⑭ 提案の拒否
「……謹んでお断り申し上げる。」
横から口を挟んだのは、雪村だった。
「どうせ、我々人類から、色々差し出させるのが、貴様の真の目的なのだろう?」
『……それはまあ、ギブ&テイクだな。所謂、等価交換というヤツだよ。』
そう言って、その巨大な蝿は、毛むくじゃらの外骨格のカラダを、ワサワサ揺すりながら、笑ったようだった……まあ、表情は一切解らないのだが。
『……今の返事は代表者からのモノではないので、正式なモノではないと解釈する。では、吾輩は宇宙の船にて待っている。良い返事を期待しているぞ。』
巨大な蠅は、言いたいことを言い終えると、現れた時と同様に、その場から、音も無く消えてしまった。
「あんなヤツ、チカラを使って、プレッシャーをかけてやれば良かったのに……。」
雪子が雪村に向かって呟く。
「気がつかなかったのかい?アレは本体じゃなかったよ。かと言って、ホログラム……つまり立体映像の類でもなかった。」
と雪村が答える。
「えっ?」どうやら雪子には分からなかったようだった。
無論、他のメンバーも、ただ一人を除いて、その事実に気づいてはいなかった。
「薄々、怪しいとは思っていましたが……やはりそうでしたか。」
そう言ったのは、サン・ジェルマン伯爵だった。
「恐らく今のは、彼独自のチカラなのでしょうね。時空を超えて、自分の一部を跳ばすチカラ。高度な分身の術のような……原理はとても想像すら出来ませんが。」
「……私は、精神体だけなら、別の時空へ跳ばす技術を知っているけど、物理的な肉体の分離は無理だわ。」途方に暮れたように雪子が言った。
そんな事を話し合っていると、伯爵の左腕に装着していたリング型デバイスから、着信音があった。それは衛星軌道上を警備している、ブラックナイトから、ウアジェト女王の部下のこんな報告だった。
『月と地球の中間点に、巨大な円盤状の未確認飛行物体有り。さらにその後方にも、一回り小さな円盤状の物体有り。』
「大きい方は多分、先程の蠅の王のモノでしょうね。しかし後方のモノは……?」
伯爵が訝しげに呟く。
「あのう……映像は出せませんか?」
そこで話し掛けたのは、元・輝夜姫の、カグヤ・イシュタルだった。
「……?あ、ああ、出せますよ。」
伯爵はそう言うと、すぐにデバイス上の空間に、ブラックナイトから受信した、立体映像を出して見せた。
そこには、青紫色に鈍く光る巨大な円盤の向こうに、確かに少し小さめの、ライトグリーンに輝く円盤の姿が見えた。




