45、通行禁止書
アドリーバスの街は産業都市であるがもう一つ他の街から一目置かれているものがある。
それは街の設備。
アドリーバスの街を囲うように高さのある城壁が建ち並び魔法による補強により衝撃にかなりの耐性を持たせていて破壊して侵入ができず昼夜問わずに警備兵の者が巡回しているため登って侵入するにもリスクを伴う。入り口は東西に二か所ですべての荷物を徹底して検査してから入場を許可している。
建設は産業都市として名が広まった頃に行った物で長い年月が経っているが今も強固な街として認識されている。
元々は産業都市として密輸商人対策として設計され、前領主まではその意思を組み悪用する者は現れなかった。
しかし現在、ついに悪用された。
侵入が難しいというのは裏を返せば脱出も難しいということ。
現在の街の現状を外部に知られないよう住民の全員を街から出すことを禁止し強行突破しようとする者は牢屋行きやその場での殺害も許可されるようになり、今では領主の許可が必要で領主から甘い汁を吸っている者だけしか街を行き来していないので内部情報が外部に漏れることは少なく一種の鎖国状態になっている。
そしてこれによってここにも街を出れなくなった者達がいた。
ケリンさんから街の状態を聞いてから一夜明けた早朝、茨の荘で朝食を食べた後昨日買う事が出来なかったゼルフの為の従魔武器専門店で動きを阻害しない衣服タイプの軽い防具を購入して街から出発しようとした。
だが、弥叉達の前に突き付けられたのは、
『男と女の二人組に従魔を連れた旅人の通行を禁止する
領主グレンゴリン』
昨日来たばかりの俺達を的確に捉えた通行禁止書だった。
門番に突き付けられた弥叉達は文句を言いたかったが昨夜ケリンさんから自分達のような旅人が過去に街を出れなくなって無理に出ようとして殺害されその旅人に関わりがあった住民が見せしめとして殺された事があると聞いている。また相手の狙いが口封じする為の大義名分が欲しいというのが分かっているのでしぶしぶだがまた茨の荘に泊まることになった。
いったいどこで目を付けられたのかは分からないが街の情勢に完全に巻き込まれたのだけは確かだ。
今は金銭的には余裕があるが何カ月もこの街に釘付けにされれば収入源がなく生活が保てなくなる。
何より権力を盾に俺逹を拘束しようとするやり方が気に食わない。学生時代に自分の立場が高いからと偉そうに自分の考えを押し付けてきた教師や先輩連中を思い出させる。
しかし、気持ちとは裏腹に自分達が何か行動できるかというと悔しいことに何もできないのが現状だ。
街の法律として成立しているルールに沿って正当な書類で弥叉達は出れなくされている。その法律自体が悪法でも大義名分もなしに逆らえば犯罪者として捕らえられるのはこちらである。
このまま黙っていうことを聞く気はないが今は従うしかなかった。
出戻りで来た俺達を昨日と同様嫌な顔して出迎えられたが親父さんは今度は帰れとは言わず「金は払えよ」とだけ言って部屋の鍵を渡してくれた。また荷物を同じ部屋に運んだ後に昼食を外食で取ってからマリアはケリンさんの所に行くと言って別行動を取ることになった。
別行動を取ったとはいっても昨日街の物価が高いと聞かされて買い物する気には起きず、かと言って宿で何もしないでいる気も起きない俺が取れるような選択肢はほとんどない。
「だからってずっとここにいて良いって訳じゃないんですよ」
「いや、そっちも暇を持て余していたみたいじゃないですか」
魔族ギルドの受付前で椅子に座って駄弁っていた。
こんなつれない態度であるが来た当初はただ座っているだけで退屈だというのが伝わってくるほど弥叉達を歓迎してくれた。
ゼルフは昨日担当してくれた受付嬢以外が相手をしてもらっているのでいない。
すぐ隣からか細い鳴き声が聞こえてくるがきっと物凄く可愛がれていることだろう。頭から引き剥がされた時に止めようとしたがマリアと同等の寒気に襲われて、それからは関わらないように顔を背けて無事を祈るしかなかった。
骨は拾ってやろう・・・
「それでこれからどうするんです?」
「できればギルドの依頼を受けたいんですが」
「う~ん、今取り扱っている依頼でヤシャさんにお出しできるものはありませんね」
「ギルドから出ている初心者用の依頼とかは?」
「それも無理ですね。ギルドが出しているのは確かにありますが街の外に出れないことには達成できないものですし雑用関係の依頼は依頼で余ったクエストを斡旋するんですが、冒険者自体いないから依頼を出しても受諾されないですし依頼料を払ってまで頼むほど余裕がこの街にはないのでそもそも依頼自体がありません。」
受付嬢、名前はイクリさんが隣の部屋を見てみなさい指さした方には広いスペースを相当無駄に使っていると言っていいような数枚の紙しか貼られていない状態の依頼板がありイクリさんの言うことが正しいのが痛いほどわかった。
「ならギルドからこの状態を外に知らせるのは?」
「それは規則違反よ。魔族ギルドは政治への一切の介入をしない事を守り中立を示してきたから国や貴族方から今の信頼を獲得しているの、もしこの街の状況を外部に漏らしたら街は助かるでしょうが先代方が築き上げてきたギルドの信頼は一気に消え去り、最悪魔族ギルド自体が無くなるでしょうね。それでも頼む?」
「いや、やめておくよ・・」
だから冷たい目で見るのは止めてくれ!
ギルドが助けたくてもできないのは十分に分かったから。
それからは他愛もない話をして時間を潰した。
終わって帰る時にようやくゼルフの方を見たらタキシードのような犬用の衣装を着てへばっていた。後ろに他にも衣装を持った受付嬢達を見たが何があったのかはあえて聞かなかった。・・・・・自分でなくて本当に良かったとだけ言っておく。
ゼルフにはギルドから出て茨の荘付近までずっと頭を嚙まれ続けることにはなったが―――――。
◇ ◆ ◇
時間は少し遡った茨の荘。
宿の店主であるオリバーは入り口のカウンターに座ったまま入り口から2階へと視線を移した。
2階の部屋を貸している客人は昨日街へきて今日の朝一には街を発つと言って出て行ったが街を出る事が出来ずに戻ってきた。二人のうちの男の方は申し訳なさそうにもう一泊お願いしますと言っていたがこうなるのではないかという事は予想していた。
自分の所を紹介されたのがいい証拠だ。
こちらとしては覚悟を決めないといけない仕事を請け負ったことを意味する。
あいつらが仕掛けてくるならもう昨日のうちに来ていてもおかしくない。今まではそうだった。
そして二日目になった時は・・・・・・
オリバーは立ち上がると己の愛刀へと静かに手を掛けた。
「・・・・・・・・」
店の扉が開くと薄気味笑いを浮かべた青年の姿の男が茨の荘に来店したのだった。




