36、X ガルロルフ親子の場合&瓦礫の鉄剣のその後
終刻の洞窟の環境は弱肉強食、いつどこで敗れ死ぬか分からない酷な環境だ。
母にはそう聞かされていたし母以外の魔物の戦闘も見てきた。
でも分かっていると思っているだけで心のどこかで自分の母はいつまでも生きていけるのだと、今の生活が変わる事が無いのだと楽観的な考えをしていたのだった。
そう、その日母が戦いで負傷して巣に帰ったのを見る前までは。
片眼は引っ掻かれた痕がありうまく瞳を開けられず、腕の皮がごっそりを剥がれ、背には深々と牙が二本刺さったままになっていた。
他にも傷跡は多く寝床に着いた母は力なく倒れ込み眠りについてしまった。
母は強い。
この終刻の洞窟は多くの魔物が生息しているがその中で縄張りを作れる魔物は一握りしかおらずその一握りに母は入っている。
だが最強ではなく同等や更に強いやつも確かに存在している。
普通はそういった魔物は縄張りから出てこないが絶対ではないのである。
たぶん今日その偶然が起こってしまったのだろう。
帰ってきたという事は勝って来たのだろうけどその代償はあまりにも痛かった。
母がこのまま目覚めないのではないかそんなことをふと考えてしまい、その日は母の痛みが少しでも和らぐように傷口を舐め続けた。
それから二日。
母は未だ動けず寝たきりになってはいるが意識が戻り傷の痛みも引いてきているようだ。ただ動けるようになるにはまだかかりそうだ。
そして自分は食料不足で空腹になっていた。
生まれてすぐに母から戦闘の訓練を施されているが外の環境で生きていくには自分ではまだ力不足だと教えられ、今までは母の狩ってきた物を食していたが母が動けない二日間、もう我慢の限界であった。
何とか自力で食料を確保してやる。
そう思って初めて母がついていない状態で外に出た。
自分はまだ弱い。
生きている獲物を狙っても返り討ちにされるだろう。なので屈辱ではあるが魔物同士の戦いの後の食べ残しを狙って彷徨った。
彷徨った結果、この洞窟の外から来た者達につかまってしまった。
目が覚めるといつもいるはずの我が子の姿がなかった。
首を回して見える範囲にはいない。
鳴いても応答はなかった。
そして子供の臭いは巣の中から外へと向かっていた。
まだ痛みの引き切れていない身体を無理やり持ち上げた。
我が子の匂いはまだ何とか残っている。その匂いに向かって走り出す。
手負いでありながらその速度は凄まじく隠れて行動していた子供との距離を一瞬にしてなかったことにしてしまった。
しかしすでに我が子は不測の事態に陥った後であった。
この洞窟で見慣れぬ装いをした不快に感じる者達が我が子を捕らえている。
その姿形は初めて見るものであったが昔自分がまだ我が子と同じ子供の頃、外界から来た者達の話で出た姿と酷似していた。
その話ではここでは生きていけないような弱者でありながら不気味な強者の雰囲気を醸し出していた関わり合いの持ちたくない類の者達であったと聞いていた。
そんな者達がなぜ今のタイミングで現れたのかは分からないが我が子を殺さずに捕らえている事が彼らもまた自分を狙っているのだろうと結論させた。
自分の傷を見る。
万全には程遠く、動くことすら重みを感じる今の身体にこの相手。
万全ならともかくこの状態では死地に行くようなもの。
自分の死を、その後の我が子の未来を賭けなければならない戦いだと覚悟し、怒りと雷を纏って飛び出したのだった。
捕まえられてから何とか脱出をしようとしたが出られず母は助けに来られる状態ではない。
自分はこの後どうなるのだろうかと疲れてペタンと座り込んで悲しみに打ちひしがれていた時、今までに見た事のないような殺気を放ちながら自分を捕まえた者達の前に母が姿を現した。
怪我はまだ治っていないはずの母。
しかしその姿は怪我をしていると知っていなければ分からないほど堂々としたもので一瞬母が来ないのを願っていたのを忘れて素直に喜んでしまったほどだ。
すぐに戦闘になり敵とぶつかり合う姿も尋常じゃないものを感じた。
そして戦いは傷つきながらも相手を亡き者にし、着々と敵の数を減らしていっていた。
その戦いぶりに相手の中には恐怖を抱いていて焦っているものもみられる。
これは勝てるのではないか。そう、思ってしまった。
でもその善戦はそう長くは続かなかった。
次第に母の傷口が開き、戦いとは別に血が流れだし、明らかに動きが鈍くなっていった。
対して相手は母の動きに慣れてきたのか動きが良くなっていき次第に母だけが傷を負いだしていく。
そしてついに体勢を大きく崩した母が相手の得物を胴体に喰らってしまい・・・悲しげにこちらを向いて動かなくなってしまった。
それが母が死んだのだという事なのだが信じられなかった。
あの強い母が、自慢の母が死んだ?
現実が受け止められず目の前で起こっている事を見ていながら真っ白になった頭は現実を逃避していた。
呆然となっている間に母は相手によって牙を皮を爪を取られていき、その後自分は解放される事なく洞窟の外へと連れていかれる事となった。
◇ ◆ ◇
Sランククラン『瓦礫の鉄剣』に舞い込んできた指名依頼。
・指定した魔族領内の調査
・拠点となる場所の確保&近隣の町又は村の占拠
・指定場所付近に生息しているヴェラゴーンの卵の採取
・指定場所付近にある終刻の洞窟内にいると呼ばれるSランクの魔物の素材
依頼は以下の通りで一つ目の周辺調査で魔族軍が攻撃の準備をしていた場合又は指定区域が自分達の実力ではどうにもならない危険な地になっている場合は撤退するように言われ、安全だと判断すれば他の依頼の継続となっていた。
魔族領で活動する依頼は人族領の依頼より格段に危険度が高い。
今、休戦になってはいるが魔族と人間の溝は深く、会って人間だと分かれば襲われる可能性が非常に高い。
魔族軍なんかに会ったらいくら何でも逃げるしかない。
だから慎重に慎重を重ねて行動していたのだが、現実は拍子抜けするぐらいとんとん拍子に事が進んでいった。
終刻の洞窟に最も近かったコロネ村は連れてきた人員の半分の手勢で占領でき、そこからやや離れた場所に人族の拠点も作った。
ヴェラゴーンの卵の採取は自分達洞窟組と同時に出発したので結果は知らないがたぶん成功している事だろう。
安全さえ確保していれば決して難しい依頼ではないからな。
そして最も困難だと思ったSランクの災害級の魔物の素材調達。
相手はあのガルロルフであったが見事に討伐に成功した。
仲間も何人かやられたがあの化け物相手に善戦したと胸を張って言える。
それに洞窟内にあった高級素材の数々にガルロルフの子供と言うおまけまでついている。
終わってみればとても充実した依頼であった。
拠点に戻ると予想通りヴェラゴーンの卵の方も確保できており戦いの傷を癒した後人族領へと帰還した。
みんなホクホク顔の中ケイヒルだけがつまらなかったと不服そうにしていた。
彼は拠点襲撃が来た場合に備えて拠点警護をしてもらっていたが結局最後まで敵は現れなかったから仕方ないと言えた。
帰ったら報酬で武具でも買ってやろう。
そして人族領の自国に着くと今回の依頼達成に国王にたいそう喜ばれ連日王城で自分達主役のパーティーが開かれる事となった。
ヴェラゴーンの卵は依頼を出した王国に、高級素材は自分達の分を残してオークションに賭けられここで今回の依頼料並みの臨時収入が入った。
最後にガルロルフの子供だがあれは一旦魔獣使いに調教されたのち特別部隊に回されることになるらしい。
調教終了時に強さに応じて報酬を弾んでくれるそうなのでかなり期待できることだろう。
これで今回の依頼は完全に終わった。
今後だが、また新しい指名依頼が届けられた。
依頼主はなんと人族領最大の国アドルフの国王から。
依頼を聞いたその日に引き受けるのだった。




