⑬ 敵との対峙
その時は、唐突に訪れた。
エレベーター前に、見た事も聞いた事も無いような異形のモノが、文字通り音も無く現れたのだ。
ソレは、身の丈2mは有ろうかと思われる、巨大な蝿だった。赤い複眼に、メタリックな質感のダークパープルの身体。薄っすら緑がかった透明感の有る羽根。毛むくじゃらでワサワサ蠢く6本の脚も、勿論やたらと長かった。
それをルッキズムと批判するのは、いささか酷というモノである。特別虫が苦手じゃなくても、見ていて気分の良いモノでは無いのは確かだった。"けいおん!"の"秋山澪"なら卒倒するレベルのビジュアルだった。
しかしながら、こんな時に、スフィンクも鵺も、バッタ討伐のために遠征しているから、瞬時にソレに反応し、攻撃するモノは、このサロンに居なかったのである。
第一居たとしても、室内で不用意に攻撃を始めれば、味方にも被害が出そうだった。そして幸か不幸か、あのメジェドも、まるで誰かが企んだように、地下世界に行ったきり、帰って来てはいない……。
『……全く。ここのセキュリティは、どうしてこんなにザルなんだ?』
ソイツが発したその聞き覚えのあるセリフは、今日まで何度も、様々な人物とシチュエーションによって、繰り返し語られて来たモノだった。ただし、それは口に出した言葉ではなく、いわゆるテレパシーによるものだった。
「今更ながら尋ねるのも、いささか無粋な感じがしますが、貴方は一体、何者なのでしょうか?」
サン・ジェルマン伯爵が、努めて冷静な態度を装い、果敢にもソレに話し掛けた。
『おお、コレは済まない。申し遅れたな。我が名はベルゼブブ。我こそは"この世界の真実の王"である。つい先日、避難先の火星から、この"惑星ガイア"……つまりキミたちが"地球"と呼ぶ星に、帰って来たのだよ。3万年ほど前に、キミたちニンゲンが、戦争でこの星の環境をすっかり破壊してしまったからね。やっと環境も回復したというのに、また壊そうとしているキミたちから、"私のガイア"を返してもらいに来たのだ……そこで本日は、現在この星を守ろうと画策している、サン・ジェルマンの仲間の面々に、一つ提案が有ってやって来たのだ。』
「ほほう。それは一体、どの様なモノでしょう?」
『うむ、どうだろう。無益な抵抗をやめて、直ちに降伏し、アラハバキと同じように、我が軍門に降らぬか?今なら、我が指示の元、貴様らに地球統治を任せても良いのだぞ。どうだ、悪い話ではあるまい?』




