㉛ 説得を試みる
「もういい、よく……分かった。」
ウアジェト女王が、観念したようにそう言った。
「女王、貴女は何故、そのような事を?」
伯爵が、あくまでもジェントルな態度で尋ねる。
「もちろん、一刻も早く、人類を粛清するためだ。」
彼女は何の迷いも無く、そう答えた。
「……そうですか。」
特に驚く事も落胆する事も無く、伯爵は返事をした。
「あれから約3万年もの間、或る時は地下世界から、また或る時はこっそり地上に出て、私はニンゲンたちの振る舞いを観察し、情報を得て来た。だが、未だにキミたちは、自らの行いを改善する兆しを見せない。それどころか悪くなる一方だ。近年では特に、核兵器の開発を加速させ、このまま放っておけば、地球環境を壊滅に導きかねないところまで来てしまった。」
「それは……否めませんね。」
「私は、猿たちを改造して、キミたち"ハダカ猿族"という、失敗作を創り出してしまった者の代表として、その責任を取るために、全員の息の根を止める。種としての後始末を、しなければならないのだ。コレは造物主として……つまり、キミたちにとっての神として行うべき、私の使命なのだ。」
「……我々を造ったのは、アラハバキなのでは?」
念の為に確かめる伯爵。
「彼等も爬虫類族の一員だ。仲間の責任は、私の責任でもあるのだよ。」
「では、我々人類自身の気持ちは、どうなります?ハイそうですかと、甘んじて死を受け入れる、殉教者たちのような者ばかりではありませんよ?かく言うこの私も、死にたくはありませんからね?」
伯爵はそう言いながら、笑顔を作って見せた。
「それは……本当に済まないと思っている。」
「親のやるべき事は、出来の悪い子どもたちの、息の根を止める事なのでしょうか?それで責任が取れたと言うのは、余りにも無責任かつ理不尽なのでは?」
伯爵は、尚も重ねてそう言葉を繋いだ。
「……。」
「本来の親の努めは、出来の悪い子ほど、手厚く面倒を見てやり、どこまでも根気強く、教え導く事なのでは?私には子どもは居ませんが、そう思いたいですね。」
今や女王は、テーブルの上でこぶしを握り締め、何も言わずに、ただうなだれて居る。
レストランにつめかけた他の面々も、誰一人しゃべらず、今の二人の話について考え、黙り込んでいた。
「私が……私たちがもっと努力します。だから……もう少し長い目で、見守っていてくれませんか?」
口火を切ったのは、やはり由理子だった。
いつものお気楽な感じではなく、真剣な表情が、その顔には浮かんでいた。




