7、脱出
契約が成功してから数分経過してマクペシュは体を離した。
「ありがとう・・・ございます」
落ち着いたのか身体を離してお礼を言われた。
心なしか憑き物が取れたような晴れやかな表情になっていて、自分の選択が良かったんだなと思えるいい笑顔を向けてくれた。
やっぱり綺麗な人だな。
「もう大丈夫か」
「はい・・・大丈夫です。ご主人様」
「えっ、そのご主人様って」
「え?・・・あの主従契約を・・交わしたので・・私、主人に・・・なったから」
あぁ、まぁそうなんですがね。
ご主人様って彼女から言われるとなんか違和感というか緊張や羞恥心が出てくる。
できればマクペシュとはもっとフレンドリーに話したい。
「なら・・クドウ様のがいいですか?」
「普通に弥叉って選択肢は?」
「それだと・・・主従じゃないと・・・思うのですが?」
「俺がそれでいいと思っているからいいんじゃないかな。それに親しかった友人たちからはそう呼ばれてたから、この世界で初めての仲間になるマクペシュには友人のように接して欲しいかな?敬語も無しで気軽な感じで」
「・・・分かりま、分かった・・・ヤシャと・・・呼びますね」
少し悩んだ末、嬉しそうに俺の名前を言いながら了承してもらえた。
「それじゃあマクペシュ
「私も名前で」
確かにマクペシュは姓なので俺だけ名前で呼ばせるのも変な感じだが、いざ言おうとして気づく。
「名前ってないんじゃぁ」
「・・・名前は付けて」
「俺が名付けるのか?」
頷くマクペシュ。
確かにマクペシュに名を付ければ呼べるけど、俺が付けてもいいのだろうか?
「付けて・・・ヤシャから・・・貰った名前が・・良い」
「そういきなり言われてもな・・・」
一応考えてみる。
マクペシュは期待した目でこちらを見てくるがそんな簡単に名前なんて思い付くわけがない・・・と思っていたが良さそうな名が思い浮かんで当座ダメ元で言ってみた。
「”マリア”っていうのはどうかな?」
「マリア。・・・ですか?」
「俺がいた世界にある青色が濃く透明度が高い宝石の名前の一部をもじったんだけど、最初に瞳を見た時綺麗だったのが印象に残ってたから・・・・ダメかな?」
自分としてはよくできた方だと思うんだがな。
マクペシュは何度か名前を呟いてみて運命の判決が言い渡される。
「マリア・・・・・うん、いい。これから・・・私の名はマリア」
嬉しそうに言って気に入ってくれた。
内心で凄く安堵する。
鑑定を見るとステータスにもマリアが追加されていた。
名前って簡単に変えられるものなのかな?
これじゃあ偽名すれば簡単に別人になれるからステータスの信頼性としてはまずいと思うんだが?
「よかったよ・・・それじゃあまずは・・・」
「?」
「ここから出ないとな」
俺の出来ることはここまで、外に出るにはマリアの力に頼るしかない。
それにここを出た後どうしようか?
「出るのは簡単・・・ヤシャは要望を・・・言ってくれればいい」
「それじゃあ・・・・・
◇ ◆ ◇
本当に脱出は簡単に行われました。
マリアにどこまで出来るのかとを聞いてから脱出の仕方を考えようと思い聞いたところ、
質:どうやって出るのか
解:正面から
質:二人で出れるか
解:余裕
質:誰にも見つかりたくないんだが
解:問題ない
質:見つかった人を殺すとかはダメだが
解:そんなことにはならない
と、すべて出来ると言い切られた。
自信満々でいうのでそこまで言うならと、言われるがままに全部マリア任せにしたところ、
(魔法があるって言ってたけど実際に見るとすごいな)
マリアは闇系統の隠蔽用の魔法を使って言った通り正面から歩いて洞窟を脱出。
最初は不安に思ったが警備員や見回りの視界に入っているはずなのに気づくことなく離れて行く姿を見そのうち慣れていった。
姿は消せるが触ったら姿が見えるようになるし音も遮断しないのでそんな使える魔法じゃないと言っていたがマリアの凄いってどれぐらいなのだろうか。
「ここまで来れば・・・大丈夫」
洞窟から出て街の警備がいなくなり街から十分離れた森の中でマリアは魔法を解くと、空気をいっぱいに吸って頬を綻ばせて外に出たことを噛み締めていた。
嬉しいのがビンビンに伝わってくる。
たった数十時間の俺でも出れたって開放感が込み上げてくるのだ。俺の非にならない長い時間あそこにいたマリアの気持ちは相当だろう。
森に入ったのは洞窟の北から東にかけては山脈になっていて越えるのは厳しく南側に街があるため必然的にこの森しか行く場所がなかったからだ。
今後の予定についてだが魔族領を目指す予定である。
種族鬼人種を人族に戻すことができない俺が人間領で生活しようとしても、また今回のように処刑になるのがオチなので人族領内にいる訳にはいかない。
マリアの知識ではここは国境付近であるそうなので魔族領へ行くのはそう難しくないはずだ。
外の情報が全くない俺と封印されるまでの情報しか持っていないマリアなので向かう場所の指定が大雑把になってしまっているのは仕方ない事だと割り切り進むことになる。
国境越えと町や村で情報を集めをしながら最終目的地の王都を目指して旅をして、何かあれば臨機応変に対応するという事で話は纏まった。
まぁ、本当に最初にやらないといけないのは、
「マリア」
「何?」
「これを着てくれ」
そう言って着ていた上着をマリアの方に渡す。
目線を送ってはダメだ!
意味が解ってないのか握っている上着はなかなか受け取ってもらえないので素直に言った。
自分の理性のためにも、
「その・・・格好だと色々と見えそうだからさ、上しか貸せないけど今よりは隠れるだろうから」
「・・・・・・・・ッ!」
「痛!蹴らないで!HP少ないから死ンじまうから」
「・・・・」
最初に見た時にきわどい服装だった事にその後の事ですっかり忘れていたが洞窟の薄暗い中から出て日の光の差し込む明るい場所に出てようやく思い出した。
持っていた上着を取り、慌てたように着替え始めて俺は無言で後ろを向いた。
封印されてからずっと着ていたのだろう服は長い年月によってボロボロになり必要な箇所をなんとか隠してると言えるぐらい酷い有り様だった。洞窟にいた時は薄暗かったから気になり難かったが外に出た以上このままでいる訳にもいかない。
早めに衣服も調達しないとまずいな。
「もういいよ」
無事着れたようだし先に・・・
弥叉は凍り付いた。
弥叉の身長は170未満ではあるがマリアよりは高い。それに上着は余裕のある少し大きめの物である。弥叉の想像通りに上着はマリアの大腿部まで隠していた。
しかしだ。
予想外だったのは縦ではなく横、上着を着るとより強調され大変・・・
「ヤシャ・・・なんか変なこと・・・考えてる?」
再度殴る構えを取ったマリア。
・・・・・ノータッチでいこう。これ以上は命の危機になり兼ねない。
何も触れる事はせずに国境越えをする為に歩を進めて前に出て顔を見ないようにしながら誤魔化した。
夕刻まで出来るだけ先に進まないとならないしな。




