73、採取試験
「バカニャ~そんなまさか」
「セレーナ現実を受け止めろよ。あ、泣くな。女に泣かれるのは弱いんだよ」
俺、工藤弥叉は戦闘Dランクの試験を余裕でクリアしてその強さを認められたのか戦闘の試験は見送りとなり場所が外だという事でそのまま採取の試験へと切り替わった。
試験内容は食用や薬物として需要のある物を時間内にどれだけ見つけられるかというシンプルなもの・・・だったのだがセレーナが俺を戦闘バカな奴だと思いたいのか説明中やたらと自分のが上だアピールを入れてきてムカついたので反論を入れてしまった。そしたら何故か「なら勝負してどちらが上かはっきりと分からせようか」と言う流れになり、職務乱用も甚だしいが試験に勝負が組み込まれた。
後から知ったことだがセレーナは犬耳である事で分かると思うが嗅覚が物凄く鋭い。その為食料採取にはかなりの自信があったらしい。
むしろ戦闘能力よりその嗅覚を生かして護衛では索敵、狩りでは魔物の捜索、警備の助っ人として犯人の追跡なんかが高く評価されて今のランクになったと言える。
だから本人は戦闘で既に自分より強いんじゃないかと思う(年上だけど)後輩相手に先輩面を見せたかっただけだったのだ。
しかしその結果がまさかの敗北であった。犬なのに言葉が猫みたいになるほどショックに打ちひしがられる結果だ。
「2本多かっただけで十分凄いと思いますよ」
「冒険者なり立てにいい勝負しているどころか2本も負けたんだよ」
励まそうにも俺がなんか言うたびに更に落ち込ませて目尻に涙を貯めさせてしまい今にも泣きそうで女性の涙なんて経験のない俺にはどうしていいのか分からず取り乱すしかなかった。
こんなことならむしろ負けた方がよかったぐらいである。
そもそもオレには採取ではチートスキルである中級鑑定があるのだ。
開始すぐにスキルをしよう。視界に入る草花の情報を集め説明文を読んで採取項目に該当する物だけを選び出し、後はそれと同じ名前のものがあったら取る、の流れで進めれば後半は流れ作業で集められるのだ。色や形に惑わされることもないし目で見逃しても鑑定スキルが補足するため取り残しもない。本当に反則と言ってもいいぐらいでむしろそれにいい勝負しているセレーナの方がよっぽど凄いと思う。
その気持ちを伝えればいいのだが鑑定は勇者の特典みたいな物で他に持っている人物がいないレアスキルで見つかって広まりでもして勇者や駄神に俺が生きているのを教えるようなものなので自分から漏らすわけにはいかない訳でなんと言ってスキルを隠して説明すればいいか分からない。
そんな訳で一日目の昇格試験は泣き止んだ頃には街へと戻る時間になり終了。
帰ってから結果をギルドに提出後、試験監督を泣かせたという部分だけが先行して噂になることを俺はまだ知らない。
◇ ◆ ◇
一方、弥叉の昇格試験の中別行動をしているマリアは鬼魁平野の戦いの後から休みとなっていた兵士の訓練が再開されるので見学に来ないかと宰相に誘われてゼルフ共々厄介になっていた。
「ではこれより訓練を開始する。今回は私の客人も参加されるので不甲斐ないところを見せるなよ。まずはランニング30周から始めろ」
競技場のような施設に集められた200単位のオーガ兵が宰相の言葉に声を上げて走り始める。
オーガは人間からは身体がデカく力が強いが速度が遅いとされているが集まったオーガ達は俊敏な動きで競うように走っている。
「どうですかな兵のの具合は?オーガが遅いという概念は感じさせないでしょう?」
「そうね良く鍛錬している。でもまだ走り出したばかりで感想を求められても困るわ」
「その通りですな。マリアさんには我々の凄さをその目にして帰っていただけなくては」
そんな兵達を眺めながら話しているのは宰相と私の他に本来兵の訓練の指導を行っている戦士長の一人グレヲ・ヴラハン、妖鬼ではなくオーガだが特異変異種である。
奪還戦争時には前線で戦いながら部隊を指揮して功績も上げている。
そんな戦士長が走る兵士にペースを上げろと指示すると兵士達は必至な形相で走る速度を上げ出した。
そしてまだ28周の段階で、
「止まれ。・・・ここから下の者は次の支度の用意。後の者は来客の相手だ」
戦士長の言葉の後兵士からは歓喜と落胆の叫びが上がる。
当然歓喜はマリアとの相手で落胆は支度兼地獄の強化メニュー行きだ。
実のところ今回の最初の項目は事前に知らされず兵士には戦士長からいい結果が残せた者は今日来る事となった宰相閣下の客人と戦う権利を与えられ訓練メニューもカットが約束される事だけ伝えていた。
改めて言うが兵士達はオーガである。当然男ばかりで女に縁が少ない者ばかりだ。むしろそのデカい図体に引かれた者もいるぐらいだ。
そんな連中が来客が女性だと知り戦闘で触れ合うチャンスがあると気づいた瞬間ほぼ全員が上位を目指すために必死になっていたのだ。
その結果が今回の競い合うような走り込みである。
「ではマリアさん。いいですよ」
更に言うとこの戦士長も宰相からの指示で今回の兵士の事を伝えるよう言われている。
なのでこれは戦士達の戦いの褒美かなにかだと思っていたりする。
まだマリアの事をただの女として扱い兵士達を笑顔で死地へと送っているのがいい証拠である。
「分かりました」
笑顔で応えてマリアが中央まで歩いていく姿に法を緩めている連中はまさか自分達が宰相の手のひらの上で本当の特別メニューに誘われたのだと気づいた者は未だいなかった。
セレーナの姿は背の高い運動できるリーダーで勝気な女子が落ち込んで泣く絵を作ろうとしたのに短くだとうまく書けず書き直しで最終的に主人公女泣かしという称号同様叫びたくなる二つ名をつける伏線にさせてもらいました。
あまり今後登場しないキャラのシーンは結構飛ばして書いているので進むペースを速くしてます。もっと本編外のこういった話にも力を入れろという意見があるまでは今回の様な番外は少なめで行こうと思っています。でないと一向に話が進まんし。
という訳で本来おいしい筈の昇格試験は短めに書きましたのでご了承ください。




