35、正気
終焉の洞窟内
重い足取りで歩みを進めるマリアは狂ったような表情が抜け落ち、暗く落ち込んで後悔していた。
ヤシャへの復讐の鬼となり落ちるのに関係した冒険者を皆殺しにしようとして動き、拠点にしていた場所を潰してから3日後
最後に残った冒険者を追って終焉の洞窟にきていたが本能からか魔物は襲ってこないし洞窟が広くて冒険者は見つからない。
そうしてただ洞窟を歩くだけになっていったマリアは弥叉が落ちた光景を繰り返し思い出しては自暴自棄になってを2日間続けていたら一周回ってまた一時的に理性が戻った。
戻ったといっても完全な殺戮兵器から分別をする殺戮者に変わっただけ、内には変わらず殺意と怒気が渦巻いている。
溢れ出る殺意が今すぐ誰かを殺せと訴えかけてくる。
だが残りの冒険者も魔物も近くにいない。
やり場のない殺意は無駄に溜まっていく。
そういえば前にもこんな感覚があった。
勇者に仲間の敵討ちを仕掛け無様に封印されて敵を討つことも死ぬこともできずに悔しさと遣り切れなさで何かに当たりたくても封印の所為で何もできないで、私はあの時どうやって正気に戻ったのか?
・・・思い出せない思い出せれば今のこの気持ちも発散できるのだろうか。
さらに1日が経過した。
この洞窟は広い。4日間歩いているというのにまだ奥が続いている。
それから魔障粒子が少しずつ舞っていた。
私は粒子を凍らせているから体内に取り込むことはないけど普通の魔族じゃあ探索は厳しい洞窟だと評価し、冒険者の記憶では最奥にいるSランクの魔物の討伐。その素材を取りに来たという事だったが人間も魔障粒子は有害だったと記憶してたけど違ったのかな、と疑問が生まれていた。
もしかしたらもう死んでいるかも、
「んグッ?」
今、体内に痛みが走った?周囲には誰もいない。
攻撃を受けているようでもないのに何で痛みが?
すぐに痛みは消えたがマリアは未知の痛みに戸惑った。
正体が分からぬまま歩き始めるとまた痛みが走った。今度はさっきまでより長く続いた。
その後は洞窟を歩き続けていても平気であったが数時間後、再び何の前触れもなく3度目の痛み1度目夜2度目よりも強い痛みが身体の中に突き刺さってくる。
マリアは周囲全体を探知したが攻撃してくると思われる魔物は見つからない。
一体何をされているのか分からなかった。確かに痛みはあるがこんなもので耐えようと思えば我慢できる痛み自分を倒したいのならその後の追撃があると思い警戒して周囲を見ても何もこない。
結局、痛みの正体は分からないまま痛みは消え失せた。
その正体を知ることになるのは目的であった冒険者と対峙した時であった。
最初の冒険者を見た感想は、満身創痍。
すでに激戦を繰り広げた後のようで全員がボロボロの身体を引きずりながら歩いている。
洞窟に入る前のマリアなら問答無用で殺しに入っただろうが、ある程度の理性を取り戻していた事で相手を観察するぐらいの余裕はできた。それでも殺すのは確定であるが、
しかし、マリアの姿を発見した冒険者の第一声に殺しに入ろうとしていた身体が止まった。
「また魔族か?」
他にもいろいろと騒いで何か言っていたがその中でなぜかその言葉だけが引っ掛かりを覚えてしまい殺す気が収まっていき、冒険者に向かって対話をし始めた。
冒険者達は攻撃にしようとしていたのを止められ動揺しているが知った事じゃない。
「その魔族ってどんなやつか教えてくれない?」
なぜそんなことを聞くのか分からず困惑し返答に困った後、代表として一人大男が前に出てきて口を開いた。
「はっきりとは見えなかったが書物で見た鬼人種の種類で見た事のある姿だった。悪いが名前までは知らない」
トクンッと心臓が跳ねた気がした。
「その魔族はどうしたの?」
淡い期待だと思いながら訪ねずにはいられなかった。
もしかしたらという期待が高まる。
「・・・生存は保証しかねます。我々がSランクの魔物を討伐するための囮を逃がそうとしていて捕まえようとしましたが逃げられてしまい」
表情を変えないままあったこと全てを話すように言った。とは言っても男から話す内容の殆んどが自分達とガルロルフとの死闘についてでその魔族が登場したのは先程の説明で事足りるような一瞬と言ってもよいものであった。
その魔族がヤシャであるかはまだ不明であったが、その魔族を仲間の魔法が直撃してしまい、その後ガルロルフの子供と共に連れ去られたと聞いた時は殺気が爆発しそうになった。
代表の男の後ろにいる冒険者達が震えているのを見てまだ重要なことを聞いていないと慌てて殺気を押さえてやり過ごし、その魔族の生存の有無を聞いた。
よく見ると代表の男も震えていたみたいだけど一泊置いて答えてくれた。
魔法で即死しているという事はなくその後出てきたガルロルフが治療された跡があったことから生きている可能性があるようだ。
ついでに魔法を当てた魔法使いはもう死んでいるという。
もし生きていたら同じように殺してあげたのに。
さらに話を聞いていくとあの正体不明の痛みの正体が分かった。
契約内容にある契約者の守護は契約者の生命が奪われそうなときその危機を知らせてくれる役割があったのをすっかり忘れていた。色々と他にも効果内容はあったはずであるが思い出せないがとにかくヤシャが生きている可能性が高いという事が分かりマリアの中に渦巻く不の感情もどんどんと薄くなっていった。
そうと分かれば、
「あのこれは俺らが討伐した魔物の素材の一部なんですがこれで俺らを見逃してくれねぇか」
さっさとヤシャを探しに行こうとして話を切り上げようとしたら男が素材をくれたいい物の様だったし有り難くいただいてその場から立ち去った。
◇ ◆ ◇
マリア暴走のエピローグ
マリアが去った後、生き残ったデクス達はその場で震え続けていた。
見逃されたというのに生きた心地がしない面々。
複数人であったがガルロルフと対峙し勝利した冒険者達であったが立ち去ったあの魔族と戦う気はこれっぽっちも湧いてこなかった。
もしあの魔族が自分たちを殺す気で来られていたら抵抗すらできずに死んでいたという見解に満場一致であった。
あの少女のような姿では隠し切れない魔族から感じたのは明白な『死』
それも周囲の空気を歪めるほどの凶悪な殺気まで帯びた本物の化け物。
それに比べて自分たちの何とも弱いことか、人族領名の通った冒険者?、Sランクのクランリーダー?そんな肩書きに自分は強いと思い上がっていたのだろう。
ガルロルフにパーティーメンバー総出で倒したことでガルロルフに勝ったなんて思っていた。
何もかもが思い上がりであったと知らしめられたようであった。
そして洞窟に出たデクス達の目に更に残酷な仲間達の死んだ拠点を目にする。
助かった者はいないだろう、皆殺し。
親友で自分より強かったケイヒルの死体もあった。
殺したのは十中八九あの魔族だろう。たぶん反感を買った結果がこの惨状であり自分達も態様を間違えていたらこうなっていたのかと思い心が完全に折れた。
その後、タマツ国に帰ったデクス達はSランクの魔物の素材を持って帰ったことで国から恩恵を与えられることになったが辞退し、冒険者を辞めクランは解散、田舎に帰ったという近隣諸国にまで伝わる程の衝撃を与えたのだった。




