㉙ 伯爵の種明かし
「キミはその後すぐにヒトの姿に戻ったものの、気を失ってしまった。それで私は仕方なく、キミを自分のラボに連れて帰る事にしました。」
「……おかげで助かりました。」
「ただその前に、やるべき大仕事が有りました。キミの変身を目撃した全ての者たちの、記憶の消去です。」
「……ああ、確かにソレは不味いですね。」
「どうやってソレを実行したのかは、ここでは詳らかにはしません。今後のセキュリティの問題が発生するので……まあ、優秀な頭脳の持ち主であるキミなら、いずれ分かることですがね?」
「……そうですか。ソレは仕方が無いですよね。」
「その後、ラボにキミを連れ帰った私は、キミが気を失っている間に、キミのカラダや脳など、色々と調べさせてもらいました。その結果、キミの精神が、二つに分離しかけている事を発見したのです。」
「そう……なんですね?」
「ソレは、とても危険な状態に思えました。そこで私は、その対策を講じる事にしました。キミの中に有った二つの魂を、別々の器に入れる手立てを考えたのです。」
「中々エグイ発想の、マッドサイエンティストよねえ?」
そこで雪子がツッコミを入れた。
「アンタが言うの、それを?」
京子がそのツッコミに、再度ツッコミを入れた。
ソレはスルーして、伯爵が話を続ける。
「具体的には、ニンゲンの魂はニンゲンの身体の中にそのまま安定させ、そしてもう一つの魂……つまり"スカラベ"のソレは、私なりに分析しデータ化した後、緑色のフォルクスワーゲンビートルの、記憶メモリーの中に入れました。何故ならソレは甲虫のイメージで、親和性が有ると考えたからです。」
伯爵は、とんでもない事を涼しい顔で言った。
「その頃の私は、まだ自分の周りに、どんどん内なる古代エジプトの神々が、来るべき危機に備えて集まって来るなどとは、想像すらしていませんでした。無論、そのスカラベが、最初の五次元世界からの使者である事も、気づいていません……いや、むしろ、ソレこそがスカラベ自身の思惑だったのかもしれないと、今では思っています。」
「結果的にスカラベの存在を、僕自身を含めたみんなに対して、秘密にする事になった件が……ですね?」
「そうです。そしてそれは切り札となり、先日の我々の勝利に結びつきました。」
「驚いたよ。私ですら分からなかったからな。本当に上手く隠しおおせて来たものだよ。」
同じテーブルに居たウアジェト女王がそう言った。
「その通りです。"特に貴女に対しては"、打ち明ける訳には行かなかった……実を言うと、最初に雪村君にだけは、ネタバレをしたんですよ。すると彼から、そうしろとアドバイスを頂いたのでね。今回の作戦も彼が考えて、過去の下賀茂神社経由で、藤原貞子さんに伝えられたモノなのですから、彼は今回の勝利の、陰の功労者なのですよ。」




