S3、中庭の戦い
会場から見える城外の中庭に移動した隆とエルギンは模擬用の武器を持って対峙していた。
城外には二人の周りを囲むように会場にいた招待客が観戦する。観客も勇者の実力がどの程度なのか楽しみな様でかなりの人数が外に出ていた。
模擬用の武器を借りる際に訓練をしていた兵を何人か借りて審判に付けてもらったので万が一の状態になっても大丈夫だろう。
鑑定で出来るだけ情報を取ろうと見たエルギンの鑑定結果は、
エルギン グランバード
性別:男性
職業:貴族
年齢:15
種族:人族
重要な戦闘力が見れなかった。
代わりにステータス状のものを再鑑定はできる様でグランバード家の詳細が表示された。
鑑定のようなレベルの無いスキルは育たない。
このままだとすると出し入れ出来る図鑑みたいなものと考えた方が良いな。
それよりエルギンって僕らより年下だったのか。見た目がこっちの世界の人って外人みたいだから目視で判断しようとすると高く見えるんだよな。
そういえば髪の黒い人って見てないな。逆に金髪は多いのはやっぱり異世界って事か。
「リュウ様は勝てると思いますか?」
「どうだろうな・・・向こうの世界でなら武術で有段者の隆が負けるのは考えにくかったけど、こっちはステータスもあるから判断しにくいな」
「エルギン殿も頭は足りませんが武家の家の息子。まだまだ未熟な所もありますがあの年齢にしては実力がありますからね。意外といい勝負になるかもしれません」
「だといいな」
隣に来て声をかけてきたのはこの国の宰相閣下の孫娘でこれから通う学園の先輩にして生徒会のメンバーの一人であるシャリ―・ユグシル。
会場に入れない王女のウィアがホスト役として付けてくれた彼女はサポート候補外なので下心もなく話してくれるのでこちらとしても話しやすい。
ちなみに真希は会場内からでも見れるんならここにいると場内のテラスから高みの見物をしている。
「そろそろ始まりますわね」
審判を務める男が二人の真ん中に立ち手を上げていた。
「ではこれより勇者隆とエルギン・グランバードによる決闘を開始する。決着は降参かとどめを刺す寸前まで追い込むこと。間違っても再起不能にしたり殺すような攻撃は放たないように」
◇ ◆ ◇
中庭について武器を取ってから向こうの世界で武道の試合をする前のような緊張感が込み上がってくる。
相手は異世界の貴族で武家の家系っていうだけあって体格は日本人にしては大柄で恵まれた体系だと言われていた俺と大差ない。
剣を持つ姿も様になっている処を見ると武器の扱いでは不利そうだ。
雄也はどう思っているか知らないが普通の試合なら負けているな。
向こうでは武道の技は多々覚えたが武器を相手に想定した技なんて存在しないし武器を使った技も教わってない。それに正直武器も日本人に合った刀ではなく少し大きい西洋の剣だから振りにくい。
まるで初めての試合の時みたいだな。
不利だというのに自然と笑みがこぼれた。さっきまでの不愉快な気持ちはすでにない。
「勇者が負けるところを観衆の面々に見せてやるよ」
エルギンが挑発するように睨んでくるが気にはならなかった。
早くこの世界で力を振るってみたいという気持ちが勝っていた。
「ではこれより勇者リュウとエルギン・グランバードによる決闘を開始する。決着は降参かとどめを刺す寸前まで追い込むこと。間違っても再起不能にしたり殺すような攻撃は放たないように」
訓練していた兵の人が俺とエルギンの真ん中の立ち注意をして手を上げた所で構えた。
「では」
相手も構えを取った。
「はじめ!!」
「はああああぁ!」
開始と同時にエルギンが先制の突きを放ち、それを剣で逸らして避けると距離を取った。
いきなりの攻撃にヒヤッとする。
鋭い突きだ!
肩ではなく身体の中心を狙っていたら逸らすことは難しかった。
エルギンの方も一撃目を防がれたからかすぐには攻めてこない。一呼吸の間が空いた。
今度はこちらから攻めに入る。
距離を一気に詰めると剣筋を読まれるのも考慮した胴への一撃を放ち、防御した剣がぶつかると剣への力を緩め相手の力を利用して一回転し逆胴を狙う。予想していた程力の籠っていない攻撃に剣が流れてしまいエルギンは防ぐことが出来ずに後方へと逃げる。
虚を突いたと思ったが後方に逃げてからの剣の通過までまだ余裕があるように見える。
今ので俺の剣術の腕も知れただろうし、もう先ほどのような攻撃ではカウンターを喰らうだけだろう。選択肢が狭まれていく。
そんなことを考えているうちにエルギンが距離を詰め攻撃をしてくる。
何合か打つと剣が追い付かず身体ごと逃げないといけなくなる。重い攻撃に手が痺れてきた。
やはり剣の腕ではエルギンのが数段上だ。
長引けばこちらがどんどん不利になっていくのが分かっていても攻撃に転じれない。
これは勝てないかな?
「いくら逃げても時間稼ぎにしかならねえんだからさっさとくたばれや」
そうだな。そろそろ潮時か。
何度目になるかの剣同士の激突。ついに俺の手から剣が離れてしまい観衆からは悲鳴が上がる。
剣を離したことを見て勝利を確信した余裕の顔でこちらを見ていた。
隙だらけだな。
「な!?」
俺はがら空きになったみぞうちへと拳を叩き込んだ。
手に硬いもので防がれた感覚が伝わる。こいつなんか着こんでやがる。
勝ちを確信していたエルギンの顔が戸惑いに代わり困惑した声が上がる。
この隙を見逃す気はない。
剣を持つ腕を掴みそのまま背負い投げに移りエルギンを背中から地面に落とす。受け身を知らないのかダメージを逃がすことが出来ずに叩き付けられその拍子に剣が手から離れた。
呻き声が聞こえる。
最後に倒れたエルギンの顔へ拳を振り当たる寸前に止めた所で立ち会っていた兵が止めに入れた。
拳を引っ込めるとエルギンは何が起こったのか分からないって顔でこちらを見ている。
「勝者勇者リュウ」
勝利宣言がなされ観衆から拍手が起こった。貴族人達が我先にと集まってくる。
その大半が女性で戦い以上に戸惑った。
ちょっとこういうのは苦手というかなれない。いつもこの役って雄也がされているのを傍から見ているだけだったからいざ自分がされるとなんか恥ずかしいな。
雄也は嬉しそうに笑ってるし真希はテラスから場内に戻ってしまって助けはない。
「剣が飛ばされた時はどうなるかと思ったよ」
「最後のあれってどうやったんですの?」
「エルギンは結構な使い手だっていうのによく勝てたよな。流石勇者だ」
みんな口々に話すので俺は何も話していないのに話が進んでいく。
「しかし聖剣を抜いたのはあちらのユウヤ様でしたよね」
「では勇者とはみんなこんなに強いって事?」
「召喚されたばかりなのにこんなに強いだなんて」
なんか隆だけじゃなく雄也も真希も勝手に評価が上がっていく。エルギンはステータスでは完全に俺より上だったから武道の技がなかったら負けていただろう。二人は武道はしてないしホントにステータスの数値分の動きができるかも不安があるからそんな過大評価されても困るんじゃ、
「いや、あいつらは・・・」
「ハイハイ。皆さんそろそろ会場に戻りましょう。時間が無くなってしまいますわよ」
訂正しようとしたら雄也の隣にいた生徒会役員の人が手を叩いて止めに入られてしまった。
周りにいた人達は話すのを止めて会場に戻るように散らばっていく。もう訂正することが出来なくなった。
その後の会場では隆の実力と二人の勇者も同じくらい強いという話でが広がり瞬く間にその親や付き人などを通して場内中の噂となり、隆ほどの戦闘も雄也ほどの頭もない真希は頭を悩ませることになった。
◇ ◆ ◇
結局、魔法については僕らでは対処できないという事で話は纏まり、申し訳ないがまたウィアに頼んでみることで話がついた。
それまでは真希にもスキルを増やしていくことになった。
この話を聞くと真希のテンションが下がるのでこの話は打ち切り、今度はお互いに気になった人物について話し始める。
同じ人物を選べないので被らないようにするためだ。
まだ余裕があると言ってもある程度は候補を絞っていかないとな。




