④ 最初の異変
翌月の3月15日月曜日。時刻は午前9時頃。
昨日のホワイトデーの余韻もまだ残る、熱々の二人は、光学迷彩をONにした、グリーンのワーゲンビートルで、太平洋側の海岸線の上空を巡視していた。無論、その二人とは、杉浦鷹志と由理子夫妻である。
と言うのも、つい先日、或るダイバーが、海中でエビやカニの集団に襲われるという事件が、起こったからである。だから異変を見つけたら、すぐにクルマごと、海に飛び込む準備をした上で、現場付近にやって来たのだ。
伯爵と鷹志によって、今日まで地道に改良を続けて来たので、今やシルバー、グリーン、レッド、イエロー、ブラックの5台のビートルは、どれも海中での活動能力を始めとする、全て同等の装備を持つに至ったのである。
(ただし相変わらず、並行宇宙に行く機能だけは、伯爵専用機の黒いビートルに限られてはいるが……。)
さて、二人の乗った緑のビートルが、ちょうど愛知県は渥美半島の先辺り、伊良湖岬の灯台前に差し掛かった時である。眼下の海岸に、慌てふためいて海から上がってくるダイバーが二人、そして、浅瀬に座礁したようなトレジャーボートが一艘、目に飛び込んで来たのだ。鷹志は岩陰にビートルを着陸させると、ダイバーたちに近づいて行って、声を掛けた。
「どうかされましたか?」
「カニだよ。いや、エビもか。海の中で急にカラダ中にまとわりついて来たんだ。それで、気がついたら、ボンベのホースを切られてしまった。」
二人のダイバーの顔には、恐怖の色が浮かんでいた。よく見ると、ウエットスーツにも、たくさんの穴が開いている。
ボートの船体も、FRP製のはずだが、随分傷めつけられていた。余程の大群に襲われたのだろうか?それだけでなく、スクリューの部分には、たくさんのエビやカニが挟まって死んでいる。自分の命を顧みない、捨て身の攻撃だ。
「……ただ、変なんだ。」ダイバーの話は続く。
「あとから大量のイカやタコがやって来て、エビやカニを攻撃……つまり食べ始めたんだよ。その隙に、僕らは命からがら逃げて来たんだ。」
「……あの子たち、約束を守ったんだわ。」由理子がポツリと呟いた。
「約束って?」尋ねる鷹志。
「前にちょっと……ね。ねえ、鷹志。今から伯爵に連絡を取って、日本中……いえ、世界中で、同じ事が起きて無いか確認してもらえるかしら?」
「お安い御用だよ、ユリちゃん。」
鷹志はすぐに、亜空間レストランで待つ伯爵に、連絡を取った。
伯爵はウアジェト女王に連絡を取り、彼女は12基の静止衛星を操って、ミューオン放射線や赤外線で、世界中の海の様子を調べたのだった。




