41、魔族ギルド
魔族ギルドの扉を開いて中に入る。
中に入って最初に目に映ったのは木製でできたカウンターに座って仕事中にも拘らず喋っているギルドの制服らしき服を着た女性の受付人達だった。
全部で四人のギルドの受付嬢達は銀行の窓口のように仕切りによって4つに仕切られたカウンターの右から二番目の仕切りの裏に集まって話に夢中なのか弥叉達が来たことに気づいていない。
職務怠慢で元の世界なら上司から説教される行動だがここは異世界である。これくらいの事は普通なのかもしれないと突っ込んでしまいそうになる衝動を抑えはしたが初めての冒険者登録に興奮していた気持ちが現実に戻された気分になってがっかり感は半端なかった。
初見の印象が悪かったのでそのままカウンターに向かおうと思う気が起きず、まず店内の内装を見回した。
正面の受付カウンターの左右に扉があり中に四人と同様のギルドの制服を着ている人が見えたので中央の部屋は職員用の部屋と言った処でその部屋で区切るように左右のスペースが開いている。
右側は飲食店、この場合は酒場と言った方がしっくりくる感じで丸い机が置かれそういった家具は安そうな木製の作りのものばかりで奥の方には髭の生えたオッサンがワインのテイスティングをしていた。
冒険者はビールのイメージが強かったがワインも置いてあるようだった。
テイスティングするオッサンの姿は酒場のマスターとして絵になっており所見の失望感が少し回復した。
客はスペースに比べて少ないがそれでも4、5人で飲んでいるパーティーらしき男達が見えた。あまりガラがよさそうだとは言えない男達で女性冒険者の姿はなかった。
まだ夕刻に入ったばかりなので少ないことは気にしなかった。
左側はこちらにも机や椅子が置いてあったが酒場のものに比べて見るからに品質が良く清潔感が感じられた。奥には壁に黒板のような物が掛けられており何枚かチラシの様なものが貼られているのでこちらはたぶん依頼板と冒険者の相談する場所だと判断した。
依頼板の横には二階へ行く階段があったが、今回の目的はは冒険者登録なので今は見る必要はないだろう。
長く観察してしまったがもう気分は良くなったのでそろそろ登録に行ってもいいだろう。正面に受付カウンターに向き直った。
カウンターの受付嬢達はいつの間にか弥叉達に気づいていたようで自分の担当する席について座っていた。最初のを見なければ立派な受付だと思っていたことだろう程背筋が伸びていて綺麗な礼で挨拶してくれた。
「今日はどのような御用でしょうか?」
「冒険者登録をお願いしたいのですが」
「はい、登録ですね。登録料は銅貨50枚になりますが問題ないですか?」
「これでお願いします」
そう言ってカウンターに銀貨1枚を置いて受付嬢から銅貨50枚のお釣りをもらうとアイテムボックスに落とすように入れた。
「それではこちらの用紙にサインをご記入下さい」
銅貨を出した後、受付嬢は机の下から用紙を取り出すとペンと一緒に差し出された。
しかし渡された弥叉は用紙を持って固まってしまった。
幸いすぐに受付嬢の人が気づいてくれたようで助け舟を出してくれた。
「代筆の方は銅貨5枚ですが受けますか?」
「お願いします」
こちらの世界では文字が違うのでマリアから教わってはいるもののまだ簡単な文字を読む事が精々で書く事は出来ないのだが、いい年した大人が読み書きができないのは恥ずかしいものがあった。
記入項目は名前、年齢、職業、得意武器、所有スキル、魔法、称号とステータスに表示されていることだった。
「スキルや魔法も書くんですか」
「いえ、名前さえステータスと一致すれば登録は完了できますよ。ただ必要なスキルや魔法がいるクエストは通常より報酬が高めで条件に合う人なら簡単にこなせますので詳しい内容を記載してもらえればそういった物をこちらで見繕って提示することができますし他にもサポートを受けることができます」
なるほど、それなら名前と年齢だけでいいかな。この街を拠点に活動するわけではないからメリットとしては弱すぎるし冒険者登録もこの後に頼むガルロルフの為にしている様なものだからな。
「ではこれでお願いします」
「はい、お名前はヤシャ クドウさん。変わったお名前ですね。年齢は・・・・・えっ?」
年齢を答えたらなぜかマジマジと受付嬢に顔を覗き込まれた。
受付嬢は美人さんなのでそうマジマジと見られると照れるんですが、
「あのなにか?」
「いえ、すいません。もっと若い感じがしたので驚いてしまって。これでも人を見る目は確かだと思っていたのですが。・・・・はい、それでは次にこちらに触れてください」
どうやらここでも日本人顔が年齢より幼く見せてしまったようだ。
そして前に置かれたのは門番が使っていたステータスを見るための道具に似た物だった。
「こちらに手を置いてください。これは冒険者プレートとステータスをリンクさせる物で先程記載したものが正しければリンクが完了しギルドに登録されステータス同様に閲覧できるようになります」
そう言われ門の時と同じように触れると自分の中で何かに繋がった感覚を覚えて前にマリアに見せてもらったのと同じものが出現した。
クドウ ヤシャ
所属名:なし
階級:なし
魔族ギルドランク:F
所持金:0
スタートはFランクから階級がないのは何のクエストも受けてないので実績無しだからだろう。
「無事成功したみたいですね。もし偽装をしていたら犯罪行為に該当し半年牢獄で既に登録していた場合は登録を抹消して永久に登録できなくなります」
後半は偽造しようとするなという釘差しだろうがそんなことするつもりはまったくない。
「次に新人冒険者にはクエストについてや魔族ギルドの施設についてご説明できますがお受けしますか?」
「お願いします」
「では簡単に説明していきますと魔族ギルドの仕事は国や貴族、子供に至るまでクエストに見合った報酬を払った依頼主の依頼の斡旋です。
クエストの内容は多種多様で討伐や採取などのメジャーなものから街中の雑用仕事、武器の加工の手伝いなんかも受け付けています。
クエストには種類によって加算されるポイントの階級が異なるので上げたいランクがある場合は依頼書の階級項目を確認することを忘れないで下さい」
これはマリアから聞いていたのと同じだった。
階級の統合のシステムも同様で知らなかったのはこの次からである。
「では次に報酬についてです。
報酬は依頼主から依頼を受けた冒険者が現れた際にギルド側に支払われ雑務や手伝いなどの一般的に危険の少ないクエストは報酬の5パーセントを討伐や護衛のような魔物との戦闘が行われる危険性の少ないものは20パーセントを徴収します。
20パーセントは高いとお思いかもしれませんがこちらは仕事に必要な情報の提示と出現している魔物の種類、数をギルドの斥候が調べますのでその分の手数料となっています。
誤報などがあった場合は本来の5パーセントに近い値段になるよう返金しますが大抵の事では適用されません。ご注意を」
「依頼の失敗の場合は?」
「それもこれから説明します。
依頼失敗には罰金が発生します。
依頼内容にもよりますがまず依頼料の1.5倍を依頼主に返金する必要があります。また護衛依頼の場合は損傷分の損害賠償は自己負担。時間制限のあるクエストで時間延長になった場合依頼人と相談で賠償を払うことになります。
ただしこちらはギルドでも3割まで負担することができるので申請をしてください。
例外として依頼人の申請よりクエストの難易度が困難だった場合や冒険者を複数雇っていて先に達成された場合などが該当します。
他にも対象になる場合がありますので随時報告して貰えるとギルドとしては助かります。
後から苦情を報告されても対処できませんので、・・・・・・・
以上が報酬及び罰金についてです。何か確認したいことはありますか?」
「いえ、問題ありません」
受付嬢は少し早口で一辺に話したので心配になって聞いたが弥叉の返答にそのままでいいかと判断して説明を続けた。
「次の説明は先程話した偽造等の関連と重なりますがこの冒険者登録はあなたのステータスに繋がっています。その為もし仮に貴方のステータスのプレートに盗賊、犯罪者になった場合ギルドに預けていたものは没収、これまでの功績は抹消され、ギルドからの支援が受けられなくなり捕まえる対象になり賞金首として各ギルドにも送られます。
奴隷の場合は功績は残りますがクエストを受けるには主の許可が必要です。逆に奴隷を持った場合は主の申請をしないと受けられません」
この登録は元の世界には無いほど便利なシステムであるようだ。
長かった説明もようやく最後のようで受付嬢は一息ついて間を空けた。
「最後になりますがギルドには昇格試験が行われています。
原則には階級のランクが昇格試験のボーダーに届いた場合自身の判断で昇格試験の申し込みが行えます。
試験に受かった場合は昇格、受からなかった場合は鍛錬期間として次の申し込みまでのインターバルが発生します。
また、昇格試験には申し込み費が掛かりますので申し込み前に値段をご確認ください。
これが原則です。
ただし一つだけ例外として登録して最初にランクの見極め試験があります。
申し込み費は無料。一つ一つではなく一気にランクを挙げられます」
「それは今から受けなければいけませんか?」
「それはこちらで受けない可能性があるということでしょうか?」
弥叉が頷くと受付嬢は「少々お待ちください」と言って部屋の奥へと入っていき少しして戻ってきた。
「すぐに受けない場合こちらの腕輪をギルド職員に提示してください」
持ってきたのはシルバーの腕輪でマークのような彫りがある物でマークはギルドの物であることを意味するものの用であった。
「以上で説明は終わりです。ほかに御用などはありますか?」
腕輪を受け取った弥叉に受付嬢はそう言われてようやく弥叉は本題に入ることができた。
「それでは主獣契約を頼みたいのですが」
俺はそう言って視線を上に上げた。
上、つまり頭上にようやく終わったのかと言いたげにガルロルフはこちらに視線を向けた受付嬢に一鳴きして顔を上げた。
弥叉は気が付かなかったがここへ来る前から頭の上で眠ったように動かずにいたので既に周囲には変なファッションなのではとさえ思われており、受付嬢達もかなり近い距離で話していたが変わった帽子を付けたクシャナ族だと思っていたので突然動き出したガルロルフを二度見していた。
そしてその後の反応はみんな同じで、
「「「「可愛い――――――!!」」」」
全員がそう言って叫びながら近づいてきて一瞬にして頭の上のガルロルフを自分達の懐へと掻っ攫われた。
その速度は弥叉が止めに入る隙が無かったほどで、受付嬢達のレベルからは考えられないほど早かった。
そう言っている間にもガルロルフは四人の受付嬢によって可愛がられていく。
その光景は男としては羨ましいと思ってしまう光景であったが、次第に取り合いになりガルロルフの悲痛な叫びを上げるのを聞くと羨ましいという気持ちは全く起きなくなっていった。
同じ女子のマリアに助けを求めようとしたがマリアはいつの間にか酒場のマスターと意気投合して話をしていて弥叉の後ろからいなくなっていた。
助けがないまま何とか弥叉が四人を止め救出した時にはガルロルフはノックアウト状態で突っ伏していた。
流石に受付嬢達もやり過ぎたと思ったのようで正気を取り戻して本来の仕事に戻り、従魔担当者を呼びながら主獣契約についての確認事項を弥叉に問いた。
「従魔として登録するのはそちらの魔物でよろしいですね。
主獣契約は登録のみなら銀貨3枚、他のオプションを付けると追加されます」
「名前と許可証、それから首輪を外してもらえると助かります」
「やっぱり門番が?」
「えぇ」
この街に住んでいるだけあって説明するまでもなく事情を理解して困った顔をしながら弥叉に料金を提示した。
「料金は計銀貨12枚ですね」
「・・・ちょっと高くないですか?」
料金が一気に4倍になったことに弥叉はギルド側が正しい料金を提示したことを理解していても言わずにはいられなかった。
受付嬢も言われるのが分かっていたようで嫌な顔はせず代わりに同情のするような顔で料金の詳細を話した。
「先程話したように登録には銀貨3枚掛かります。
次に頼まれたオプションの値段ですがまず名付けは銀貨2枚に銅貨50枚掛かります。
こちらは登録時に同時に行うので始める前にもう一度担当に確認を取って行ってください。
許可証は銅貨50枚。
こちらは登録完了の際すぐにでも発行されます。
・・・・・で、首輪の解除には銀貨6枚掛かります」
「待ってください。これは門番に嫌がるのを無理矢理着けられたもので門番からは登録して解除するなら専門店か魔族ギルドに頼めと言われているんですがなんでそんな値段になるんですか!?」
手持ちに200枚以上の銀貨を持っているので払えはするが銀貨6枚は日本円にすると約6万円、普通に仕事した場合の日給は銀貨1枚程で十分に高額な値段だ。
そんな値段を払わないといけないようなものを無理矢理着けた上に解除の金は自腹で払えというのはあまりにも理不尽が過ぎる。
「申し訳ありません。ギルドで提示している値段はギルドの本部が定めた金額なので金額の変更をするわけにはいかないんです」
苦しい表情で事情説明をしてくれた。
ギルドの値段設定は地域環境によって取れ高が変わってしまうもの以外はすべて統一されていて値段設定は正当価格である。
なぜこのようなことになっているのかと言うと、本来従魔にする前の場合は契約できる店に案内したり仮証明を発行してくれてこの街も前まではそうしていた。
しかし突然街の領主が今の首輪制に変えてしまった。
主獣契約をすることはそうそうない事なので住民からの苦情が無く決まってしまったそうだ。
ギルドとしては今回の様な事が起こるのを予期していたので抗議しているそうなのだが取り合ってもらえていないでいる。
それに加え、料金が銀貨6枚もするのにはもう一つ理由があった。
首輪と言っても種類がありチョーカーなどのファッション用は何の効力がないので解除云々はない。
解除が必要になるのは捕縛用と言われるもので代名詞は奴隷の首輪である。
主人の任意で首が締まるタイプや電流が流れるタイプ、無理に外すと爆発するタイプなど効力は色々でガルロルフが着けているのはその中の暴れないように体力を奪うタイプなのだそうだ。
常に起動している為外すのに手間が掛かり値段は通常よりも高くなってしまうのだとか。
説明を聞いた弥叉は絶句した。
ガルロルフが元気がなかったのはこの首輪の所為だった事もそうだが、そのことを何も伝えずに着けさせた門番達の神経が理解できなかったからだ。
それから担当者が支度が出来たと個室に呼ばれ、結論だけ言うと随分とあっさり登録も解除も終了した。
従魔にするためのテストがあるのかと思ったが従魔が起こした損害は主が全額負担してギルド負担しないのでいいのだそうだ。
「がルァ」
「悪かった。だから噛みつかないでくれ。ゼルフ!」
ガルロルフの名前はゼルフになった。
登録の証として魔力を帯びているマークが首筋に描かれていた。
そして首輪が外され元気になると痕は残らないが痛みは走るように腕に噛みつかれ、離して頭に戻った後も嚙んでは話し手を繰り返されている。
「それではこちらが許可証です。再発行には銅貨5枚ですが無くさないようにしてください」
カウンターに戻り許可証を受付嬢から受け取って必要なことがすべて終わった。
「それではあなたは今からギルドメンバーです。冒険者として自覚ある行動を期待します。
すでに夕刻ですので新人に危険度の増す夜のクエストを受注させる訳にはいきませんのでクエストを受けるのは明日以降になります。
宿の方はすでにお決めに?」
「”茨の荘”に泊まろうかと」
「茨の―――あの頑固おやじの店ですか。確かにあそこなら大丈夫でしょうか」
最後の最後になんか含みのある返し方をされたが取りあえず受付嬢達に一言言ってギルドを後にした。
もう日も落ちているので宿が取れないと困るのでそのまま宿に向かっていく。
宿で早く見つけて休みたいな。
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それからしばらくしてマリアの事を忘れていたことに気づいて再度ギルドに引き返した。
マリアはマスターと飲み合っていて弥叉が出て行ったことに気づいていなかった。
・・・・助かった。




