56、処遇
少し長くなり時間がかかりました
スキル吸収と魔力伝達率の高い身体(雷限定)によって編み出した(たぶん)俺だけのオリジナル。
魔力兵装『一矢走雷』(今命名)
発動には成功したのでこれでホムラと身体能力面で追いつく事が出来た。
しかし身体能力が高いからと言って勝負に勝てるか事には繋がらない。相手との差が開いていればさっきの俺の様に小細工しても勝てないが差が無い相手にはその身体能力を使う技術が必要になってくる。
特にこの世界ではスキルや魔法と身体能力の差なんてあっという間にひっくり返されるようなものがある。
マリアからもスキルや魔法次第で状況がひっくり返されるから注意するように言われていたのだが、現在俺はその意味を身を持って体感していた。
「ぐぇ」
「はい、それも幻影」
攻撃を当てたと思ったその後ろから背中に一発もらいその場から飛ばされる。
身体はすでに血塗れで肩や脚には鉤爪による刺し傷が出来ている。
形勢が持ち直したと思ったのは最初だけホムラが俺に身体能力だけでは勝てないと認めてからスキルを使い始めた。
それも俺の警戒していた『幻影』や『残像』などの幻覚系のスキルを使われて、看破系スキルも見破れるだけの経験もない俺は面白いように相手の術中に嵌まっていき、今の誰がどう見ても負けてしまっている状態になっていた。
ついでにゼルフの方も、
「ハッ・・ハッ・・」
どんなスキルを使っているのか分からないが近距離戦に持ち込むどころか相手の攻撃を躱すことが出来ず、体力も限界が来ているようで息遣いが荒くなっていた。
弥叉程ではないが怪我もかなり負っている。
まさかスキルを使い出しただけでここまでの差が出るとは正直思っていなかった。
「お前達では私達には勝てない」
「ご主人様の野望を止められない」
「「だから諦めて撤退しろ」」
・・・・・・・・・・・
二人はもう勝敗は決まったと俺とゼルフではなく今回の大将であるシャルに向かってそう口にした。
集まった兵はまだいるが二人の実力から見てこの数では倒すはおろか部屋に兵を送るのも厳しく、客将である弥叉達をこれ以上無理してもらう事はシャルにはできなかった。
つまり反乱は失敗。
外や廊下では未だに戦いは繰り広げられている。撤退するなら早くしなければ被害が高まる。
しかし領主は目と鼻の先ここを逃せばもう次はない。
シャルの中で撤退をするかしないかの決断が迫られていた。
「シャル」
「!?」
そんなシャルに周りの兵たちは、そして弥叉とゼルフは臨戦態勢を取った。
その姿勢には撤退という考えは存在しない。
「街を救いたいんだろ?こっちの心配すんな、まだやれる」
兵達も誰か一人をあの部屋に送ってこの戦いに勝利できるなら死んでも完遂して見せますと宣言した兵に全員が頷いている。
兵士たちの言う通り死を覚悟で全員で部屋に突っ込めば可能性はある。ただ兵を犠牲にする選択を背負う覚悟が自分には無かったのだ。
自分が未熟だと痛感する。そして覚悟を決めた。
「皆さん、頼みます。誰でもいい一人を応接間に入れて領主の首を取って下さい」
「「「「おおおおぉぉぉーーー!!」」」」
兵士全員が抜刀し弥叉もそれに合わせて突撃姿勢を取る。
ホムラとハクはそれを物凄く嫌そうに表情を歪めている。
激突まであと僅かだった。
「・・・・えっ?」
「・・・・うそ?」
しかし激突の直前ホムラとハクは突然俺達とは関係なく驚いた表情で臨戦態勢を解いた。
その雰囲気にもう戦う者の気配はなかった。
俺達の方もまたその反応に戸惑い突撃するタイミングを逃してしまう。
そしてホムラが何に対して驚いたのかを呟くように口にした。
「ご主人様が・・・死んだ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・えっ?
その言葉を聞いてすぐに理解できた者はこの場にはいなかった。
主人はルシウスの事だよな?だがここにルシウスはいない。マリアがルシウスは任せてと言って全部任せていたがそう言えばすっかり忘れていた。
もうなんか二人がラスボスの様になっていたし。
「それは・・・本当なの?」
そう口にしたのはルシウスに最も警戒をしていたシャルだ。
本人の実力を知っていてあれだけ好き勝手した奴が自分の知らないところで勝手にくたばったと聞いて信じられないという気持ちから出た言葉だがハクが肯定するように頷いた。
何とも言えない静寂が起こった。
しかしいつまでも止まっているわけもなく、
「つまりほんとにここで突破できれば価値ってことになったんだよな?」
「悪の元凶はいなくなったからあと領主さえ何とかすれば敵が消えるってことだもんな」
「やってやるぞ」
再起動した兵士達が再び臨戦態勢に戻っていった。
「ひっ!」
それに対して二人にはさっきまでの戦意はない。
まだ戦わないといけないのかという怯えが見て取れた。
「シャル・・・」
俺はこれ以上二人と戦う気が起きず飛び出そうとする兵に待ったをかけてシャルの意見を求めた。
「・・・・・ヤシャ。二人は共犯者よ。見逃せないわ」
シャルは悩んだ末そう決断した。
確かにその通りなのだが俺は二人に背を向けて完全に無防備になりながらシャルの前に立ち塞がった。
「ルシウスがやられたんなら二人と戦う意味はない」
「彼女らを許すわけにもいかない。ここで討つ必要がある」
「二人に殺気はなかった。それにこの二人は人を殺していない」
「え?」
シャルは驚いたように周りを見る。そこには最初に倒れた仲間がいる。だがよく見るとその体はピクピクと動いている者がいた。
「麻痺と睡眠による無力化だ。たぶんだが状態異常が起こる鱗粉の粉を巻いてハクの使う風魔法で兵が吸うように操っていたんだと思う」
弥叉の推測があっていたのか背後から驚いた反応がしていた。
「それに俺もゼルフもボロボロにはなっているが斬撃の後は全部急所から外れているんだ。二人の実力なら殺せてもおかしくなかったのに」
「・・・・でもまだ領主は討ててない」
「それはどうなんだ?」
シャルの問いに弥叉はそのまま二人に投げかけた。
二人の反応は、
「ご主人様は死んだ。もうあいつを守る理由はない」
と手に持っている武器を捨てた。
まだ疑ってる者もいたが二人の言葉が確かか兵士を向かわれたが二人の隣を通過しても襲う事はなかった。
シャルはしょうがなく兵に改めて命令を出した。
「領主の捕獲、廊下と外で戦っている者達に戦いの終了を伝えてきなさい。残った者は倒れている者達の治療を」
その命令に数人は応接間に入ると中から領主の悲鳴が聞こえほどなくしてまた静かになる。
他の兵も皆戦う気が失せたのか剣を鞘に戻して各自行動を開始する。
シャルと弥叉、ゼルフ、それにホムラとハクの五人だけがその場に残る。
「・・・・それでこの二人はどうするつもり?」
「たぶんなんだがこの二人はそこまでルシウスに忠誠を誓っていなかったんじゃないか?」
「「・・・・・・・・」」
二人は何も言わない。でも雰囲気は弥叉の言葉が合っているのだと伝わってくる。
「なんで?ルシウスは貴方達の主人でしょ?」
「確かにご主人様ではあった。でも私達が望んで仕えていた訳じゃない」
「私達は捨て子だったのをマシュエル家が魔法適性があるからと拾ってくれた」
「それで育てられたと」
「そう。私達の両親は旅人か逃亡者だったみたいで身寄りもなく頼るほかなかった」
「ルシウス様に仕えたのは最低限の補佐と監視の為にお家の方から命令されたから。だからルシウス様の方も私達をお家の犬や駒としてしか見ていなかった」
たぶんこの世界には同じ境遇の者は数え切れないほどいるだろう。
だが俺はそういう境遇のものとは無縁だった。
だからだろう。
「シャル、ルシウスは死んだ。二人に戦う意思はない。ならこの二人は俺に預けてくれないか?」
「それは無理よ。だってこの子たちは首謀者の・・・」
「頼む」
俺が頭を下げるとシャルはぐっと言葉を詰まらせた。
そして本人達はもう捕まるのを覚悟していたのか俺の助けようとする発言に驚いていた。
「・・・・・しょうがないわね。ただしヤシャの功績に対する報酬とする。後ヤシャ達と一緒じゃなければ街にいることを認めないわ」
「ありがとうな、シャル」
「別に貴方の為じゃないわ。これから街の立て直しで兵はともかくヤシャ達への報酬をどうするか困っていたからちょうどいいと思っただけよ」
シャルは顔を赤くしてそういいながらフローウたちが心配だからそっちに行くと言って去っていった。
怒らせちゃったかな?後でフォローを入れないとな。
そう思いながら今は二人が先だなとそちらを向く。
「感謝します。なんとお礼をしていいか」
「これからは新しいご主人様として忠誠を誓います」
「ちょっと待った。俺は別に二人を俺に仕えさせるために助けたわけじゃない解放するっていう意味で助けたんだぞ」
なんか勘違いしている様なので正してやると二人は逆に狼狽し出した。
何か問題があるのかと思っていると、
「では私達はどのように生きればいいのですか?」
「今までご主人様やお家の命令だけ聞いて来たから主人のいない生活が想像できない」
なるほどな。
常に行動を誰かに指示されて生きてきたからいきなりの状況の変化についていけていないってことか。
「自由にしてみればいいと思うよ。自由に生きて自分の世界を広げるんだ。ただし人様に迷惑を掛からないようにしながらな」
「自由に」
「世界を」
「それで何か困ったことになったら俺に頼ればいい」
二人は分かったのかどうかは分からない。それでもこれから変わってくれそうな気はした。
・・・・・・ところで何か忘れている気がするんだがなんだっけ?
ざわっ・・・
その時、身体に寒気が走り心臓が大きく高鳴った。
(あっ!これまずい!!)
気づいた時にもう遅い。
次の瞬間、
「ぐぅ!? がぁああっ!!っ、ぐぅううううっ!!」
内側から広がる痛みが身体を襲い、耐えきれなくなった弥叉がその場で転がり回りながら悲鳴が上がて驚いて駆け寄ってきた兵に「二人の所為じゃない」と伝えた所で痛みが限界を迎えて意識を失った。




