⑤ ベルゼブブ
女王の調査結果によると、やはり、世界中の海で同様な事が起きており、その都度、各場面で、イカやタコなどの頭足類が、まるで事態の鎮静化のためのように動いていたのである。
そして彼女の分析によると、頭足類同士は互いに連携して動いており、対してエビやカニなどの甲殻類は、本人たちの意識に関係なく、まるで、別の何かからの指令を受けて、操られて動いているようだという事であった。
鷹志と由理子は、念のために状況を確かめたくなり、緑色のビートルで海中に潜ってみた。するとすぐに、ダイオウイカと、それに負けないサイズのタコ……所謂クラーケンだろうか?……たちが、海底からやって来た。
早速、由理子が、テレパシーでの会話を試みる。彼女はクルマのガラス越しに、頭足類たちと、暫くの間にらみ合っていたが、やがて満足したのか、イカもタコも静かに目の前から去って行った。
「アイツら、何て言ってた?」尋ねる鷹志。
「色々な事を言ってたけど、シンプルに要約すると、『以前、命令されて仕方なくとは言え、サン・ジェルマンとその仲間たちには迷惑をかけたから、今回は自分たちの意思で、ニンゲンの味方をしてやる』って。」
「今回は?……じゃあ、やっぱり、新たな敵が居るんだ。」
「そうね。しかもソレは、爬虫類族……つまりアラハバキじゃないらしいわよ。」
「えっ?」
「敵の名前も聞いたわ。何かヘンな名前だった……確か"ベルゼブブ"?まるで、赤ちゃんみたいな名前よね?」
それを聞いた途端に、ハンドルを握る鷹志の顔色が悪くなった。
「ユリちゃん、ソレ、最悪だよ。」
「へっ、何が?」
「ベルゼブブだよ……それは地獄の悪魔たち、あのサタンやルシファーと並び称される、最強の魔王の名前だよ。」
「そうなの?でもウチのチームには、雪村兄さんも居るし、メジェドだって居る。最近は神獣や幻獣も味方につけたから、みんなでヤレば、楽勝なんじゃないかな?」由理子はいつも通り楽天的だ。
「……どうかな?ベルゼブブは元々、古代オリエントの、恵の雨を降らせる"豊穣の神"、バアル・ゼブルだったんだ。だけど、後にヘブライ人から追放されて、闇落ちして、"暴食の悪魔"になったっていう伝説があるんだ。」
「いっぱい食べる悪魔?何だか親しみが持てそう……。」
「そんな吞気なものじゃないよ。その気になれば、ありとあらゆる生命を、全て一飲みにして、平らげるチカラが有るってことだよ。」
「それは……イヤね?」
「早く帰って、伯爵に報告しなくっちゃ。」
鷹志は早速、ビートルの進路を、名護屋テレビ塔に向けたのだった。




