46、襲撃
魔族ギルドから茨の荘に帰る途中ゼルフの機嫌を直してもらう為に商店街でケラトリ焼き(見た目焼き鳥味は豚肉)を奢っていたので思ったより太陽が沈んでいた。
ゼルフの奴、金銭を節約しておきたいのにお代わりをせがんできて、断った瞬間に店先の女性店員に聞いたことないような可愛い鳴き声上げておねだりをかまして、店員どころか周囲にいた女性全員から鋭い目で睨まれ針の筵状態に晒され渋々おかわりを買う羽目になった。
ギルドの受付嬢達に弄られたことをきっかけに逆に利用することを覚えやがった。
そんな子に育てた覚えは覚えはないぞ!と心の中で叫びながら、次回にリベンジを誓いっていると前から男性が血相を変えた顔で弥叉の隣を通って走っていった。
その表情は恐怖の色が濃く何か起きたのか気になったが男は止める間もなく去って行ってしまったので聞けなかった。
それから更に街を歩いて違和感を覚えた。
もうすぐ日が傾くって言ってもまだ夕刻。街は賑わいに溢れている時間帯のはずなのに街から人が消えたように通っている道には弥叉以外の姿がなかった。
静まり返っている街は不気味で自然と帰る足が速くなっていく。
遮るものが無い為すぐに宿に到着して、この原因の前へと訪れた。
「がっ!?」
到着した先には全身ボロボロで地面に倒れ伏している茨の荘親父店主のオリバーさんと微笑んだ顔で倒れたオリバーに得物を向けている傾奇者のような青年だった。
顔がいいのに服で残念な奴初めて見た。・・・・じゃなくてこれは一体どういうことだ?
あの親父が地面に転がり身体は血塗れで誰かに敗れたのは見ただけで分かった。だが親父はレベル71の高レベル者で見た目からして戦い慣れした親父だ。それをここまでボロボロにした。
誰がやったのか?
それは状況からして目の前で武器を持つ残念男だろう。
体格は細長く優男って感じでとても強そうには見えないが・・・・・。
と思ったところでその考えを改めた。
なぜなら頭の上に乗るゼルフが男を見て身体を震わせていることに気づいたからだ。ゼルフは野生の勘とでもいうのか鑑定を使える俺よりも相手の力量を見極めるのに長けている。それがマリアと対峙した時と同じ反応を示したという事は少なくとも俺らの相手になる敵じゃないことは確かだ。
オリバーさんの状態もまずいだろうがここは離れてマリアを呼ぶべきかもな。
どう行動するにしろ武器は持っていた方がいいとロングソードを取り出し、ゼルフが突然鳴いた。
次の瞬間、漆黒の闇の中から二つの影が迫ってきた。
「!?」
「がう!?」
剣や槍といった武器とは違う魔物に似た刃。
今までの実戦経験と危険に対する生存本能が最善の対処を咄嗟に行った。
「ぐっ!」
「防がれた!」
「こっちもだよぉ~」
急所を躊躇いなく狙ってきた無慈悲な一撃を回避した弥叉の耳にこんな攻撃を放ってきたにしては緊張感のない声が聞こえてくる。
ゼルフも回避したようだが弥叉の頭からは離れて地面に着地していた。
やがて攻撃してきた相手の姿が露わになった。
「・・・・・」
さっきの残念男も驚いたがこっちも驚いた。
黒一色の服装に顔まで覆い被って目元以外晒されていないその姿は・・・どう見ても忍び服だ!!
声と背格好から見てどうやら二人とも女の子みたいだがどうして俺達を襲って来たんだ?
「ほう?あれを避けるか。どうやら二人が言ったように少しはできるようだな」
「はい」
残念男にも気づかれていたようで一部始終見ていた発言をして近くに来ていた。
口振りから襲ってくる前から気づかれていたようでくノ一風の女二人は男の側へ移動したことから無関係ではなさそうだ。
改めて対峙して思ったが絡みつくような視線に強者のオーラ、それに薄情な裏切り者の雰囲気がビシビシと感じられた。
とにかくまずは相手のステータスからだな。
鑑定
ルシウス・B・マシュエル
性別:男性
職業:傀儡子
年齢:58
種族:真性吸血鬼
レベル462
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
(はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!????)
おい待て!
ちょっと待とうか!!
なんですかこのチートみたいなレベルは!?
この残念イケメンが何でこんな強いんだよ!!補正掛かりすぎだろ!!
本当なら他も突っ込むところだろうけど最後ので全部持ってかれたよ!
なんでこんなのが俺の命狙って来るんだよ!!!
正直この衝撃を一切外に漏らさなかった事に褒めて貰いたい程男、ルシウスのレベルは異常だった。
・・・ルシウスでその容姿なら普通やられキャラだろう
とにかくオリバーさんを倒したのはこの男で決定として何故俺逹が狙われているかだ。
1、昨日のケリンとの話を聞いて消す事にした。
2、分かれている間にマリアが何かした。
3、知らぬ間に反感を買う行為をしていた。
4、旅人なので消す事にした。
まず1は可能性は低い。
食事は個室でマリアが情報を漏らす用なヘマをするとは思えない。ケリンさんが漏らしたとも考え難いのでこれはないだろう。
2つ目は否定しきれない。
マリアは感情で動く時があるからなぁ。でもそれならまずマリアから狙うはずで、マリアから何の連絡もないという事はマリア関係でない可能性も濃厚。
オリバーさんを倒す必要もないので取り敢えず保留だな。
3は換金所での一件、門番との口論はしているが殺す程の理由ではないし心当たりが見当たらない。
4だったら即効アウトだ。
この状態で逃げすのは無理だろうし何故殺される様な状況になっているのかを確かめてこの窮地を脱する方法を見つけよう。
「貴方みたいな人が俺に何の用だ」
「お前達の粛清だが?」
「領主の差し金か?俺達を街から出さないようにしただけではなく直接狙ってきたっていう事か?」
「・・・・・領主?あぁあの無能の傀儡か。そういえば、あいつに命令させていたな」
・・・?こいつの言動は領主の忠誠を持っていない。
金だけの関係ってことか?
それともこいつを操るような奴がいる?それはないか。
こいつが誰かの下につくような気がしない。ならうまく進めて機嫌を取れば回避できるかもしれないか?
「俺達は昨日この街に来たばかりの旅人なんだが、街にはただ宿に逗留して次の場所に向かう物資を補充していただけなんだが?」
「そうだな、お前達の街での行動は特に問題もなかったよ。他の旅人同様に街に金を落としていくこちらとしてはむしろ歓迎する者だった」
「それなら」
「だがすでにこちらの情勢を知ってしまっている可能性のある人間を放っておく訳にもいかんだろう?」
相変わらずの感情の薄い薄ら笑いでこちらを見てくるが言い切った後の発せられるプレッシャーが一気に高まったのを感じる。
まるですべてを知られているような雰囲気。
問題なかったと言いながらケリンさんとの会話も知られているのか?
どっちかは重要だ。今のうちに聞いた方がいいな。
「俺には何のことか分からないんだがさっきも言ったがただ逗留していただけだ」
「こっちから言わないといけないのか。君は俺達の仕事を邪魔しただろう。それも大事な娘の捕獲の絶好の機会を」
娘?
そんなこと、いや確かに街に来る前に山賊の少女シャルを助けている。それも囲ってた男達が有利だったのを覆してしまった形だし間違っていない。でもそれが情勢を知ることとどう繋がるんだ?
何かを見落としていて嚙み合っていない気がする。
その見落としの答えはルシウスが話の続きで語ってくれた。
「今だ我らに歯向かう領主の娘、シャル・フェルネリア。
彼女の捕獲を邪魔しただけで死罪なんだよ」
回答は3つ目、あの時の選択がここで繋がった。
完璧に俺の所為。
マリア、少しでも疑ってごめんなさい。
ケリンの話では領主の娘は死亡したという事になっていたはずだが、この男はあの助けた山賊の頭をやっている少女が領主の娘であると言い切った。つまりは町に放った死亡報告は誤報でシャルは逃亡して山賊として身を窶やつしたと言った処だろう。
「それであなたはその子を捕まえてどうするつもりだったの?」
ルシウスのシャルの立場の訂正によって今の状況にようやく合点がいったところで第三者の聴き慣れた声が弥叉の後ろから響きこちらへと近付いてきた。その場にいる四人と一匹の視線が声の主へと集中し話を振られたルシウスが口を開いた。
「いきなり現れて質問とは戴けないがその容姿、報告にあった連れの少女か?」
「そうです。ご主人様、彼女はオリバー以上の力を有している気がします。お気を付けください」
襲撃してきた忍びの格好の女がマリアに対して警戒する様にルシウスに言うとルシウスは心底嫌そうに言ってきた女の方を向いた。
「この俺に忠告する必要がある程か?」
「・・・・・いえ、申し訳ありません」
謝った女に対しルシウスは今だ嫌そうな表情だがマリアの質問の答えを言っていなかったことに気づくと、再びマリアの方に向いた時にはまた薄ら笑いに戻っていた。
「では質問に答えよう。まぁ答えなくても分かってそうだが、使い道は多々あるがそうだな。手の組めそうな貴族の嫁にでもなってもらうか、今の領主と同じ傀儡にでもなってもらうことになるかな」
「その物言いまるで選択権が自分にあるような言い方ね」
「当然、ご主人様は領主も含めた今この街で権力を握っている総元締め。アドリーバスを陰で支配していると言っていい」
「そしてご主人様が死罪とお決めになったらそのものが何者だろうと闇へと葬る」
自らの事のようにルシウスを褒める言葉を述べる。
これに対してはルシウスは何も動こうとしなかった。
「ふ~ん、・・・じゃあ貴方が今回の黒幕ってことね。それで昨夜もヤシャを狙う為に来たってわけ?」
「そういうことだが、宿をここにしたことで夜中の暗殺が難しかったのと」
「貴方達の実力を見て手練れだと判断したの。本気でやっても命を奪えるか不安なレベル。だからご主人様の手を借りることにした」
「ヤシャに声を掛けたのは?」
「マリア、こいつらと俺が会ってるのか?」
やたら顔見知りかの様に話しているが俺は誰なのかさっぱり分からない。
「あれ?こっちのお兄さんは気づいてなかった?」
「お兄さんのがしっかり見ているはずなのに」
「ヤシャ、昨夜の待ってる間」
分からないことに女子三人(二人は覆面越し)で呆れた視線を向けられた。
マリアはヒントを言ってくれたが、昨夜の待っている間ってケリンさんとの夕食前だから人となんて・・・・・
「あぁ!あの時の!」
そうか!あの時売りかなにかと思った二人組だよ。
あれ更に呆れる視線が増した気がする?
そして俺が気づいたことを一切触れられずに話を戻された。
「はぁ、それで?なんで声を掛けたの?」
「だってお兄さんだけなら色仕掛けで誘えると思ったから」
「すぐにいけると思ったのに断ってきた時は意外だった。容姿には自信あったのに」
「そろそろいいか」
ルシウスが答えている途中で遮るように言葉を発した。
自分を無視して話されるのが嫌なタイプのようだ。
それに遮ったと言ってもほとんど答えてしまった後だ、俺ってそんな軽いやつに見られてるってことか?
ちょっ、いやかなりショックだった。
「そうね、なら貴方にももう一つ質問するわ。この街をどうするつもり?」
・・・・・その質問は意味があるのか?
と思っているとマリアが手を後ろに回し何か伝えようとしている。あれは相手の戦力を見ておけか?
そういえばルシウスは見たが女二人は見ていない確認しといた方がいいだろう。
ホムラ
種族:混血悪魔種
性別:女性
年齢:18
職業:スパイ
レベル58
ハク
種族:混血悪魔種
性別:女性
年齢:18
職業:スパイ
レベル57
流石にオリバーさんが厄介って言っていたので70より低いと思っていたがそれでも50後半レベル差は相当開いていた。
「この街は平和ボケしていて操りやすかったよ」
そうしている間にルシウスは自分の自慢話を高らかにマリアに語っていた。
マリアは俺が確認し終えたのを察すると今まで口調を変えた。
「でも貴方の実力は伴っているのかしら」
「試してみるか」
試す様な言葉を挑発的に言い出した。
効果は覿面で薄ら笑いが抜け落ちルシウスは己の得物へと手を伸ばした・・・ってマリアさん何戦おうとしているんですか!?自信過剰の自己中な残念男だがレベルは400オーバー。マリアのレベルは前に盗み見たらレベル324であったがそれでも100差ある。
ここで戦うのは非常に拙い。
しかしもう遅い。
付き添いの女二人も臨戦態勢に入ってしまい話し合う気配は微塵もなくなった。
「マリア!」
「大丈夫だよ。すぐに片付けるから。ヤシャはそっちの女共の相手をしていて」
「・・・・・気を付けろよ」
両社が動き出したのは同時。
弥叉の目にはそのように見えた。本当は先に仕掛けたのはルシウスでマリアがそれに反応して動いたのだが、それを見極める事が出来るものはこの中にはいない。
超越者同士の激突による突風が吹き荒れ戦いは幕を開けた。




