S6、学園行事
入学式から1カ月。
学園最初の一大イベントである大会の本戦が行われようとしていた。
学園の周りは学生が屋台を開いてお祭り気分で楽しみながらトーナメント戦の開始を待っている。中にはトトカルチョをしている学生の姿もあった。
そんな学園の一室が大会決勝に出場した1チームの待機所となっている。
大会決勝の会場は学園施設となっているコロシアム。
街中に所属する学部、学年事に待機所は別れており総合部門決勝進出チームは2チーム。二人で一組に一つずつ配られている連絡用の魔法具が点灯するまで自分の出場する時間も対戦相手も分からなくなっている。
決勝トーナメント前、待機所は緊張感に包まれた空気であるはず・・・・なのだが総合部門の待機所は1人を除き出場メンバー全員が部屋の隅で空気になっていた。
その全員の感想はさっさと部屋から出たい!、だ。
「ユウヤさん、タオルをどうぞ」
「ありがとう、ウィア」
部屋を支配しているのはリーダーである増渕雄也と今回の大会にエントリーを辞退しているウィア。関係者以外立ち入り禁止のはずなのにいるのが当たり前のように部屋に入って雄也の身の回りの世話を行っていた。
今も準備体操を念入りにしていた雄也が終えたのを見計らって冷えたタオルを差し出している。
背景にバラ色が浮かぶような甘ったるい雰囲気を醸し出され、その光景だけで何も知らない人間なら恋人同士だと勘違いしてもおかしくないと思える。
「皆さん、私の顔をそんなに見て何かありますか?」
メンバーがどのような心境で見つめていたのか分かっているのだろうが、本心を隠した言い回しで聞いてくるのでメンバーは答えようが無く、言葉を濁して視線を外すことしかできなかった。
「そうですか?」
ウィアは言いたいことがあるのを追及するようなことはせずに、また雄也の世話を始める。
「いよいよ決勝ですね。相手は上級生だけでなく他の勇者様方の率いるチームも出て下ります」
「そうだね。真希も隆もそうだけど出場者全員が仇敵だよ」
決勝進出チームは殆どが上級生チーム1年生チームで残ったのも各勇者が率いたチームのみ。
実際の戦闘と変わらないほぼ何でもあり2対2のタッグバトルでやるので実戦慣れしている上級生の方が勝っていると言え、勇者同士でサシで勝負した場合でも勝てると言える確証がない。
大会優勝は運も味方につけてようやく可能性があるぐらいだと雄也は見ていた。
「まだこちらに呼んで1カ月にもならない状態の・・・能力がまだ上級性とさして変わらないユウヤさんにこんなことを言うのは間違っているかもしれません。ですが・・・」
ウィアは続きを言うのを躊躇い一旦言葉を途切らせ俯いたがすぐに決心を決めた顔ではにかみながらこう言った。
「・・・・それでも私の信じるユウヤ様なら誰が相手であっても必ず勝利して戻ってくるとそう信じています」
顔を真っ赤に赤らめ言い切ったウィアの頭に雄也は手を乗せて優しく撫でながら、
「ウィアの分も頑張って来るよ」
そう言いてしばらく撫でるのはウィアが恥ずかしくなって立ち去るまで続き立ち入ってはいけない雰囲気は無くなってようやく解放されたとアルクが雄也に近づいていく。
そして名残惜しそうな雄也が撫でた手を見つめていたのに気づいた。
「どうした、手なんて見つめて」
「いや、ウィアの髪を撫でている時、妹がいたらこんな感じなのかもな~と思ってな。なんか感慨深くって」
「妹って・・・それ以外に例えないのかよ」
「?・・・やっぱ王女を妹なんて不謹慎だったか?」
「いやいい。お前はそういう奴だって隆から言われてたよ」
アルクは脱力した。
こいつは本当に何もわかっていないのだと。
隆から鈍感で無頓着なくせに顔が良く気が利いて頭も良いからかなりモテる。なのにそのことに本人は気づきもしない。
たぶん相手が告白でもしないと気づかないんじゃないかと言っており聞いた時は気にも留めていなかったがこの1カ月の付き合いでも分かる。
これは酷い。
もはや重症と言っても過言ではないのではないか、とよくこれに隆は付き合って来れたなと感心してしまった。
アルクはウィアの事はもう触れることはせずに残りに短くなった時間で作戦会議をするのだった。
◇ ◆ ◇
まだ大会開始前だと言うのにすでに会場は熱気に包まれていた。
予選まではコロシアムではなく体育館や訓練場などで戦いが行われていた。
無名な一般生徒同士の対戦はいいが本選出場候補者や成績上位で有名な生徒の対決は見たいと集まってくる生徒が多く、生徒が入りきらずに試合前に混乱が起きたという事件があってから混乱防止の避けるために観客の人数を制限することが決まっている。
その為観客は結果だけしか知らされておらずどんな戦いをしたのかを知らない。
それが本選でようやく見れるのだから生徒の熱気はむしろ当たり前とも言えた。
また本選出場者は純粋な学園の実力者達である。
今期のカザカミ学園の代表ともいえる生徒同士の戦いを見れるチャンスとあって会場には学園関係者だけでなく各国からも使者又は王族本人が観戦に訪れていた。
特に入学早々の大会であるにもかかわらず1年生チームが4組が出場。そのうち3組が勇者が入っていることが例年以上の注目を集めていた。
そしてついに大会進行のアナウンスが流れた。
この世界には拡声器はないがそれに近い魔法具が設置されコロシアム会場全体にまで響き渡っていた。
『ご来場の皆さま、お待たせしました。生徒及び学園関係者及び外部者の皆さま!例年以上の人だかりに嬉しく思います。
これより「カザカミ武道会」開催を宣言します!!』
観客席の生徒達が待ってましたと歓声が上がった。
『伝統ある大会の優勝は栄誉と名声、それに学生の賞金としては破格の一千万ベル!!その栄光を勝ち取るのは果たして誰か!!
それではまず今大会の開会の挨拶をカザカミ学園の長バルデス アドバ学園長』
紹介した司会者と入れ替わり老人の声へと替わった。
『カザカミ学園生徒諸君まずこの大会は君たちの実力を見直すものでもある。成績だけ良くても本選に進めなかった者も居るじゃろう、実力がないとエントリーしなかった者も居るじゃろう、ここは技術を磨く場所だ。本選に出場できなかったのは自分に実力が無かったからだと思うのもよい。
しかし儂はこの大会で皆には技術とは何なのかを改めて考えて欲しいと思う。
本選出場者の諸君には儂を驚かすような技術が出ることを楽しみにしている』
話が終わり会場から拍手が響く。
学園長の言葉が胸に刺さった生徒もいただろう。
だからこそいい締めで終わったはずの学園長の声が再び聞こえ、
『すまん。言い忘れとったが今大会からコロシアムの試合を外に設置しているスクリーンに戦いの映像を映し見ることが可能になった。有効利用してくれ。・・・これで良いのじゃろ?『まだ音入ってますよ』え!?』
という台無し感半端ないやり取りが聞こえ会場がどう反応するべきか困惑する空気にしてしまったのは残念であった。
『それでは30分後本選第一回戦を始めます』




