⑯ 成層圏の攻防
さて、そんな事を、チーム・サン・ジェルマンのメンバーで話し合っていた頃、地球の遥か上空では、全く別の動きが起きていた。迫りくるベルゼブブの円盤に気づいて、成層圏クラゲたちが、それに対抗するべく、集結していたのである。
彼等はそのカラダを張って、成層圏の中で透明なバリヤのようになり、円盤からの攻撃の射線に入りそうな場所を、防御する構えを取ったのだ。それは恐らく、地球環境を守るための、本能的な行動だった。
「小賢しい真似をする下等生物め。お望み通り、美味しい砲弾を喰らわせてやるわ。」
その様子を、円盤内の艦長席で眺めていたベルゼブブは、ほくそ笑んだ。そして、ただちに砲手に命じた。
「フロンガス弾用意。撃てい!」
クラゲたちは本能の赴くままに、飛んで来た全ての砲弾に喰らいつき、それを分解・消化した。そしてその結果、皆がカラダに異変を起こした。フロンガスは、成層圏クラゲたちの唯一の弱点だったのだ。その事を、ベルゼブブはよく知っていたのである。
そこに集結していた全てのクラゲたちは、フロンガスによって自分自身が分解され、大気の中に、すっかり溶けてしまった。そしてこの日以来、天然のガーディアンを失った成層圏内に、オゾンホールが、大きく開いてしまったと言われている。
その一連の様子を、ベルゼブブの円盤の後方から、観察していた者が有った。
それは、小さな円盤に乗った、カグヤ・イシュタルの父とその仲間たちである。
もちろん光学迷彩を使っているので、肉眼では視認されてはいないが、ベルゼブブの軍団には、気づかれているに違いなかった。しかし恐らく、取るに足らない相手として、無視しているのだろう。
「現時点の動きを持って、ベルゼブブの船の、惑星ガイアに対する敵対行為と見なす。つまり我々の敵だ。」
その小さな円盤の艦長たる、イシュタル氏はそう宣言した。
「我々の持てる全ての科学力で、コレに対抗することにしよう。」
彼は仲間の乗員たち(実は戦闘員は一人もおらず、皆研究者だったのだが)に決意表明すると、艦長しか押せない、赤い発射ボタンを押した。それはベルゼブブの船に向けて撃つべく、既にロックオンしてあったのだ。
すると彼らの更に後方、つまり月面に異変が起こった。悠久とも言えそうな長い間、穏やかな表の顔しか見せていなかったあの月が、なんと徐々に自転を速め、本来裏面だった部分を、少しずつ地球側に見せ始めたのである。




