㉔ 弱点を狙え
それは、急激な温度変化に弱いという、昆虫の弱点を狙った攻撃法だった。
恐らく、絶対零度とも言われる極寒の宇宙空間では、ベルゼブブ本人が、何かしらのチカラを使って防壁を張り、手下の兵隊たちを守っていたのだ。しかし、この大気圏内では、そんな余計なチカラを使っていないはずであった。
狙いはドンピシャリ(昭和の死語?)だった。
蠅の手下たちは次々に凍り、身動きが取れなくなった。
そこですかさず、今日だけは黄色いビートルのハンドルを握っていた真田香子が、チカラを解放した。前方のトランクのフタが開き、中から100体以上の巨大なウツボノカズラが無数に現れ、空中に蔓を伸ばして、凍り付いた蠅たちを次々に呑み込み、消化して行ったのだ。
「残るはアナタだけよ!」
由理子がそう言うと、彼女が操縦する赤いビートルの背後に、まるで守護神のように、あの巨大な怪鳥、ケツアルコアトルスが現れたのだ。
「お願いよ!あいつをやっつけて!」
由理子の願いを聞き入れ、怪鳥がベルゼブブに襲い掛かった。
ケツアルコアトルスはあっという間に、ベルゼブブをひと呑みにしてしまった。いや、これではあっけなさすぎる。皆がそう思った瞬間、その喉を内側から掻き破って、ベルゼブブが出て来てしまったのだ!
『古代の鳥など……大きいだけで、神々の戦いの現場では、大した戦力にはならんぞ?こんなモノを巻き込むとは……まったく、稚拙で無謀な事を。いやむしろ、哀れと言うべきかな?』ヤツはそう言うと、掴んでいた怪鳥の首を手から離した。
ケツアルコアトルスは力無く落下して行き、巨大な球形の、電磁防壁の一番下に引っかかった。由理子は深い悲しみに襲われ、泣きはらしてしまったが、最早彼女には、どうすることも出来ない。
「私が行きます。」
見かねた弓子がそう言うと、雪子が操縦する、銀色のビートルの助手席から飛び出した。
彼女には短時間なら、空を飛ぶチカラがあった。
そして何より、傷ついた者を癒す、ヒーラーとしての実力にも、優れていたのだ。
だからこの場合、適役だったと言える。
彼女はすぐに怪鳥の元までたどり着くと、チカラを使ってキズの治療を始めた。
『ほう。あの女は戦闘員ではないのだな?なら、見逃してやろう。』
ベルゼブブが余裕を見せて、そんな事を呟いた。
その一連の出来事を、緑色のビートルの運転席から、杉浦鷹志は見ていた。
やはり自分にはもう、こんな恐ろしい戦いに、介入する余地は無い。
彼は改めて、そう再認識したのである。




