44、悪法
「改めて初めまして、ケリン スピリアです」
そう言って一礼したのはマリアの気に入った店員だったがなぜ彼女がここにいるのだろう。
その姿は仕事用の制服ではなく普段着の私服姿なの一瞬誰か分からなかったが、もしかしてあの時の損害補償のについてなのか。
疑問があったがマリアは躊躇いなく座ったので弥叉もそれに続いて席に着いた。
「弥叉さんでしたよね?ご足労頂きありがとう御座います」
「あのこれは貴方が呼んだのでしょうか?」
「いえ、私もマリアさんに言われて来ました。ヤシャさんは何も聞かされていないと聞かされたのでまずその説明からですね」
「その前にこれから話すことについて」
ケリンさんの話を中断させてマリアが今回集まった訳を話してくれる。
「ヤシャは時世に疎いから気づかないだろうけど、この街の今の状態はとても深刻な状態になってるのよ。ゼルフに奴隷用の首輪をつけたのも彼女の店で行われた換金の偽りも普通なら絶対に行われないことなの、それに商店街には開店して真新しい店と最近閉店したばかりの店がやたらと多かった。真新しい店の物資の値段が私の知っているよりかなり高かったのもそうね」
「たまたま・・・ではないんだな」
ただマリアがこの事を言っただけなら情勢が変わったか仕入れに問題でもあって値段が上がっただけだと反論しただろうが住民であるケリンがマリアの言葉に頷いているので気の所為ではないことが分かり弥叉はまじめに二人の会話を聞くことにした。
「酒場のマスターにも街の情勢が悪くなったのを聴いたわ。今日も知り合いの商人が店を潰されたと嘆いていたらしいって、ここ最近では馴染みの店が潰れるのが続いているそうよ」
「あの時そんな話をしてたのか。なら彼女は?最初の店から確信を持っていた訳じゃないんだろ。いつ呼び出したんだ?」
「私が彼女に握手する時、『あなたと話したいから夕食でも食べながら話しましょう。場所は―――』という手紙を握らせたのよ。確信はないけどおかしいとは思っていたから誰かには聞くつもりだった。彼女にしたのは私達への対応で問題なさそうだったのと、もし勘違いでも賠償請求で彼女の地位を上げれるように交渉をしようと思っただけって言い訳もできる状態で聞き手として良かったからよ」
「私も賠償の話だと思って彼女の手紙に従って来たのよ。まさかこんな話をすることになるなんて思わなかった」
ケリンさんも話の内容を聞かされたのは待ち合わせ場所で会った時でまんまと嵌められたみたいだ。
騙されたと言っている割には楽しそうな表情で笑っているので問題ないみたいだがマリアも大胆なことやるな。
話の方は街が変わってしまった理由についてになり、ケリンさんが中断された後の話を話し出す。
その際マリアがヤシャは世間知らずだから丁寧に言ってあげてと言っていたがこの世界の世間は知らないので何も言わずにケリンさんの話を聞いた。
「今はこんなですがこの街は戦後前から栄えている産業都市で街は活気に溢れ、私の父も商店を営みそれなりに稼ぎもありました。
それが1年前程です。今の領主が商人から金を取り立てるための政策を行い始めたのです。
それも最初は影響の少ない政策から行われたので住民の反感は少なくすんなりと了承されました。
その後も少しずつそういったものが創られていきましたが、一時は住民の景気も右肩上がりだったので領主の妙策として捉えて新しい政策を増やしていく領主を止める者はいませんでした。
その子の着けた首輪をつけるようになったのもこの時です。
その頃から既に問題は起こっていたのにも気づかずに・・・・。
気づいたのは街のルールはかなり変わってしまった後の生活が厳しくなってからです。
今まで無料だったものにもお金が掛かりだし、仕入れの関税の値上げで物価が上がり、食事代も馬鹿にならないような直接生活に直面するような政策が出てから。
当然住民からは反感が起きました。しかしその時にはもう街の武力を持っていた商人達は街から離れた後で街の戦力は領主が養っている兵だけになっていました。
当たり前です。商人は情勢の変化にいち早く反応して、私達が気づく前に政策を止めるよう言っていたのを私達は変わらない生活に安心していて聞かなかった。だからもう駄目な街から早めに避難しただけの事。
残ったのはこの街でしか商売できない商人や農民と戦いを知らない者ばかりで止めようにも自分達だけで領主に挑む決心が付かずに時間だけが無駄に過ぎていきます。その間にも領主は首を絞めるように政策を続けました」
「冒険者は使わなかったのか?」
「冒険者は街を離れた商人の護衛で街を離れてから戻っていませんよ。魔族ギルドに行ったなら人がいなかったのは気づいたんじゃないですか?」
確かに登録している間酒場で飲んだくれていた冒険者数人しか見ていない。
受付嬢達の態度も冒険者自体がいなくて仕事をする必要がなかったからか。
「続けますよ?
しかしいくら決心がつかなかったと言っても限界はあります。今から2ヶ月前についに領主の館に強襲を掛けて直談判を決行しました。
住民のほとんどが参加していましたからこの数なら流石に考えを改めるだろうと自分達に都合のいい結末を予想して。
結末は悲惨でしかありませんでしたよ。
交渉に行った代表は殺され強襲を決行して領主に楯突いた事で責任を取れと言ってこられて聞く耳持たずでした。
私達はあまりの横暴に暴れましたが更に状況を悪化させるだけ正直領主の娘様に助けられなければ最悪の結末だったでしょう。
その後は街は商人の物です。空いた土地や店主が殺された店を領主の息のかかった商人が商いを初めて街の生活は支配され逃げようにも領主が街から出さないと決めた者は出ることができなくなって今の街へとなっていきました」
話が終わり少しの間を空けた。
その時の状況を思い出したようでケリンさんは暗い表情で目頭に涙が溜まっていたからだ。相当辛いことがあったのだろう。
俺達はケリンさんが落ち着くのを待って疑問を口にした。
「だがなんで領主の横暴を大貴族は許しているんだ?そんなことすれば介入して止めさせそうだが?」
「それは分かりません。見捨てられたか、知らされていないのかもしれません。今の状況は長く街に滞在しなければ、ただ物価が高くて住みにくい街だったというだけで終わりですし住民は誰も外に出れていませんから」
「領主の娘って?」
「あぁ彼女はもういません。強襲から1週間後に亡くなったという報告が街に流れました。聡明で民衆思いの優しい人で襲撃で亡くなった人の家に極秘で謝りに行っていました。本当に惜しい人を亡くしたと思いましたよ」
「・・・・そう」
これで話は終わった。
暗い話をさせてしまったのでその後は楽しく飲み交わすことにして注文した食事を楽しんだ。
酒を飲んだケリンさんは余程疲れていたのかすぐに酔っぱらって寝込んでしまった。
起こして解散する時に、
「もし外にこの事が知られてないのなら助けを呼んでください」
彼女本気の訴えを聞いてもうこの街の印象は最悪になった。
そして彼女の願い通り外にこの事と伝えようと決めた。




