S14、未熟
1試合目、敗北した隆が意識を失い搬送されている光景に選手の中で最も動揺が少ないのは勇者であるだけの関係性の薄い3年生であった。
元々違う舞台で戦うことを期待させられている勇者と良くて各国のトップの組織への入団止まりである自分達であるがまだこの世界に来て1カ月の発展途上なら勝てる者がいてもおかしくないという考えでこれまで通りに戦えばいいだけと割り切っていた。
対して関係が深い残りの1年生は隆の実力をはっきりと分かっているだけに動揺は激しく、その中で最も激しかったのはこちらへ来るまで守られる側であった真希で待機所に真っ先に出ていこうとしてするのをパートナーの子に止められ、その戸惑い様は普段の可愛らしくも凛とした感じは微塵もなくパートナーの子は隆の敗北よりこちらの方が驚くほどだった。
そして次の試合にも影響があった。
ジルとユリーシャは雄也越しに関わりは深いが元から国の暗い部分を見てきただけに死んでもいない隆への心配はしていなかった。しかし実力は認めているので準決勝まで進んでくると踏んでいた隆に勝利した無警戒だった実力者の登場。何より一回戦では勇者を倒せるほどの実力者だと見抜けなかったことがより一層警戒心を刺激された。
だからだろう。
『ジル選手、ユリーシャ選手一回戦で見せた個人技とは違い、見本のようなツーマンセルで互いを補佐し合い確実に相手の前衛を倒して勝利を収めた!しかし、一回戦の圧勝とは違い接戦でもありました。』
次の試合のために自分達の手の内を隠すように勝利できる最低限の力で戦って勝利していた。
問題なのはもう一方の二回戦
雄也とアレクの試合激戦になっていた。
『一回戦では武器を持たずにパ-トナーのアレク選手に任せる形で傍観に徹していて武勇を見られずに終わってしまい、今回の武器を持っての登場に場内は勇者雄也の剣術を見られると期待していましたが、今目の前では雄也選手の劣勢!完全に相手に押し負け後退してしまっています!!
これはまったくの予想外!!
前評判では相当の剣術の使い手であると言われていましたがこれは期待外れか~!!』
試合開始すると相手はアレクへの支援を雄也にさせないように二人を引き裂き1対1で戦いを仕掛けてきた。本来ならそれでも十二分に戦えられたはずだが、雄也の知る者達の目から見て明らかに雄也の動きが変であった。
試合開始前まで隆がやられた事に対して反応が薄かったがそれが外に出ていなかっただけ。
いざ戦いになると動きは遅く太刀筋は滅茶苦茶で技の切れもなかった。
そしてメンタル面ではそれ以上にズタズタでいつもの笑みを浮かべた表情は蒼白してしまっていた。
雄也の異常は隆の敗北したことであるがそれと同時に対戦相手が怪物に見え、生まれて初めて人に対して恐怖し対峙したくないという思いが極端に雄也の動きを鈍らせていた。
そして戦っている雄也本人は初めて感じる恐怖の感覚が理解できず自分の動きの鈍さを何とか元に戻そうと剣を振るが振れば振るほどいつもの動きから遠ざかっているような感じになっていた。
こうなった理由はいたって簡単だ。
唯、覚悟がなかっただけ。
平和ボケいていた生活から戦いを強いられる日々に変わってもどこかゲーム感覚が抜けず軽い気持ちで受け止めていたのが隆の敗北で間違いだと気づかされたのだ。
神に選ばれた勇者だからって絶対に勝てるわけではない。強くならなければ死ぬんだという事に。
そんな気持ちが身体を強張らせていく。
「ぐっ!」
それなら魔法をと詠唱しようとして自ら隙を作り、剣に込めていた力が緩くなった為に剣越しに腹部に一撃貰い、隙を作った詠唱は痛みから中断してしまう。
(なんで!?どうして動けない?僕は勝つんじゃないのか!?このままじゃ勝てない・・・)
相手は学生だ。
卒業後兵士となる実力者でも所詮学校の授業と自主的な訓練だけの学生だ。
そんな相手に苦戦している自分が魔族なんかに勝てるのか?魔王を倒せるのか?
・・・怖い。
敵が、武器が、勇者と言う称号が怖い。
なぜこんなことを僕はしているんだ?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
駄目だ。マイナスな事が止まらない。
誰かどうにかしてくれよ!
あ・・・ッぁア・・あああぁああ…うあァァァ――――!!!
《聖剣の使い手の所有スキル”限界突破”を解放します》
頭の中に何か聞こえたが気にしない。
力を!負けないための力を!!
『なんと!?雄也選手からとんでもない熱量が!?』
「なんだ!あれは!?」
『まずい!あれは魔力暴走!
まだ技量が未熟で身体ができていない為、勇者の持っている膨大な魔力の放出に知らぬ間にリミッターを掛かっておるのだが、そのリミッターが外れかけておる!皆すぐに勇者から離れよ!』
対峙している3年生があまり魔力熱に余裕なく叫び声を上げ、隆の試合後から発言していなかった学園長が注意をして慌てるように部屋から飛び出した。
その間にも魔力量は上昇していき・・・・・倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ!!!
すでに理性の失った感情の赴くままに、
「ぐえぇっ・・・!!」
対峙していた学生が何の抵抗をすることもできずに汚物を吐いて倒された。
そして倒せた学生を雄也は追い打ちを掛けて蹴り飛ばし場外にまで吹き飛ばすとまるで壊れた機械のような動きで次の標的、つまりアレクの相手をしていた学生に向いていく。
「ひぃっ!?」
視線を向けられた学生は対峙していたパートナーの姿に、次は自分がなるのだと恐怖し腰を抜かしてその場から動けず、暴走した雄也はそんな学生に無慈悲に攻撃しようとして・・・
目標に到着する前にアレクによって止められた。
「ユウヤ!しっかりしろ!!」
止めに入ったアレクは雄也の一撃に何とか耐えたがたった一撃で身体を持っていかれそうになりながら雄也を正気に戻そうと叫ぶが、
「・・・・・・が・・・だ。・・・・・・で、・・・な・・・ら」
雄也はよく聞き取れない呟きをするだけで正気に戻ることなく逆にアレクに向けて二撃目を放ってこられ、次々と重たい一撃一撃がアレクを襲ってくる。
一撃受けるだけでもきつい攻撃をそう何度も受けられるわけがなく防御が間に合わない何発かが身体に当たり嫌な音を立てるがそれでもなおアレクは雄也の前に立ち続けた。
聖剣を振り上げ、目は血走らせながら言葉にもならない声を上げると明らかにアレクを沈めるために一撃が大振りとなり聖剣に沿うように己の剣を滑らせ避けることができ、
「っ正気に戻れ!!アホ---っ!!!」
後頭部へ一撃を思いっきり叩き込んでやった。
峰ではあったが雄也の頭は衝撃で大きく揺れた。
「・・・・・・・・・・あ・・・あれ・・・・く・・・」
その一撃でも魔力熱は解けず顔も正気を失ったようなままで最後にアレクの名を呟いたようにも聞こえたがその前に、
「五法封印」
放送席から飛び出した学園長が到着し光のリングが雄也の手足を縛り上げ拘束し、それからしばらくして魔力熱が消え、雄也は気を失って倒れ伏した。
学園長は雄也の容態を確認して医療班を呼びよせ、遅れて病室で休んでいたはずの隆と待機室にいるはずの真希が心配した様子で駆け寄ってくる。
運ばれていく雄也を余所に満身創痍のアレクは学園長からよくやってくれたと声を掛けられ、雄也の容態を聞いて大丈夫だと聞かされて安心して糸が切れたように意識を失った。




