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30、救出作戦 後編

「グォオンッッッ!!」


 呼吸を忘れ心臓が止まるかと思うほどの咆哮。

 それだけで洞窟にひびが入るのではと錯覚させる程の振動が身体に伝わってくる。

 無駄に武器を握る手に力が入り、動いてないのに額から汗が落ちる。

 その場にいる冒険者達はそれぞれの感想、動作を浮かべたがその誰一人として自分のが強者だと思った者はいなかった。

 過去に対峙した魔物とは比べ物にならない殺気、


「来たぞ!!」


 もしここでリーダーを務めている男がリーダーとして務めを果たさなければと声を上げなければその場にいた半数は戦闘に参加するのが遅れただろう。

 そうはならず全員が武器を抜き、構えを取ることができたのは冒険者パーティーにとって最高に近いスタートであったと言えた。

 リーダーを務めている大男は声を出すと同時に先制攻撃を仕掛け二メートルは優に超えた身長にその体格でも大きく感じる斧を上段から振り下ろすがガルロルフはそれを前足の爪で合され身体ごと後方へと飛ばされる。

 大男が下がると後衛の魔法使いが大男を守る様に魔法を放ちガルロルフの追撃を止め、その間に後方との中間地点まで一気に押し込まれた大男が体勢を立ち直した。

 今度は初撃に身体が動かず大男についていけなかった残りの前衛と一緒に連携して突撃を仕掛ける。

 別方向からの同時の斬撃は並みの魔物なら対処できずそれだけで絶命させられる攻撃であったが規格外の化け物であるガルロルフはその場から動くこともせずに四肢と尻尾のみでこれを捌ききった。

 その防ぎ様に攻撃を防がれると予想していた冒険者達も驚きを隠せなかった。

 攻撃をしていた前衛が思ったのは過去、新人だった頃の先輩や師匠に軽くあしらわれた記憶。それが自分一人とこの魔物との力量差だと痛感する。

 そんな攻防を平然とやったガルロルフの方は敵対者である自分達を睥睨していた。

 先の牽制からあまりに早い前衛の後退に今度は魔法での援護は間に合わず、その僅かな時間にガルロルフの足の体毛が逆立ち黄色が光り出す。


「”雷爪”がきます!」

「任せろ!!」


 ガルロルフが動き出し光る足が最も体制の崩れた双剣の冒険者へと迫って来る間に自身と同等以上の大盾を持った男は割って入ってガルロルフの攻撃を正面から受け止める。

 盾と爪がぶつかり合い雷爪の纏っている電撃が四方に飛び交うが盾を持った男は押されはしたが倍どころではない体重差にも拘らず耐えた事にガルロルフは警戒し二撃目を打たずに一旦後退をした。


「デク、大丈夫か?」

「大丈夫・・・と言いたいが凄い攻撃だよ。腕が痺れてら」


 そう言って聞いてきたリーダーに腕を見せて苦笑を浮かべる。

 大盾の男はリーダーの男が冒険者になった頃からの相棒で防壁や硬化、堅牢と防御特化スキルを所持し、これまで魔物の必殺の一撃を防いできたが一撃でここまで削られていたのを見たのは初めてのことだった。

 ここまで来ると冒険者の中に待っていた時に述べていた様な余裕も自分との力量差に対する恐怖心もなくなりただ目の前の魔物を倒す事だけに集中していた。

 波状攻撃により反撃の一手を打たせないように少しずつ攻撃を与えようとしていく。

 それでも完全には抑えきれない。

 ゆらりと振るわれた長尾が信じがたい速度で少し近い斬撃になったところから的確にすべて弾き返し、そのままの勢いで追撃に構えていた槍使いに攻撃も加えた。

 槍使いは攻撃は当たりはしなかったが地面に当った後の砕けた土や砂利に襲われ、更に土埃でその後ろにいた後衛の視界が遮られる。

 これにより支援が遅れ連携がやや乱れた。

 その僅かな綻びから一気に跳躍し冒険者が囲んでいた包囲から抜けガルロルフは一番後方にいた魔法使いに突っ込んだ。

 そうはさせないと先程の大盾の男が動こうとしたが広範囲の火炎が放たれ、盾では防ぎきれず魔法障壁にて守ったがその場に足止めされてしまう。

 ガルロルフに狙われた魔法使いは物理、魔法障壁を一撃で破られ脳内に自分が引き裂かれ肉塊になっていく姿が浮かび、逃げることもできず膠着したまま爪が自分に向かっていくのを見ているしかなかった。

 振り下ろされる爪は標的に到達する前に受け止められた。

 助かった魔法使いはその光景に表情が間抜けに呆けていた。

 初撃とは逆に振り下ろされる爪を攻撃強化系のスキルをフルに使い弾き返した。


「まだまだ付き合ってもらうぞ」


 斧を敵へと向けそう言った男は息が荒くなりながらも笑みを浮かべ突撃し二度目の包囲戦に入っていく。




 ◇ ◆ ◇





 自分では立つことも難しい戦闘を目の前に見せられ自身の動体視力を極限まで集中し代わる代わる局面に首を回しながら弥叉は食い入るように見入ってしまっていた。

 戦いに入る直前何人か鑑定した結果レベルは120~150、先陣を切った斧を持った大男は180を超えていた。

 どちらも弥叉にとっては絶対に勝てないような強者。

 レベルはガルロルフが勝っているが数の不利を覆せるかは分からない。

 もしかしたら短期決戦になるかもしれないと思っていた弥叉が見たのは、ガルロルフの攻撃を捌く速度、余波が出るほどの攻撃、一瞬で移動する脚力、何時溜めたのか分からない速度の魔法。

 それに対応して剣で盾で斧で魔法で防ぎ反撃していく冒険者パーティー。

 目の前に起こっているはずの戦いの凄まじさに映画の中にでも入ったような錯覚まで起こさせる。


『グオオォンッッ!』


 そんな現実離れした光景から覚まさせるようにガルロルフが最初の登場時に放った咆哮と同じぐらいの声で吼えた。

 ハッとなって自分が軽く現実逃避し出していた事に気付き自分の役割を思い出した。

 囮になったガルロルフの子供の救出。

 冒険者達は標的が来て必要がなくなったのか、ガルロルフを全員で当たらなければ対処できないからかは弥叉には判断しかねたがどちらにしろ子供の周りには誰もいない状態になっている。弥叉が待機している位置からなら戦闘に接触せずに子供のところまで行くことが可能だった。

 再度冒険者を見る。

 全員がガルロルフのしか見ていない。


(行けるか・・・)


 悩むなら行けと部屋の陰に隠れるように弥叉は飛び出した。

 子供の元まで行くまでに凄まじい音と地鳴りが起こったが無視して走り続ける。そして無事子供の元につくことができた。再び戦闘に目を向けたが冒険者が俺に気付いた様子は見られない。


 (後は逃げるだけだ)


 子供を抱え走り出す。

 抱えた子供は救出知ってると思ってないにかやたら暴れる。・・・上手く走れない。


 ガシャッ


「!?」


 金属の甲高い音。

 発生源は子供ガルロルフを拘束している前足と後ろ足のぶつかり合い。

 俺は足が止まり、戦闘している方に視線を向けた。

 先程の激しい攻防が嘘のように全員の動きが止まっていた。

 その視線の先はすべてこちらに向いている。

 今だもがく子供以外の全員に沈黙が流れた。

 しかしその沈黙も一瞬、一番に動き出したのはガルロルフ冒険者の攻防戦は止め、こちらへと近づこうと行動する。

 次に復活したのは意外にも最初に脱落しそうになった魔法使いで詠唱し始めた。

 次々に我に返っていき冒険者達はガルロルフの行動を阻害していく。

 最後に復帰したのは弥叉で逃げるように出口を目指した。

 だがやはり一番遅かったというタイムラグは覆られない。

 魔法使いの詠唱が完成し弥叉に向かって火の玉が飛んできた。

 速攻で詠唱することができる初級魔法ではあるが使い手は人族上位の魔法使い。火の玉は大きく弥叉では避けきれそうにない。

 弥叉は咄嗟に近づく火の玉から守る様にガルロルフの子供を懐にしまい体を丸めた。


「ア゛、ギギャアアアアアアァァァァぁぁぁぁぁぁ!!!」


(熱い!熱い!あつい!あつい!あ、つ、い!!!)


 火の玉が背中に当たり背中を中心に肩や尻の方まで火傷になり火の玉による痛みに火傷の痛みも足して激痛となってその場に転げ回る。HPもごっそり削られたのだろう。

 身体に力が入らなかった。

 呻き続ける弥叉はそれでも戦場へと視線を向けた。

 あの死にかけた猿との一戦が敵を見失う事の怖さを刻み込まれた為にできた行動だ。

 その視線には魔法を放った奴を引き裂きこちらに近づいて来るガルロルフの姿。俺の元まで来ると身体を咥えて走り出した。

 後方で遠ざかっていく冒険者の姿が見えた。






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