71、犬耳娘
市街地の中央にある比較的大きな建物へと向かっていた。
その建物の入り口の上には見た事のある羽と尻尾を生やした人を象った様な看板がぶら下がっていた。
あれはこの世界で最も一般的な悪魔を表していて店の名前は『魔族ギルド オガス支部』と書かれている。
ここで間違いないな。
マリアに解読して貰わなくてもこれぐらいなら何とか読めるようになったのだ。
扉を開け中に入ると内装は違うが受付に依頼書の掲示板、酒場と基本的あるものは変わらない。違うとすればガラガラだったアドリーバスと違いここは人がひしめき合っているという事だ。
入り口は常に誰かが出入りを繰り返し、酒場はまだ日が昇ったばっかだというのに飲んでいる人がチラホラ見える。
しかも筋肉隆々の男の割合が半端なく多くてむさ苦しい。
本来ならそれが普通のギルドの風景なのだが初めてがアドリーバスの人がいない状態だった弥叉はそんな失礼な感想を抱きながら受付の方に向かった。
「初めまして、ようこそ魔族ギルドへ。初心者の方でしょうか?それとも登録ですか?」
「初心者で合ってます。まだ登録半月の駆け出しです」
「そうですか。それでは今回は依頼でしょうか?それならあちらの掲示板から依頼書を取って隣のカウンターになりますが?」
オガス支部はカウンターが四人一組で三組あり依頼関係は隣のカウンターでここは初心者の登録に関してを主としているので受付は普通なのだがなんか他人行儀な対応に親しみの持てたイクリさんが懐かしくなってきた。
最初の印象が悪かったのに意外に気に入っていたみたいだ。
「いえ、今回は初心者の昇格試験を受けたいと思いまして」
「昇格試験登録時に受けなかった方ですね。それでは証明の品を提示してください」
証明品である腕輪を見せると一度受付の子は奥へと消えていき戻ってくるともう一人を連れて戻ってきた。
俺はこの人が試験監督してくれる人なのだろうとその人物を確認した。
そこにいたのは、肩まで伸びた銀髪を切り揃え、防具は最小限急所となる所だけを着け、下は半袖なのか素肌がそのまま露わになっている女性で、何やら不服と言いたげな雰囲気を隠すことなく放っていた。
その女性は受付の子が紹介してようやく顔を上げこちらを見て
「っ!」
俺は思わず見惚れてしまった。
目元は細められていて鋭く、肌は日焼けの後で程よく焼けており、胸当ての防具は少しきついのか窮屈そうに抑えられ見事なプロポーションである。そして何より目に入ったのはその顔の上についている。
犬耳に目を奪われてしまった。
最初銀髪に目が行き分からなかったが間違いなく犬耳がそこにあった。
なにこれ耳ってこんなピクピクするものなの?
細められた目も合わさって凛々しくも可愛い犬耳娘である。
身長も高く顔も美人で耳が無くても元の世界なら女性に人気のあるお姉さまのポジションを取れるような感じだ。
「・・・なんだよ」
あまり見過ぎて注意された。慌てて視線を受付の子に戻す。
「こちらが今回試験を受けたいというヤシャさんです。ヤシャさん、彼女は・・・」
「オレは受ける気はねえぞ」
「もう決まったんですから諦めて下さいよ」
うおぉ、すげぇ。自分の事をオレって言っているのに違和感がない女性初めて見た。
なんか俺の試験監督決めるのに揉めているようであった。
「そもそもオレはようやく戦争に参加した冒険者の後始末を終わらせて休んで良しって言われたばかりなんだぞ?それなのにまた働けってここはいつから職員をこんな働かせるようになったんだよ」
「それは貴方が記載ミスばかりするからでしょう。他の方はあなたの倍をこなしているんです。文句を言わずに諦めて下さい」
「休みが・・・」
どうやら不機嫌な理由は休憩が俺の所為でなくなったからのようだ。
確かに仕事終わりの休憩を邪魔されたくないもんな。それが自分の不得意分野なら尚更。
女性は年下だと思われる受付の子の言葉に押し黙ってしまったので受付の子は再び俺に彼女を紹介した。
「彼女はセレーナ・メイゼシカ。うちのギルド職員でこんな軽装ですが紺のBランクを取得していますので腕は保証していいです」
紺は戦闘、護衛、採取をC以上に指導官としての資格を持った者が与えられる階級だ。
そのBという事は十分な実力者という事である。
「いやオレなんかよりいい奴はいるから交代宣言してオレを解放してくれ」
「それは無理じゃないですか?」
紹介されると彼女――メイゼシカは受付に説得するのは諦めて今度は俺に断られたればとこちらに詰め寄ってきた。
でも受付の子が見ている状態でこんなことしても意味がないだろとそう言い返すと俺の反応が意外だったのかメイゼシカは驚いた顔をした。
「セレーナさん、脅迫で断られてもこちらは認めませんからね」
「あぁもう分かったよ。分かりました」
「それじゃあこれが昇格試験の依頼内容ね。一通り揃えたから彼を見てから決めること。無いと思うけど賄賂でランクをあげたりしたらクビですからね」
どうやら俺達の試験監督をしてくれるのをようやく承諾したらしい。
一先ず、これで試験は安心だなと思って、ふとある事を忘れている事に気が付いた。
「そうでした。これ護衛依頼の達成と登録したギルドマスターの推薦で護衛試験は免除にされることになっているんですが」
「「!?」」
なんか二人が初めて息ぴったりに驚いた顔でこちらに振り向いた。
あっ、耳がピーンと立ってる。どうにかあれ触らしてもらえないかなぁ。
「預からせてもらいます」
「どうぞ」
受付の子にギルドマスターの推薦を渡すとまた奥に行き、今度は中が少し騒がしくなった。
何か問題があったかと思っていると受付の子は戻ってきて、
「受理されましたので護衛のランクはCで試験免除されます。セレーナさん護衛の依頼書はこちらに返してください」
という事でメイゼシカが依頼書を返して護衛依頼免除は通った。
そしてもう何もありませんので行っていいですよという言葉に従い二人でギルドの外へと出た。
「なぜ護衛依頼が免除なのか疑問だが取りあえず、オレはセレーナ・メイゼシカだ。よろしくな」
「俺はヤシャ・クドウだ。こちらこそよろしくお願いします」
こうして冒険者としての初試験が始まった。




