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29、救出作戦 前編

 


 前を歩く虎模様の狼の名は”ガルロルフ”

 この洞窟の魔物はシンプルな名前が多かったからタイガーウルフとかの見た目通りの名前かと思ったらしっかりした名前であった。

 それに非常に頭が良かった。

 後を追いかけ始めてすでに2時間歩いている間、弥叉に疲れが見えるとその場に横になり休みだと言うように一鳴きして休憩を取ったり弥叉では進むことができない場所では尻尾で弥叉を掴み進んで行くなど相手を気遣う事ができる知性の高さを物語る行動を取っていた。

 しかし弥叉が最も驚いたのは別にある。

 ある意味では納得のいく答えでもあったがそれでも驚いた数値、


『レベル213』


 この世界のレベルの基準がどうなのか分からない弥叉でも分かる。

 この魔物は他とは別格であると。

 その証拠にこの2時間洞窟の真ん中を隠れることなく歩いているのに一匹も魔物の姿が見えないのだ。

 魔物が多く見られた道も嘘のように静まり返っていて目の前のガルロルフを避けているように思えた。


 弥叉はこれからどうなるのかを考えた。

 一番望ましいのはこの出口へと案内してくれることだ。この魔物なら容易にこなせるだろう。

 最悪なのは餌として連れていく。

 これだったらもう詰みである。


 しかしその可能性は低い。

 もっと別の何かのように思える。

 その何かが分かった所で付いて行くのは変わらないが、


「こいつ見捨てられたんじゃないか」

「魔障粒子用のアイテムも心許ないからもしそうなら撤退する決断が必要っすよ」


 そんな声が歩いている道の右手に曲がった箇所から聞こえてきた。

 その声に驚きから声を出しそうになりガルロルフの尻尾によって止められた。

 ガルロルフは踵を返して戻ろうとしたのでどうするべきか悩んでいると今度は身体を掴まれ連行されていく。

 一個手前の道を左に進みその途中にある高さ5メートル地点にある横穴に飛び込むと開いた空間に反対の出口から先程の声の主達のいた空間が眺められた。

 数は16人の人間。

 全員が完全武装で鎮座している。

 そのどの装備もゴブリン村の戦いで見た防具より鮮やかな外装と見事な造りであるのが素人目の弥叉でも理解できた。

 その装備はミスリルやオリハルコンという第一級の者達にしか持ちえない高価な物などとは弥叉は気づきもしない。弥叉に分かるのはただの者ではないと言う事だけである。

 一通り整理がついた処でガルロルフが尻尾で指さすように一箇所に向けた。

 視線を尻尾の先へと向けると部屋の奥に人ではない生き物が発見した。

 見た目は小さな子犬ぐらいの大きさでガルロルフより毛皮が薄いが恰好はガルロルフを子犬サイズにした姿そのものであった。

 そしてその子犬は手足を縛られ猿轡をされた状態で横たわっていた。

 ガルロルフの方を見ると俺の疑問に頷くように頭を下げた。

 どうやらあれは思った通りガルロルフの子供のようだ。


「あの狼早く来ないとこの子殺したくなるんだよね」

「止めろよ。そいつが囮になれば魔障粒子がないここで戦闘ができるんだから」


 部屋の会話の一つにそう言っているのが聞き取れた。

 あの子犬はガルロルフの子供で集まっている人間は子供を囮にガルロルフを誘き出しこの場で戦いたいと言うことか。魔障粒子と言うのが何なのかは分からないけど何となく理解できた。

 理解できた処でガルロルフがいつまでも見ている弥叉の襟を器用に爪に引っかけ、弥叉を引っこませると何か伝えようとしているのか尻尾で何かを書き始めた。

 ◯や×、それに十六個の□、そこで何を意味するか分かり最後に△が書かれた。

 その後十六個の□を囲うように線を描き部屋にして、◯つまりガルロルフが部屋へと入る。最後に×が△の位置まで言って再度部屋を出るように書く。この×の意味は、


「俺に子供を攫えと言うのか?」


 俺の問いに頷き返すガルロルフ。

 強制ではないのか言うだけ言って行動を開始することはなく弥叉の答えを待っていた。

 どう答えるべきか迷った。

 このまま人間達に保護してもらってここから出るべきか、命を助けられたこいつを見捨てるのはどうなのか、子供を囮に使うような奴らが無事に保護してくれるのか、この作戦が終わったら殺されるのではないか。

 あらゆる可能性が頭の中で飛び交い、さらに悩んでいき一向に答えが出せない弥叉の耳に偶然中にいる連中の会話が聞こえてきた。

 それは連中にとってはただの会話のネタの様なものだ。しかし弥叉には答えを決めるのに決定的な話であった。


「こいつがクリアすればヴェラゴーンの卵と一緒に高く売れるだろうよ」


 弥叉がこの洞窟に落ちたきっかけであるヴェラゴーンとそれから逃げていた人間達、弥叉の記憶にその中に何かを抱えていた者がいたのが思い出せた。


(そうかこいつらが・・・・)


 こんな化け物ばかりの洞窟で神経すり減らして生活する羽目になった自分を落とすきっかけとなったあの人間を憎んだ事なんて数え切れない程あった。

 その人間と仲間と思われる集団に助けを求める?

 何を馬鹿なことを言っているんだ・・・・・全体に後悔させてやるに決まっている!!

 弥叉の中で黒い感情が渦巻き、それがドス黒い笑みとなって喉からはくっくっと笑い声が漏れている。

 その笑みは対峙していたガルロルフが一歩引いてしまう程であった。

 そしてガルロルフに答えを伝える。


「協力する。その代わりその後の命も保証しろ」


 引き気味だったガルロルフは弥叉が言った事を理解し声は出さずに頷いた。

 弥叉とガルロルフは子供の救出のために行動を開始する。




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