↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
111/127

この拳は守る為に⑤

鉱山が閉鎖されて数日。

町づくりは、まだまだ混乱だらけだった。


瓦礫を片づけて、崩れた建物を直して、使えそうな資材をかき集める。

やることはいくらでもあって、気がつけば日が暮れていた。


でも、殴られないで働けるってだけで、皆の顔がだいぶ違って見える。

それだけで、こんなに空気が軽くなるなんて知らなかった。


(……悪くねぇな、こういうのも)


汗を拭って空を見上げてると、後ろから声を掛けられた。


「トーラ、ちょっといいか?」


振り返ると、レオンが立っていた。

手には丸めた紙を持っている。


「なんだよ? 今度は何するんだ?」


「いや、今日は“相談”だ」


レオンは手にしていた紙を広げた。

そこには町の地図と、いくつかの印が描かれていた。


「自警団の設立案だ」


「じけい……団?」


聞き慣れない言葉に、思わず首をかしげる。


「外から来る盗賊や害獣への対処。災害が起きたときの避難誘導。住民同士で揉め事が起きたときも、誰かが間に入らなきゃいけない」


なるほど。

鉱山が動いてた頃には、そんなこと考えたこともなかった。


「……俺がまとめ役になる。トーラ、お前にも力を貸してほしい」


「……アタイが?」


レオンはまっすぐアタイを見て、言葉を続けた。


「お前が縛られるのを嫌うのはわかってる。だから、無理に役目を押しつけるつもりはない。ただ、何かあった時に力を貸してくれる奴が必要なんだ」


(アタイが……町を守る? そんなこと、本当にできんのか?)


ずっと力を怖がられて、抑え込まれて、“危険だから縛っておくべき奴”みたいに扱われてきたのに。


でも、あの日アタイが拳を振るったのは、ただムカついたからじゃない。

目の前で怯えてる奴らを、見捨てられなかったからだ。


今まで怖がられるだけだったアタイの拳が、誰かを守るために使える。

そんな日が来るなんて、考えたこともなかった。


「……いいぜ。アタイにできることがあるなら、やるよ」


「ああ。頼りにしてるよ、トーラ」


こうして、アタイは自警団の一員になった。


◇ ◇ ◇


自警団の仕事を始めてから、一つ季節が過ぎた。

かつて泣き声と怒号が響いていた町では、今じゃ朝になると子どもの笑い声が聞こえる。


誰も怒鳴られず、誰も縛られない。

働いてる奴らの顔つきも、夜の空気も、前よりずっと柔らかくなった。

瓦礫だらけだった坂道には、新しい家の骨組みが立ち並び、壊れていた街灯にも灯りが戻り始めている。


(……変わったな、この町も)


アタイは見回りの途中で足を止め、大きく息を吸った。


昔は、ここはただの“鉄の檻”だった。


アタイの力は怖がられて、拳を振るうこともできなくて、

逃げるでもなく、変えるでもなく――ただ、拳を閉じて立ってるだけの場所だった。


でも今は違う。

あの時、“守りたい”と思って振るった拳が、この町の最初の一歩になった。


「……アタイも変わったもんだよな」


ぼそっと笑うと、胸の奥がじんわり温かくなる。


町が変わると、人の顔も変わる。

人の顔が変わると、アタイの胸の中も変わる。


不思議なもんだ。

アタイがここで得たのは“力の使い方”じゃない。

誰かが笑う場所を、自分の手で作っていけるんだって実感だ。


空を見上げると、夕陽が赤く傾いて町を照らしていた。

かつて血と埃の色に見えていたこの赤が、今日は妙にあったかくて――まるで、この町の未来が灯り始めてるみたいだった。


「この拳も……悪くねぇ使い道があるじゃねぇか」


拳を軽く握り、夕陽に向けてぐっと突き出す。


この町は、もう檻じゃない。

アタイの“生きていい場所”になった。


だからこそ、いつかこの町を出て、新しい景色を見に行くことだって、きっとある。

その時は、胸を張って出ていける。


だってここは、帰れる場所になったんだから。

トーラの過去編、最後までお読みいただきありがとうございました。


今では豪快で頼れる姉御肌のトーラですが、彼女にも自分の力に悩み、その拳を振るえなかった時代がありました。


そんな彼女が、なぜ「誰かを守るため」に拳を振るうようになったのか。

少しでも本編のトーラを、より身近に感じてもらえたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。