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55、本番

 時はだいぶ遡りルシウス邸。

 領主を襲撃しているのはシャルであると分かっている。ただの一般人ではなく元警備兵で構成された部隊による反乱と考えると通常警備では領主の元まで行けてしまうという結論に至り、部下二人を領主の元に向かわせた。

 あの二人が護衛に付けばオリバーが戦闘不能になっている今、小娘の軍勢の中に二人を突破できる者は存在しない。領主を殺すことができなくなったようなものだ。

 前々から近日中には仕掛けてくるだろうと予想していたがまさか自分達の中で最大戦力であるオリバーを潰されたその日に仕掛けてくるとは予想外ではあった。

 それでも結果は変わらない。どれだけ頑張ったところで力の差が開いてしまっているのだから逆に視界を邪魔していた虫がいなくなると思えばいいだけだ。

 その後は俺が外にいる者から順に惨殺していけばいい。リーダーとして担がれているシャルは領主を狙う為の本陣いるはずだからあいつの元に訪れた時そばにいる者以外無事ではないことを知って絶望する顔を拝むとしよう。

 だが全員を皆殺しにするわけにはいかない。

 意志の弱い者は心を折り反抗する気を失せさせた後、俺への恐怖を街に流したうえで俺の為に奴隷のように働かせる。

 ならここは泳がせて自分達が勝てるとそう思った所から絶望させるのがいい。

 

 そう考えてあえてその場にゆっくりと留まっていたシリウスがそろそろいいかと歩き出そうとする。

 と、足音がなった。

 じゃり、という足音。

 シリウスがいるのは部屋の中だ。下は当然普通の床で砂はない。自分の靴の汚れは部屋に入る前に落としているので自分のというのもあり得ない。更にいうと使用人や警備員はここへは配置していない。この部屋に入ったことがあるのは自分と部下のホムラとハクだけである。そして二人が戻ってくることもあり得ない。つまり第三者の者という事だ。

 誰ななんて疑問は浮かばなかった。

 邪魔だ、という自分の行動を狂わせるその者に憤りを感じてルシウスはまだ姿を見せぬ相手に自分から歩み寄った。

 このタイミング、どうせ反乱軍の雑兵だろうと思いさっさと終わらせようと思った。


 相手はまるでルシウスが自分からくるのが分かっていたかのように音を立てた発信源から一歩も動いておらず比較的開いた通路の真ん中で仁王立ちで立ち塞がっていた。

 その人物は、


「ハァ~」


 顔を見た瞬間に深く深く重たい溜息を吐かれた。


「ほんとに昔と比べて大分高位魔族の質も落ちたものよね。友人の街をこんなことにできるような魔族がどんな者かと警戒していたんだよ?」


 黒の装束に一つに束ねた髪、手には武器らしいものは何も持っておらずそしてその外見はまだ発展途上の少女のもの。


「ヤシャがいるから問題ごとを起こして気づかれないように細心の注意をして事に当たっていたっていうのにさぁ・・・・・・・それが何このちんけな下級魔族は!?よくそんな力でこんな大それたこと実行しようと思ったわねって言いたくなるわ。ホント分不相応なことしないでくれる。本当にいい迷惑なのよ!?」


 部屋の中は明るい筈なのに佇んでいるだけで暗闇が広がっていくような錯覚に陥る。

 会ってから数時間も経ってない後悔してやろうと思っていた相手。

 名前は、確かマリア。


「・・・・・・・っ!!」


 無意識に足が後ろに下がった。

 その姿を見た瞬間、思考が本能に確実に上回った。


(なんだ――――)


 ルシウスのいつもの薄ら笑いは完全に消え失せ状況を明白に把握したいのに頭が混乱する。


(――――――なんなんだ!?アイツはさっき戦ったばかりのの女で、俺と同じぐらいの力を持っていて相対していた相手だ。だが今は勝てる気が・・・・っ!?)


 反乱分子を貶めることだけ考えていたルシウスにこの場に来て初めてその立ち位置が入れ替わるのを感じていた。


(――――――――あれはなんだよ!?・・・・トリック?そうかトリック!虚像で俺より強者を装っているんだ!そうだ、そうに違いない)


 通路に仁王立ちして立ち塞がる者を見てルシウスは一度頷いた。

 あってすぐのセリフと雰囲気に惑わされたがこんなこと普通にあり得ない。自分は強者として生まれた高位魔族だ。その自分にここまでの差を付けられる存在をいままで見たことが無い。

 気配が本物ならルシウスVSオリバーの自分がオリバー側になっている様なものだ。最初にあった時に自分が無事であるはずがない。

 つまりこれは、


「・・・・・、誰が下級だ」


 後退した足を元の位置に戻して相手に騙されるなと体に言い聞かせていつもの自分に戻していく。


「俺は高位魔族。吸血鬼の純潔だぞ?そうだ、俺はお前の実力を知っている。こんな嘘をしたところで意味はないぞ」


 してやったりと言うようにルシウスは叫んだ。

 それを見て、対峙しているマリアの方は呆れたような表情に変わった。


「ここまで来るとまるで道化ね」


 一呼吸して、


「本気でそう思っているなら服装と相まって見事な道化と褒めてあげるわ」

「ハッ!今更何を言っても無意味だ。俺は本当の化け物を知っているがお前の気配は俺に勝とうとし過ぎてそれさえも越えちまってる。吸血鬼最強より強い吸血鬼がいるわけねえってことだよ。ネタは分かったんだもう怖くねえよ。そうじゃないって言うなら攻撃してこないのはなんでだ?攻撃したらバレルってことだろ」


 返事が来ないことを肯定と受け取ってマリアをバカにしたように鼻で笑った。

 しかしそれにすらも小さな少女は何のアクションも起こそうとしない。

 やがてその沈黙にルシウスは苛立ってきた。


「何とか言ったらどうだ。見破られたら急にだんまりか」


 ルシウスの叫びにここで初めてマリアの方が一歩こちらへと歩を進めた。

 その一歩が同時にルシウスに何か訴えかけられる。


「撤回はしない。貴方は本当に道化よ。・・・でもそんなあなたの疑問に一つだけ答えてあげるわ」


 小さい筈の少女の姿が一歩近づいただけで一回りも大きくなったと感じ。広げた手は届くわけないのに当たるんじゃないかと不安にさせる。


「貴方は自分より強い物を知っていてその者より強い物を見たことが無い。だからあなたの気持ちも少しは理解してあげるし同情もしてあげる――――」


 でもね、とマリアは言葉を区切り、


「―――――あなたの(・・・・)言う吸血鬼(・・・・・)は私の知る(・・・・)吸血鬼(・・・)には遠く及ばないのよ」


 ぐにゃっ、という効果音が付きそうな程マリアの周りの気配が歪んでいき、少女の足が床にバキバキ、と音を鳴らせたと思ったら思いっきりこちらへと跳躍してきた。

 踏み込んだ場所を中心に床にひびが入っていき振動が起こる。

 そしてマリアは身を低くしてルシウスがそれに反応するよりも早く顔面を蹴り上げられた。


(ば、・・・馬鹿な・・・・!?)


 自分が抵抗もできずに蹴り上げられたことだけでも驚愕なのに更に蹴り上げられたはずの自分の背後に追いつき今にも蹴り降ろされる体勢に入っている。

 ルシウスは咄嗟に飛壁を出し防御態勢を取る。

 前回の戦いで自分と同等の力があるのは知っている。不意を突かれてしまったがこれ防いで距離を取って形勢を、

 立てることはできなかった。

 それどころか頭が真っ白になった。

 ゴギン、と今までの人生で一度も聞いたことのない音が鳴り響き、遅れて衝撃と痛みが襲い掛かる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!!!!?????」


 何が起きたのか状況判断が理解できない。

 飛壁を張ったはずなのにそんなもの無いかのように防御無視の攻撃が襲い掛かり、直撃した個所の骨が何本か折れて口からはいた吐血の血と無残に飛び散った飛壁の血がルシウスの体を赤く染めていく。

 それでもまだ立てる状態だ。

 だからだろう。


「休んでいる暇はもうない」


 すでに化け物は口元を思いっきり歪めて、


「私の友人に泣いて誤って土下座して許してもらえ!・・・私はお前を許さない」


 ひゃう、と喉が詰まっておかしな音が鳴る。

 そして顔面に自分では抵抗できない無慈悲な破壊力を持っている拳が脳で知覚することができない速度で貫かれた。

 ルシウスの身体は再び宙を飛び壁にクレーターを造っていき最後には突き向けてようやく動きを止めた。

 拳を振り終えたマリアはこれ以上戦う事はないとルシウスの飛んだ方向を見ることはなく、来た道を戻ろうとした。

 そこである事に気が付き振り返って口の中だけで呟く。


「確かに今のまま(・・・・)じゃ、こけおどし状態だよ」


 そして目を細めて、


「ヤシャを守るなら今のままではいけないのもね」


 マリアは今度こそその場を後にした。





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