㉕ 初めての敗北か
『さあ、どうする?次は誰が、吾輩の相手をしてくれるのかな?』
蠅の王は余裕でそう言った。
雪村は別の時空に行ったきり、未だに帰らない。
メジェドもウアジェト女王も、地下世界に閉じ込められたままだ。
カグヤ・イシュタルの回復は未だ見込みが無く、成雪はそれにつきっ切りだ。
あと、この場で剣を握った経験が有る者は……。
「私がお相手しましょう。」
中央の黒いビートルの中から、サン・ジェルマン伯爵が出て来てルーフの上に乗り、そう言った。
「私も戦います!」
それまで鷹志の隣に座っていた、ジャンヌ・ダルクもそう言うと、助手席から出てルーフの上に立った。
二人とも、今戦いに参加できない仲間の分まで含めた、2本の剣を両手に持っていた。つまり二刀流だ。
そして最後に、銀色のビートルからも、同様に2本の剣を握った雪子が出て来た。
3人の狙いは、はっきりしている。
ベルゼブブの頭と胸、胸と腹のパーツをそれぞれ繋いでいる、関節部分を同時に切り離す事だ。それが唯一、ヤツの命を奪う手段だった。ボクが誰よりもそれを良く知っている
(……アレッ?ボクは何故ソレを知っているのだろう?一体いつ、誰から聞いたんだっけ……?)鷹志はふと思った。彼の頭の中は混乱していた。そして、そんな事を考えているうちに、先程の3人は同時に攻撃を開始していた。
蠅の王の6本の脚の鋭いカギ爪と、3人のニンゲンの6本の剣との闘いだ。
序盤こそ互角の様子だったが、次第にニンゲン側が、ベルゼブブに押され始めた。雪子が剣撃の合間に、チカラを使っての攻撃を挟んでいるが、テレキネシスの類は、蠅の王には全くダメージを与えられない。とにかく外骨格が頑丈で、外的なチカラを全く受け付けないのだ。その上タフで疲れ知らずだ。超低温に対する耐性も高い。どう考えても、長期戦ではニンゲン側に不利だった。
やがて3人は皆疲れが蓄積し、攻撃の手が止まってしまい、肩で息をし始めた。
「どうしたニンゲンども。もう終わりか?」
ベルゼブブがニヤニヤ笑いながら、勝ち誇ったようにそう言った。
「どうやら、我々では貴方に敵わないようですね。」
サン・ジェルマン伯爵が、まるで敗北を認めるような発言をした。
「そうか。では、潔く負けを認め、我が軍門に下るのだな?吾輩は寛大なタチでな。勇敢な戦士には、手厚い待遇を保証をしてやるぞ。」
「……いや、我が方には、もう一人だけ、戦士が残っているのですよ?」
伯爵はそう言うと、鷹志の方を見たのである。




