。
「もう、"ほったらかし"にされるのにも、すっかり慣れましたよ。研究が彼の生甲斐なんですから。ナニかやってないと、聡明な彼の頭脳が、退屈してしまうんですよ。このチーム・サン・ジェルマンの中で、私はアクティブに肉体労働担当、彼はインドアで頭脳労働担当……それでいいんです。」
どこか達観したような顔で、由理子はそう言った。
「よく出来た奥様ねえ……私は未だに、その域に達しないわ。時々イライラするのよ。」
それに対して、京子はそんな本音を漏らす。
「いや、ソレが普通ですって!」
由理子がそう返すと、二人で笑った。
そして暫くは、お互いのパートナーの愚痴に、花を咲かせる二人なのであった。




