⑫ 波状攻撃
この世界的な蝗害は、極端な干ばつと異常な大雨や洪水という気候の急激な変動が、バッタの爆発的増加の原因だったと、一般的には言われている。しかし、ソレだけでは説明がつかない程の、大量発生だった。
何しろ被害に遭った農地は、世界中で、のべ500万ヘクタールは下らないのだ。そして想像してみて欲しい。1平方メートルあたり、4000匹以上の密度で、バッタが襲ってくるのだ。少し考えただけで、気分が悪くなりそうである。
オーストラリアでは、それを"聖書級の災厄"と呼び、またロシアでは、"国際政治のもめごとよりも深刻な国家の重大危機"と呼んだ。そして、それらの表現は、決して大げさでは無かったのである。
恐らく、先のアラハバキの遊撃と連動した、ベルゼブブの攻撃だろうというのが、伯爵の解釈だった。つまり、"蠅の王"と"急進的な爬虫類族"は、裏で結託している訳だ。それは、チーム・サン・ジェルマンにとって、中々にやっかいな状況になっている事を意味していた。
今回の攻撃の目的は、一種の"兵糧攻め"のようなモノだろうか?それともひょっとすると、その気になれば、"ここまでの数の虫の軍勢を動かせるぞ"という、自らのチカラの誇示かも知れない……。
そしてついに、運命の7月4日の日曜日がやって来た。
時刻は午前9時頃。チーム・サン・ジェルマンの面々は、名護屋テレビ塔の亜空間レストランに集合していた。
表面上は皆、朝食後のティータイムを、のんびり楽しんでいるように見える。しかし、心の奥底では、誰一人油断してなどいなかった。
あのバッタの軍団の攻撃以来、今日までベルゼブブからの目立った動きは無かったが、それが嵐の前の静けさだという事は、皆分かっていたのだった。
「そろそろよね?」
戦闘の勘に関しては人一番鋭い、セーラー服を着た、永遠の17歳の雪子が言った。
「はい。間違いありません。来ます。」
悪意や殺意を感じ取る能力に特化した、雪村のパートナー、黒いワンピースを着た弓子が言った。
歴戦の勇者、甲冑を見に着けたジャンヌ・ダルクや、天女の衣装の若きアヌンナキ、カグヤ・イシュタル、過去の下鴨神社からやって来た、巫女の藤原貞子の三人も、何かしらの気配めいたモノを感じ取り、身構えていた。
真田雪村は妹の香子、由理子とそのパートナーの鷹志、妻の弓子とともに泰然自若という風情でテーブルについている。もちろん何かあったら、真っ先に同じテーブルのメンバーを守る構えだ。
そして中央のバーカウンターには、この集まりの主催者の、バーテンダー姿をしたサン・ジェルマン伯爵と、その内縁の妻で雪女の末裔の、村田京子が陣取っていた。彼女は今日も、黄色いワンピースを着ていた。




