82、遠出
「・・・・・・・・・・・・・・」
眠い・・・。
もう朝の起床時間は過ぎていると自覚しながら弥叉は布団の中から出られずにいた。
ここ最近アジュラに連れられてマリアの修行並みにハードな魔物狩りに付き合わされた所為で身体が日に日に重くなっている気がする。
マリアは修行の限界前には休憩を入れ、体を休める為の骨休めの休日を作ってくれていたのでここまで酷くはならずに済んでいたのだろうがアジュラにそんな配慮があるわけがなくそのうち過労が原因で死ぬんじゃないかすら思えてくる。
また今日も来るのかと思うと泣けてくる。
そういえばアジュラによる犠牲者が一人増えた。
俺の相棒で従魔登録をしたゼルフだ。
今まで泊まっている宿にアジュラが迎えに来ていたのだからむしろ会うのが遅かったぐらいなのだが御蔭で少しは楽になった。ゼルフは悲鳴に似た鳴き声を溢していたが・・・。
まあいいか・・・それよりもう一眠り・・・・・・。
「ぐぇ!?」
「おい、いつまで寝てるんだよ。さっさと起きて行くぞ!」
どうやら俺の朝の平穏はタイムリミットを迎えたらしい。
「アジュラ?朝っぱらから寝込みを襲うのはどうかと思うぞ」
「?こんな時間になっても起きてない弥叉が悪いだろ?今日はちょっと遠くに行こうと思ってるからな。早く準備しろよ」
「遠出か?そんなのいきなり言って用意できるもんじゃないぞ」
それに俺の身体を馬乗りにされているから動きたくても動けないし。
「オレの勘がそこに行けば楽しい戦いが待ってる気がするんだよ。だからさっさと仕度してくれ」
「分かった、分かった。準備するよ。それで場所はどこなんだ?」
「西だ!」
「西って前に行った場所か?」
「いやもっと西だ!」
さらに西にアジュラの好きそうな環境なんてあったか?
「二泊は野宿も入れてくからそのつもりで用意しろよ」
「・・・・・一応お前近衛部隊の兵士なんだろ?そんなんでいいのか?」
「じいちゃんに文句を言わせないからな。問題ない」
(あの宰相とことん孫に舐められてるな)
「だからさっさと起きろ。他のにも声を掛けないといけないからな。あの犬も連れて来いよ」
ご愁傷さま。すでに全員行くのが決定事項のようだ。
まぁ、言われなくても|ゼルフ(犠牲者)を仲間はずれにする気はないけどね。
「じゃあそれで。それから弥叉お前なんで短刀なんて差しながら寝てるんだ?痛いだろ?」
「いや持ってないぞ?」
「いやだってここに固いのが・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・あーーー。気づかれましたか。
まぁ乗られた時からもう何時気づかれるかって状態だったんだが。
「これは男の性で健康的男児なら当たり前の現象でして」
「・・・・嘘をつくな。・・・あんな・・・あんな固いものが毎日なっているというのか」
「健康的男児ですから」
「そうか・・・」
あれ?もしかしてこのまま許してもらえるんじゃないか・・
「なら半殺しで許してやる。動けはするから準備は怠るなよ」
どうやら死刑を回避できただけらしい(泣)。どうか優しくお願いします。
その後結局アジュラによる制裁は半殺しで死ぬ事はなかったが身体は立ち上がる事ができないぐらいズタボロにされた。幸いだったのは腕が動かせたのでアイテムボックスから何とか回復役を取り出せてすぐに動けるようになれた事だ。
◇ ◆ ◇
それから約1時間半。
俺とアジュラを除くいつものパーティーメンバー4人と捕縛されたゼルフもギルド前に集合した。
「食料と路銀の準備はできました」
「馬はヤシャとシノが乗れないから四頭分頼んだよ。ヤシャがいるから馬車じゃなくていいんだよね?」
「私達の予備の武器は馬に積ませといた方がいいね」
そして現在俺は戦力外になっている。
遠出の準備と言われてアイテムボックスに金も食料も十分に入っているし実際はただ外で狩りをする格好にさえなればいいと思っていたのだがギルドに着いたらイヨにダメ出しをくらい見ての通り普通の遠出の準備がされていた。
「ヤシャさんって旅人じゃなかったの?」
「今までこの準備で十分だったので」
「はぁ・・まぁいいからギルドに数日外に出ることを伝えてきて。まだ行ってないんでしょ?」
「そういう決まりなのか?」
「そういうものよ」
だいぶこっちの世界に慣れてはきたがこういった所ではまだまだ常識知らずが顔を出してしまう。
俺は言ってくると一言残してギルドに入ると受付に遠出すると伝え、また何か残したいことはあるかというので少し前から宰相の頼みで兵の強化合宿で宿に帰って来ていないマリアに今回の事を伝えていないので来たら伝えてくれるように頼んでおいた。
「ヤシャ。準備できたってから早くしろよ」
「分かった今行く」
「それではいってらっしゃいませ」
ギルドを後にした俺は馬に乗り(なんか俺を誰の馬に乗せるかで口論になってジャンケンで負けたイヨに乗ることになった。という泣きたい状況がありながら)出発した。
天気は晴れているが走る馬からくる風がやや寒く感じる。
隊列は一番前にアジュラ。その後ろの馬にコロルとシノ。さらに後ろにマーキリーが荷物を持っていて最後尾にイヨと俺、それからゼルフがいつも通り俺の頭に乗っている。
「ヤシャさん」
「なんだ?」
「ヤシャさんってアドリーバスから来たんですよね?何日ぐらいかかったんです?」
「え~と、確か10日ぐらいだったか?」
「10日ですか!?歩きだと魔物との接触が多いから時間かかるのによくそんな時間で来れましたね。流石です」
なぜか褒められた。
アドリーバスからオガスまでの旅で思い出すのは重力の修行による地獄の日々だけで魔物とか気にしている暇なんてなかったんだが。ゼルフもあの日々を思い出して震えている。
「でもこれからは旅で馬を使った方がいいですよ」
「いや馬でも自分ででもそんな時間変わらないし」
これは本当だ。
この世界ではステータスによる速度上昇で向こうの何倍の速度で移動できる。対して馬は物によって変わりはするが大体店にいるのは10レベ台でレベル30を超えた段階ぐらいで自分で走るのとほとんど変わらないのである。マリアからはあんなのいても邪魔なだけと言っていた。
「でも馬がいると自分で走る必要が無いから楽ですよ?」
「そもそも乗れないからやっぱり必要ないな」
そんな感じで馬の上で駄弁りながら時間を潰し出てきた(主にアジュラが)魔物は倒していく。
そして言っていた通りその日は野宿となり二日目もたまたま出会った魔物の対処だけして馬を走らせ続けていき、
更に次の日・・・・ノルティアの門をくぐった。




