㉑ 戦力外の存在
『姑息な……逃げたか?』ベルゼブブは、忌々し気に呟いた。
その言葉通り、雪村は、空間ごと潰されるのをギリギリで回避し、咄嗟に、ランダムに開けたポータルに、逃げ込んだのだった。実を言うと、あらかじめ、自分と同じチカラで攻撃された場合の対処法は、充分シミュレーション済みだった。
雪村がポータルから出た先は、あの下賀茂神社の鳥居の下だった。ただ、いつの時点か分からない。そこで、左腕のデバイスを起動させ、日付を出してみた。画面に表示されたのは、1796年1月1日0時00分という日時だった。もう、それ以外の機能は働かないようだ。
咄嗟に無茶なチカラの使い方をしたので、その影響で、デバイスにも不具合が出ているらしい。そして、今の戦闘ではっきりした事は、"自分のチカラではベルゼブブに対抗できない"という厳しい現実だった。
それにどうやら、自分自身も、チカラを失ってしまったようだ。コレが一時的なトラブルなのか、それとも、もう二度とチカラを使えないのかも不明だ。更に言うなら、内なる古代エジプトの神、アモン・ラーの気配も、全く感じなくなっていた。雪村は、今や自分が、完全に戦力外になってしまった事を、自覚したのだった。
しかし、そんな現状においてただ一つだけ、自分が今いる時空に、意味を見出す事は出来た。そして「……そうか、そういう事だったのか。」と、一人で納得し、使命を果たすべく、彼は動き始めた。目指すは、近隣に居を構える、藤原家である。そこで今から、藤原貞子の祖母に会い、今後のアドバイスを授けるのだ。
『……まあ、いい。これで暫くは、ヤツの忌々しい顔を拝まずに済むだろう。』
一方、1999年7月のベルゼブブは、呟いていた。
まずは地下のポータル出入口を、全て電磁防壁で塞ぐ事により、メジェドが地上に戻る道を断ち、その介入を防いだ。そして今また、真田雪村にダメージを与え、時空の彼方へ追いやった。神獣や霊獣も、バッタ退治でさぞや忙しかろう。いよいよ後に残るのは、雑魚ばかりだ。ベルゼブブは、ほくそ笑んでいた。
その頃、名護屋テレビ塔の亜空間レストランでは、雪子が狼狽えていた。「私、感じるの。今、この時空から、雪村の生命反応が……消えたわ。」
「私にも……分かります。この時空のどこにも、雪村君が居ない。」弓子も悲しい顔でそう言った。
「皆さん、落ち着いて下さい。何か事情があって、他の時空に行ったのかも知れませんよ?」
サン・ジェルマン伯爵が冷静に言った。
「こんな大事な時にですか?」
思わず鷹志がそう言った。




