79、最凶の戦鬼
オガスの商人達と会談を開いてから早数日が経過していた。
現在は宰相の指示で材料をギルドを通して集められ、製品作りを任された商会はフル稼働で在庫を蓄え出している。
マリアも同時進行で行われている悪徳商人と繋がりのある貴族の捕縛作業で反抗してくる連中を鎮圧するために手伝っている。
副隊長は今回の結果を報告する為アドリーバスに戻っている。別れの時、まったくの蚊帳の外にしたのに怒らなかったが泣いて感謝しながら公衆の面前で抱き付かれたのでそっちのが苦しかった。
シャルにはいい報告ができるだろう。
そしてそれは企画者である弥叉も本来参加する。・・・はずなのだが、
「手伝おうとしてもなぜかみんなから避けられるんだよな。なんか嫌われるようなことしたか俺・・・」
手伝いに行った先々で会議に参加した代表にお願いだから何もすることがないから帰ってくれと嘆願されて何もできなくなってしまっていた。
まぁ、どこも順調に準備が進んでいるようだからいいんだけど。
そんな多事多端な中で何もすることがなくのんびりするのも居心地悪く動いてたかった俺はならギルドの材料調達の依頼でも受けようかと仲良くなった四人を誘ってギルドに向かい、そこで再会を果たした。
名をアジュラ。この辺りでは知らぬ者はいないとされる親子の子どもの方だった。
後で聞いた事だがオガス近衛部隊の切り込み隊長を任されており、家柄もオガス領を収めるオガスの王と宰相閣下の家に連なる名家であるらしい。
本人を見た後で説明されてももう遅かったのだが、そのオガスの代表の一角と言ってもいい家の出の娘はなんというか・・・・・それはもうやばかった。
完全無欠の戦闘狂。一に戦闘、二に戦争、三に抗争とでもいいのかとにかく戦闘をこよなく愛しているかのようなキ〇ガイの具現化したような者であった。
さっき言った有名というのも家柄より戦闘の方が有名なぐらいだ。
そして何を隠そうこの子が俺がグラムさんの治療に進言してまで後遺症を負わずに助けた娘であった。
「おーい、ヤシャー!迎えに来てやったぞー!」
今日もまた迎えに来たようだ。
「よう。アジュラ、早いな」
「さっさと出て来いよ」
「これ食ったらな。お前も食うか?」
「おう、投げてくれ」
俺は朝食にパンを一つアジュラに向かって投げる。
「早くしろと言いながらも食うんだな」
「早くした方が多く狩れるからってだけで予定は決まってないからな」
「適当だな」
「ヤシャも似たようなもんだろ?」
「それは違うぞ。俺は狩りに行くっていう予定すら考えてないからな。ほら、違うだろ」
「そっちのがひでーじゃねーかよ」
アジュラの見た目は20歳前。スレンダーな女戦士と言った感じだ。
「俺はその方がいいんだよ。・・・ていうかアジュラの部隊も動いてるんじゃないのかよ」
「じいちゃんから止められたんだよ。近衛隊は半数はまだ治療中だから動くな!ってさ。単独でもダメって言われたし」
「じいちゃんって宰相だよな。・・・あの人俺にアジュラを押し付けてないか?」
俺がアジュラを知った後、意味あり気な視線を向けられたが今なら分かる。あれは同情だった。
「なんか言ったかヤシャ?」
「いやなんでもないぞ」
「ならさっさと行こうぜ。もう食い終わっただろう」
「あぁ、分かったよ」
食事が終わった途端の催促に今度は何も断れる理由がなく素直に席を立った。
これも後になって知ったことだがじいちゃん事宰相はアジュラには強く言えないらしい。なんでもアジュラの父(今は王と一緒に外に出ているらしい)がやりたいようにやらせる様にする教育方針を取っているのだが過去口出ししたことで宰相宅に槍の雨が降ってきたという。
一体どうすればそうなるのか知らないがそれ以後悪さをしない限り目をつぶっているそうだ。
それに親もアジュラ以上に戦闘狂らしい。もう救いようのない戦闘民族だった。
そんな戦闘狂のアジュラと知り合ったのも普通な訳がなく衝撃的なんて言葉が生易しいものであった。
説明すると―――。
「うわっ。何この全身血塗れどうやったらこうなるんだよ。戦闘狂?戦闘民族?返り血浴びるってどんな殺し方したんだよ。しかも持っているの生首だよね。まさかの魔物じゃなくて人殺し?それとも仲間が戦闘で死んじゃって首だけ持ってきたとか?それにしては首の数が多すぎるけど。つか何そのその笑み。血塗れで生首持って笑うってかなり怖いんですけど。近づかないもらいたいな。何首落としてんの?来るなよ!来ないで!あっーーー!」
と、まぁゾンビに襲われている様な出会いだった。
なんでも討伐対象の群れが報告より大きく、そのうえ帰りがけに包囲の網から抜け出し逃亡を目論んだ貴族と鉢合い連れて帰る縄が無いので証拠になる首だけ持って帰ってきたとのこと。
間が悪いもほどがある。
そして初見以来何を気に入ったのか知らないが暇をしている俺の元に訪れては毎度魔物退治のお供をしている。
「あっ・・・・・ヤシャ様。今日はどこを予定で?」
「今日は西で森に入ろうかと」
「それだと馬が掛かりますね。手配しますので少々お待ちを」
もうギルドには俺とアジュラが一緒に行動するのが広まっている。
そして手頃な相手が依頼であれば回され、無ければ活動場所を指定して他の冒険者を近づけないように手配するという特別処置がなされている。
「ヤシャ―。まだかよ早くしろよー」
「はひい」
アジュラの何気ない一言で周りは一歩遠のき受付は青ざめた顔で手配しに走っていく。
興味本位で関わった結果ぶち切れられて殺されたくはないのだろう。
もうこのギルドではアジュラの言葉は神らしい。・・・邪神だが。
俺も命の恩人というのもあって少しぐらいなら問題ないからこうやって話せるわけだし。
「アジュラ脅すなよ」
「んなことしてねーよ。向こうが勝手に勘違いするんだ」
「・・・今更か。アジュラの武器新調したのか?」
次の瞬間アジュラの目がこれでもかってぐらい輝き出した。
「そうなんだよ!小遣いを貯めて貯めて貯めて貯めてよーーーやく溜まった金で買ったんだよ。名槍ギルティ」
「・・・ギルティ?」
「槍の匠ギルティウスの作品でこれは十文字槍のギルティ。ギルティウスは同じ形の槍は作らなかったって言うから作品は全部〇〇のギルティって名なんだ」
「へぇー」
「今朝も魔物で試し切りしたんだけどよぉー。これが今までのが何だったんだってぐらい斬れるんだ。胴体貫通なんてできたんだぜぇ。」
「そうですか」
本当に無邪気に武器の説明をしてくれるアジュラの顔を説明する物さえ違ければ結構可愛いんだけどな。
「だから今日は百でも二百でも相手できらぁ!」
「任せるよ」
「ヤシャにも二、三匹なら譲ってやるからあいつらと一緒に経験積めよ」
あいつらつまり俺以外にも犠牲者は存在する。というか俺の所為で巻き込んでしまったと言った方が正しいか。
おっ、調度よく来たな。
「ヤシャさん今日もですか・・・」
「あぁ悪いな。巻き込んで」
来たのは例の事件のパーティーメンバーの四人。
会った時この四人も一緒にいて俺に付き合ってくれている。
付き合わなくてもいいぞと言ったら「ヤシャさんが困っているのに見て見ぬ振りなんてできません」と言ってくれた。その肩は震えていたのでアジュラが怖くないはずなのにだ。
本当に感謝の言葉しかない。
「ヤシャさん馬車の用意ができました」
「分かりました」
それじゃあ巨も魔物討伐に行くか。
そんな訳で俺は戦闘狂と出会い、6人で魔物討伐をすることになっている。




