52、内乱 前編
部下である二人に連れられ領主に用意させた別館の自室に到着してから無言で佇んでいたルシウスはようやく張り詰めていた緊張を解いた。
部下二人はそんなルシウスを心配そうに見ている。
「糞が!」
緊張が解けたルシウスがその次に沸き上がってきた感情は憤怒、真祖吸血鬼として生を受けてから自分を倒した存在は自分の兄弟である妹だけだった。
だがあの妹は化け物だ。
勝てるはずのない認めるしかない存在だ。
だから逃げた。
そしてこの地で成り上がり自分の領土を創ろうとした。
それを、
「くそが――――!!」
真祖としての尋常のない身体能力を制御することもなく叩かれた机は粉々に砕け、机に面していた床には小さなクレーターが出来ている。
それでも憤怒が収まる様子はなかった。
「ルシウス様、これ以上は家の方が持たなくなります」
さらにもう一度八つ当たりで当たろうとしたのをホムラが声を掛けそこでようやく自分が強者である高位の魔族としてふさわしくない言動をしていることに気づく。
冷静さは急速に戻っていき、憤怒の気持ちは大きく息を吐いて身体から出したように思わせた。
「ホムラ、ハクあの二人との接触は無しだ」
「それは見逃すってことですか?」
「そんな訳あるまい、ここまでされて簡単には殺さん。すぐに配下の商人にあの二人への供給の一切を絶たせろ。そして暗殺者を使い昼夜問わず攻めて恐怖心を抱かせ歯向かったことを後悔させたその後で俺自ら残虐に殺してやる」
薄笑いに戻ったがその顔はいつもの笑みと同じはずなのに歪んで見えた。
「あの小娘油断があったとはいえ傷ついた代償は高くつくぞ。次に相対する時本当の強者が俺だと思い知らせてやる」
ルシウスは自分の前に膝を衝きこうべを垂れ許しを請うマリアの姿を思い浮かべながら待っていると報告に行ったホムラがすぐに帰ってきた。
報告したにはあまりにも早い帰りであり何か慌てているようにも見える。
嫌な予感がした。
「ご主人様、街に紛れさせている配下から領主の娘、シャルが徒党を組んで領主の屋敷に攻め込んでいるという報告が」
予想的中、まさか最大戦力であるオリバーを失ったこのタイミングで攻め込んでくるとは当分は無理だろうと今は屋敷の警備は手薄だったはずまた手配しなおさないといけない。面倒なことをしてくれる。
「反逆者は殺せ。今後反逆する気が起きないよう見せしめにこれまでで最も残虐なやり方でだ」
「・・・・・」
「ご主人様、先程の命令の方は?」
「そんなもの後でいい。お前達はあの領主の警護に迎え、あんなでも計画の最後まで生きていないと困る木偶だ。絶対に死守しろ」
二人はその命令に従い無言で部屋から出て行った。
「あと少し・・・あと少しで計画が完了する。それをこんな所で壊されてたまるか」
◇ ◆ ◇
元の世界の様に電気で街が明かりに満ちている環境とは違い、アドリーバスの夜は乏しい光と夜空に浮かぶ月明りだけが照らしている。
そんな街の中で昼間の様な人数が街道を埋め尽くしながら歩いていた。
誰もが武器となる物を持ち集団の中には異形の姿をした魔族もいる為その姿はさながら百鬼夜行。
その先頭に立つのは旗頭である領主の娘シャル。
そしてなぜかその隣に俺が立つことになっていた。
屋敷はすでに見える位置にある為これから斬り合いの中心に立たないといけないと考えると情けない事に足が震えてきていた。
いくら魔物と戦い慣れたとはいってもこれからの戦いは自分とそう変わらない意思を持つ魔族の命を奪わなければいけないのである。
平和な国から来た弥叉にはその踏ん切りがなかなか割り切れず、どうしようもなく不安であった。
「ヤシャ大丈夫か?」
「すまない。先頭に立つ者として情けない姿を見せてはいけないとは分かっているんだが」
「心配にはいりません。震えているのはヤシャ殿が自分の実力を知っている証拠。無理に強がり突撃していくものより余程信用できます」
フローウが心配して声を掛けてくれる。
この人は部屋では合理的主義の人かと思ったが意外と面倒見のいい性格のようで陰で他にも気を使ってくれていた。
これで年齢が自分より少し上なだけなのだから恐れ入る。
俺の反対側にいる部屋にいた護衛の人、名前はゲイ・ムエルギースさんだがこちらは堂々とした姿勢で緊張感が感じられない。逆に闘志を内で燃やしているように思える。
先頭のシャルも少し肩が震えているが表情には覚悟が見られとても凛々しく感じる。
フローウさんはフォローする立場で緊張してても外に出さないので緊張しっぱなしなのは俺だけで情けなくなってきた・・・。
それからこの集団にマリアはいない。
別行動を取ると言って出て行った。マリアが怖くて逃げてい居たとは考えにくいので何か考えが合ってだろう。
ちなみにゼルフは頭の上で丸くなっている。
だいぶ進み屋敷の手前まで来るとシャルが歩みを止めそれに呼応して皆歩みが止まる。
「まず皆には謝罪をする。
すまなかった。
そしてこんな私についてきてくれたことに感謝する。これより私達は現領主に反乱を仕掛ける。
負ければ我らは逆賊として罪人となる。だが正義は我らにあり、我らに敗北はあり得ない。
街の再興の為この戦い必ず勝って終わるぞ!!」
『『『『オオオォォォ――――――――――!!!!!』』』』
リーダーであるシャルの言葉に答えるように持っている武器を掲げていきそれを見たシャルは前を向き迷いを捨て命令を下す。
「開戦だ!」




