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とある、宰相様と錬金術師。〜冷徹宰相が仕組んだ仮面舞踏会。見習いはその夜、魂を縛る契約印を刻まれる〜  作者: 佳月


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メーア様



「それじゃ、行ってきますー」

「いってらっしゃい」


 収穫のための準備を終えた私は、リヒトに一声かけるとドアを開け、工房の外に広がる森に繋がる道を歩き出した。

 しばらく整えられた道を歩いていると、前方から空色のアフタヌーンドレスを着た女の子が歩いてくるのが見えた。


(あら? あの金の髪色に、あのドレスは……。)


 私は急ぎ足で彼女に近づいた。私に気づくと、彼女の顔にはフンワリと花が綻ぶような笑顔が広がる。先帝の娘で、現王の妹である王女メーア様だ。彼女の頭部はまだ私より少し低く、今日もいつになく、守らなければいけないと思わせるような儚げな雰囲気を纏っている。


「こんにちは、メーア様」

「こんにちは。お久しぶりね、シンマァ」


 メーア様は誰が見ても分かるほどにリヒトに好意を寄せている。その切なげで一生懸命な眼差しは隠しようもないが、肝心のリヒトはと言えば鈍感にも程があるというものだ。その様子を傍で見守る師匠と私は、いつも焦れったく思い、何とかしてあげたいと願っていた。


「えっと……その、シンマァ……? 工房には……今……」


 顔を赤らめて指をいじり、俯き加減なメーア様に、私はふと微笑ましくなった。フフッ、可愛らしいなぁ。


「リヒトは今母屋の方ににいますよ。師匠は用事で外に出ていて、私も今から収穫に向かうところです」


「そうなの……。母屋……お邪魔しても大丈夫かしら……?」


 リヒトがいると聞いて笑顔になったものの、私と師匠がいないと分かると、邪魔にならないか不安なのか彼女の表情が少し曇った。


(そんなこと思わなくていいのに。リヒトはメーア様が来る日と来ない日では気分が違うし、今体調を崩してピリピリしているはずだから、彼女に会えばきっと気分も良くなるはずだ。)


 私は彼女の小さな手をそっと取り、耳元で声を潜めた。


「メーア様、リヒトは昨日夜更かしして本を読んでいたそうで、寝不足で少し風邪気味なんです。ひとまず母屋で休むように伝えたのですが……。あのリヒトのことです、母屋でも勉強していそうで。もしよろしければ……側で見張っていて差し上げてくれませんか? 彼、錬金術のこととなるとすぐに無茶をしてしまうので、メーア様が隣にいてくだされば、きっと彼も大人しく休むはずですから」


 私の言葉を聞いた途端、彼女の瞳が陽光を浴びた宝石のようにパッと輝いた。


「……本当? そんなこと、私に任せてくださるの?」


 彼女は頬を上気させ、まるで宝物でも見つけたかのように微笑む。その笑顔には、隠しきれないほどの期待と、彼を助けたいという健気な決意が滲んでいた。


「ええ、もちろん。メーア様以外には任せられません」


 彼女は小さく頷くと、私の両手をぎゅっと握りしめて「頑張るわ」と小さく呟いた。その健気な横顔を背にして、私は彼女が勇んで母屋へと向かうのを、温かな気持ちで見送った。



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