S15、大会の意味
自分がベッドで寝ているだろうことは何となく分かった。
身体が重く動きたくない気持ちであるが再び眠ろうと思うほど眠気はまったくなく徐々に意識もはっきりしていく。
そして重たい瞼を開き、そこでようやく自分のいる場所が自分の部屋ではなく学園の治療室にいるのだということに気が付いた。
学園創設者である前勇者が設計した部屋の一つで病室に似た白い天井に白いカーテンで左右のベッドは遮断された空間になっている。
「起きたのかね」
カーテンの陰から声を掛けられ重たい体を起こすと手にお菓子や果物が入った籠を持った学園長の姿があった。演説の時のような貫禄な姿ではなく近所の気のいいおじいちゃんのような雰囲気でよっこらせとベッドの横に置かれた椅子に腰かけた。
「気分はどうかね?」
「やたらと身体が重く感じます。・・・あの何があったんですか」
学園長は僕の症状を聞いて表情は少し緩みその後引き締まった顔でこちらを覗き込んでこられた。
「君はどこまでのことを覚えているんだい」
「大会に出て二回戦に進出して・・・隆が敗北を喫したんだ。それで二回戦を暗い気持ちのまま臨んで・・・その後は・・・・・」
その後の事が思い出せなかった。
二回戦の内容が思い出せない。僕は試合で負けたのかと思ったがどうやらそうではないらしかった。
学園長から僕がなった状態と行った惨状を聞かされた。
どういう経緯かは分からないが僕の心理状態の不安定さが聖剣のスキルの一つである”限界突破”が解放され、それを使った為に魔力のコントロールを失い暴走したのだという。
そしてその結果が対戦していた相手を重症の大怪我にさせ、もう一人の相手を狙った僕を友人のアレクが身を挺して止めに入り傷を負ったそうだ。
運よく重症になった相手もすぐに治療にあたったおかげで元の生活に戻れるようだったが、こちらの世界の回復魔法があったからで向こうなら全治数カ月に長期間のリハビリをしても元の生活に戻れたかわからなかったかもしれない。
「それでその後はどうなったのですか?」
「大会は両者敗退でそのまま進行させてもらった」
真紀は二試合とも不戦勝になってしまったが運も実力のうちと決勝進出を認めて準決勝を開始した。
二試合とも学園長の目から見ても素晴らしいものだったと、これまでジルとユリーシャ、真希の武勇を詳細に語ってくれた。
しかし優勝を勝ち取ったのは隆を倒した男の組であったそうだ。
ある程度予想していたことで驚きはそこまでなかった。
「彼は一体誰なんです?明らかに他の学生とレベルが違いすぎるし、この大会に出るまで突出した成績はなかったなんておかしいんですが?」
「そのことなのじゃが君達には悪いことをしたと思っておる」
「?・・・どういうことですか」
あの学生と学園長は何か関係があるのか、そしてそれがなぜ僕達に謝ることに繋がるのか、まったく分からなかった。
「本当は君達にこの事は伝えずに行く予定でいたが」
と前置きを置いて学園長は今回の大会の裏事情を話し始めた。
「何から話そうかのう」
「まず先ほどの質問の答えがほしいです」
「そうだの、まず彼のことから話そう。
彼は君達を倒すために入学してもらった魔族対抗戦力部隊の傭兵じゃ。幼い頃から能力を買われあの歳で実戦にも出たことがあるのだからただの学生とは実力が違うのは当たり前じゃな。
それでなぜ君達を倒す為に呼ばれたのかというと君達にはこの世界の常識も戦い方も知らないで召喚される。それは前勇者が無作法をして常識知らずだと問題になったことが文書に記されており召喚前から学園への入学は絶対のものになった」
確かに召喚されてまず言い渡されたのは学園への入学、そして常識を教えるためのサポートを付けることだった。それに魔法や人間以外の種族がいることで常識が大きく異なっていたのも確かで学園長の話に嘘はなさそうである。
「しかしじゃ、学園長としては言っては拙いのじゃろうがこの学園は未完成。王族でも貴族でも平民でも騎士や魔法使いとして鍛えられる場ではあるが、それには限度がある。
騎士になれても良くて国家の近衛騎士の新兵レベルが精々、魔法使いも同様じゃ。それでは既にレベルが達してしまった者や特殊なスキルを鍛えることはできん。それに授業方法が統一されておるから合わない生徒も出てきておる。まぁこれはわしらの問題じゃからお主の気にすることではない。ただこの学園で学び続けてもある程度までしか鍛えられないことだけ分かってくれ」
学園長の言っている問題が元の世界でも当てはまることで言っている意味は理解できた。しかしまだ僕らを倒す学生を入学させる意味が理解できなかった。
「学園で入学させることは決定事項であったが、君達は勇者だ。すぐに学園でもトップクラスの生徒へと成長するだろう事が予想されていた。現実、入学1ヵ月で全校生徒が参加する今回の大会で全員が学年上位の生徒にも圧倒して勝ててしまっている。
そこで君達に次の段階に行ってもらうことになるのじゃが、たった1か月で学園が教育を放棄し、同じ年の学生を楽に勝ててしまった状態では戦いを軽視してしまう。だから彼には無理を言って入学してもらい君達に上には上がいることを知ってもらって彼の素性は明かさずに次へ進めるつもりじゃった」
大会での一回戦、隆は相手を傷つけることなく勝利、僕はアレク一人でも大丈夫だろうと傍観、真希は魔法一発で勝負を決めていた。
もしあのまま障害になる者が現れずに優勝していたら・・・そうなっていてもおかしくなかった。
それどころか強者が現れただけで自分はこのありさま、実戦で魔物と戦っているときにこんな状態になっていた可能性も十分だった。
「じゃがまあ、自分達が未熟なのだということもはっきり分かる結果がこうして明確に表れてしまった以上彼のことを話しても修行が必要なことは分かったじゃろうからな。問題ないじゃろう」
「それでは僕らはこれから退学を・・・」
「いや、まだまだ君達には戦闘以外教えないといけないことはたくさんある。これからは特別待遇として修業時間の授業は免除するがそれ以外が普通に学生同様に受けてもらう」
こちらの常識が欠落しているのは自覚があるので退学しなくて済むのは有り難かった。
「それから君の仲間のジル君、ユリーシャ君、アレク君、それにウィア王女も君と一緒に修行を受けてもらうことになっておる」
「それは・・「「雄也 (ユウヤ)!!」」」
そこまで説明されていきなり部屋の扉が開き真希とウィアが入ってくると雄也に向かって抱き付いてきた。
体が重く起き上がるのも辛かった雄也は耐えられず上半身はベッドに倒れたが喚き声は我慢していた。彼女達は自分のためにしてくれているのだと思い耐えて・・・
「おい、雄也が死にそうだぞ」
助け舟を出してくれたのは真希達の後から来ていた隆だった。
真希とウィアを手慣れたように僕から引き剥がしてくれると再び体を起こすと隣に座っていたはずの学園長の姿はもうおらず代わりにアレクの姿があった。
「思ったより元気もうだな」
「おかげさまでな。それより迷惑をかけた」
アレクはその謝罪を笑って受け止め真希と隆が大変だったんだと文句を言いウィアがフォローをする。
そんな感じで会話が始まり先程学園長から話されたことを話題になり先生が止めに入るまで治療室で喋り続けたのだった。




